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 建物と建物の間にある中庭。中庭と言ってもルフツネイルの敷地は広大で、一番近い建物でも霞んで見える。そこにこんなにいたのかと、驚くほどの数の警備兵達が整然と並ぶ。


 そしてその先頭にいくやいなや「フウゥゥゥゥゥン」とポージングを取るバルガス。途端に警備兵から一斉に掛け声が飛ぶ。


「バルガス先生背中に羽がはえてる!羽がはえてるよ!」

「仕上がってます先生!」

「ナイスカット先生!」


 その様子をなんだこりゃと、呆れた眼差しで見つめるフェンリル。掛け声が一段落して、バルガスの怒号が警備兵達に落ちる。


「お前達は弛んでおる!各国の要人を預かるこのルフツネイルにおいて、短い間に一度ならず二度も侵入者を許すとは何事だ!」


警備兵達の表情が引き締まる。


「いずれ再度抜き打ち訓練を致すが、今回の訓練はこれで終了と致す!」


 訓練と聞いてざわつく警備兵達。フェンリルは、バルガスは伊達に名門校の講師をやってないと感心する。


 生徒がいる時ならこんな事は出来ないが、休校である今なら大がかりな訓練と言ってもまかり通る。訓練という事にすれば、フェンリルの不法侵入も訓練の一環という事で処理され、弛んだ警備兵たちの緊張感を保つ事も出来る。


 唯一の問題はフェンリルが壊した壁の修理代だが、それはマスターであるルークの問題だ。何よりフェンリルは無一文である。


「それでは、次はワシ自ら魔獣との戦い方の手本を見せよう。ワシの斬馬刀をこれに」


 斬馬刀は、通常馬上から攻撃するための大太刀の事を言う。 が、警備兵三人がかりで運んでいるバルガスの斬馬刀は明らかにそれらとは違う。長さは三メートル程だが、太さが女性のウエストぐらいある。刃がついていなければ、ただの鉄棒と変わりない。


 あんなもん扱えるのか?と思ったがバルガスは片手で軽々と振り回している。


「そういやあいつも誰かの加護を受けてんだったな」


 かなり昔に加護を受けたらしく、臭いが混ざって誰のものかははっきりしない。


「パパ大丈夫ですか?」


 ネルはバルガスの様子を見て、不安になったのだろう。それを落ち着かせるようにフェンリルはニヤリと笑う。


「男の戦いっつーやつを見せてやんよ。おめぇもママを守れるぐれぇ強くなんな」


 はいと元気よく返事するネルの声援を背に受け、フェンリルはバルガスと対峙する。


「手加減はしねーぞ禿げ!」


 得物が長ければ射程は長くても、内に入り込めば小回りは効かない。何よりあんな長い得物で、自分のスピードについて来れるわきゃねぇとフェンリルは小細工なしに突っ込む。


「これは禿げているのではない。剃っているのだ!」


バルガスの筋肉が盛り上がるのを見て、フェンリルは後ろに飛ぶ。


 斬馬刀は、後ろに飛んだフェンリルの首筋ギリギリを掠めていった。そのまま突っ込んでいってれば、胴と頭がさよならしていただろう。


あれだけ重い斬馬刀でも、カイルの剣よりも鋭く速い。


「ワシの渾身の一撃をかわすとは中々やるな」


「ここは奇人変人の巣窟だったか。楽しめそうだぜ」 


 二人の言葉は、固唾を飲んで見守っていた警備兵達の歓声にかき消されていった。


 斬馬刀を頭を低くしてかわすと、かなり遅れて身体を持っていかれそうな程の風圧がフェンリルを襲う。


 普通の人間ならば、攻撃終わりは必ず隙が出来るものだが、バルガスの返しは尋常でない速度で射程も長い。剣風で体勢の崩れたフェンリルには、懐に飛び込む事が出来ない。


実力の無い者ならともかく、バルガス程の手練れを殺さず倒すのは難しい。


 バルガスの全体重を乗せた上段切りを、皮膚が剣に触れる程ギリギリでかわすと斬馬刀は地面を抉り、その刀身は殆ど地面に埋まった。


「もらったぜ!」


 フェンリルは、初めてバルガスが見せた隙を突こうと、嫌な予感がしつつも飛び込む。


「ふうん!」


 バルガスの気合と共に、埋まった場所と違う地面からフェンリル目掛けて斬馬刀が襲う。土中で剣を反転させ、勢いをつけて埋まった剣を力のみで持ち上げたのだ。


「この馬鹿力が!」


 まさか土中から攻撃してくると予測していなかったフェンリルの反応が遅れ、何とか転がりかわして炎をバルガスに向けて撃ち出す。


 こちらも意表を突いた攻撃。だがバルガスは、しっかりと剣の腹で炎を受け止めダメージはない。


 通常剣で魔法を防御など出来ないが、バルガスの斬馬刀の厚さは下手な盾よりも分厚い。常人ならば持ち上げる事さえ出来ない斬馬刀が、バルガスが扱えば攻防一体の武器となる。


「あれをどうにかするしかねぇ」


 フェンリルは呟く。命を奪う必要はない、あの厄介きまわりない斬馬刀を奪えば決着は着く。


「おめぇも武器使ってんだ。俺様も使っても問題ねーな?」


「勿論だ。ここにある物なら好きに使えばいい」


 その答えを聞いて、警備兵と共に待つシルフィとネルの元にフェンリルは歩み寄る。


「パパ」


「フェンリル」


 心配そうな二人にフェンリルは「次で終わらせるから、帰る準備しておきな」と軽口を叩く。


「しっかり瞼に刻んでおきな」


ネルの肩をポンと叩き、ネルが何かを言いかけたが、フェンリルは警備兵の腰から剣を引き抜きくわえると、バルガスと再度向き合った。張りつめた空気に、その場の緊張感は否が応にも高まっていった。


 先に動いたのはバルガス。バルドルに向けてフェンリルは、くわえていた剣を投げる。投げられた剣は、簡単に弾かれ意味をなさなかったが、最初から官給品の安物などに期待などしてない。


 バルガスの斬馬刀とまともに打ち合えば、一合も持たずに折れてしまうだろう。目的はほんの零コンマ何秒の時間を作る為であり、本当の目的に気付かれぬようにする為の物。


 作った時間で炎を生み出し、受け止められぬようバルガスの足元に向けて撃ちだす。


 爆煙に包まれたバルガスに向けて、フェンリルは続けざまに炎を撃つ。斬馬刀は厚く簡単に炎を受け止められるが、その厚さは視界も同時に奪う。視線が切れた瞬間、フェンリルは空に向けて跳ぶ。


 空中では方向転換が出来ないが、フェンリルを見上げたバルガスは眩しさに目が眩む。フェンリルは、何も考えずに空中に飛び出した訳ではない。角度を計算して、太陽を背にするように跳んだのだ。


 空中から更に炎を撃ちだすと、バルガスは空中にいるフェンリルに攻撃をする事を諦め、斬馬刀を横にして受け止める。そのままフェンリルの攻撃も受け止めて、着地した瞬間に攻撃してくる腹積もりだろう。


 フェンリルと斬馬刀が交差する。だが斬馬刀で受けたバルガスは、フェンリルの体重以上の衝撃を感じない。


 フェンリルの本当の狙いはこちら。斬馬刀と触れた前足の間にあるレーヴァテインの欠片を、増幅器にして魔力を流し込み着地する。


 着地したフェンリルに向けて斬馬刀が振られ、フェンリルはその場を動かぬまま完全に振り切られる。


驚愕に顔が歪んだのは、完全に捉えたと思ったバルガスの方だった。


 遥か先でフェンリルを切断するはずだった斬馬刀が、ドスンと重い音を立てて地面に突き刺さる。


 呆気にとられるバルガスが握っているのは、柄の部分のみ。そして二人の間に小さな炎が生まれ、バルガスに命中して静かに消えた。


「俺様が本気なら今のでおめぇは黒焦げだぜ」


 斬馬刀の無くなった接合部分は、完全に溶けている。鋼が溶けるには、1600度程の熱量が必要だ。


 それを一瞬触れただけで完全に斬馬刀を破壊したフェンリルの力に、バルガスは驚嘆し素直に己の敗北を認める。


「ワシの人生においてワシを負かしたのはお前で二人目だ。いい勝負が出来た」


 その様子を固唾をのんで見守っていたネルが、シルフィを見上げ「パパが勝ったです」と喜びの叫びをあげる。


 最初はバルガスの敗北を信じられず静かだった観衆から、歓声が津波のように広がっていった。





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