001
事故に遭ってから数日が経った。
いや、すまない。あれは事故じゃなかった。
あと、あの赤ん坊の声な。あれは俺の声だった。
え? 赤ん坊は俺のようにしゃべらないって? 正解だ。
つまり、俺は転生したらしいんだ。あぁ、いや、転生したんだ。俺は今、赤ん坊なんだよ。それは確かだ。
それでな、今聞いて貰ってる通り大人のようにしゃべれるんだ。
あー、おかしくなったわけじゃないんだ。
読んだことないか? Web小説とかで。死んだけど、記憶を持ったまま転生して赤ん坊として生まれてくるやつ。
あ、読んだことない? そうだな。ここにはパソコンなんて無いだろうし。
「あーだー」
「うー」
「○△□※…」
ちなみに、話してる相手は母親だ。もちろん、本当に話せてはいない。あーだー とか うー とか言ってるのが俺だ。だが、人に話すと考えをまとめやすいというからな。話す相手は主に母親で、たまに父親だ。
それから、母親の話してる言葉が分からない。言語チートなしだ。まさかゼロから言葉の覚え直しとはな…。結構辛いな。相手の言ってることが分からないのがこんなに不安になるとは。Web小説だとそんな描写無かったんだけどなぁ。
まぁ、仕方ない。せっかく生まれてきたんだからこの世界を楽しもうじゃないか。
どうやら異世界のようだしな。
そんなわけで、俺は異世界転生しちまったらしい。
死んだ記憶は無いんだがなぁ。
あぁ、記憶と言えば全部覚えてはいないようだ。
両親とか、家族とか。あとはさっき言った通り、死んだ時の記憶も無い。
覚えてるのは三十くらいまでで、婚活してたことくらいだな。
うん、どうでもいいところしか覚えてないな。
親兄弟とか友人とかが全然思い出せないからか、前世に対する未練とか思い入れとかが無いのは…良いことなのかな。
死んで転生したんだったら戻れないんだろうし、その方が良いか。
こんなにさっぱりしてるのも転生の影響かねぇ。
さて、異世界転生と断言してるわけだけど…。
もちろん証拠がある。
それは俺を抱っこしてる母親だ。
整った美人の顔。これはいいんだ。
問題はその顔のパーツ。
銀髪に赤い目。
そして病的に白い肌。
極めつけは口から覗く二本の牙。
どう見てもヴァンパイアです。
ヴァンパイア以外に見えるなら教えてもらいたい!
完全無欠にヴァンパイアだ…。
最初は美人の母親だー! とか思ったんだけどね。
銀髪に赤い目で、ファンタジーだ―! とかも思ったさ。
でもね、口から覗く二本の牙!!
これは…、これはヤバいかもしれない。
ヴァンパイアってさ、往々にして人類の敵じゃん?
迫害されてるか、敵視されてるか。まぁ、万に一つの可能性で仲良く共存してるかもしれないけど。
うーわー。どうしよー。人類の敵だったらどうしよー。
異世界楽しめないじゃんっ!
うおおおおおおお
どうするんだぁ~!!
じたばた じたばた
はぁはぁ。
あ、俺がぐずらないと見た母親によってベビーベッドに寝かされています。
じゃないとじたばたできないよね。まだ首も座ってないからね!
はぁ~、まぁまだ人類の敵と決まったわけではないし。
赤ん坊だし、のんびりいきますかね。
あ、そうそう。家は木造で、家具も木製だ。ランタンは無くて、光源として光の球が浮いている…。
魔法だぁぁぁぁぁ!!
テンション上がりました。