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(6)

 緑の草原を思わせる芝生の上を、フェンリルはその背にネルを乗せて駆けていく。ルフツネイルの敷地内は、侵入者に対して大騒ぎになっているが、隠れるところもないのだから、強行突破あるのみだ。


 フェンリルは、行く手を塞ぐ警備兵を迂回して突破する。馬に乗っているならまだしも、徒歩の歩兵など少し回るだけでフェンリルのスピードには、ついてこれない。


 内側の壁に近づいてくるとフェンリルは、力を収束させ結界ごと壁に大穴を開ける。穴から中に飛び込むと、目に飛び込んで来たのは十以上並ぶ建物。


「ネル!シルフィが何処にいるかわかるか?」


「わかんないです」


 予想通りの答えが返ってくる。フェンリル自身も、数百年前に別れたシルフィの匂いなどよく覚えてはいない。


糞っ!無駄に広すぎんぜと、手近な建物の中に飛び込む。


 通常時であれば沢山の生徒で賑わいを見せるルフツネイルも、休校していて生徒達は全て帰郷している為人の姿も疎らだ。


 建物の中を駆け抜けるが、記憶にあるような匂いはしてこない。最初に飛び込んだ建物の捜索を諦め、次の建物に移動しながらフェンリルは後悔する。


(俺様とした事が何も考えずに勢いだけで飛び込んじまったぜ)


 匂いを頼りに探したとしても、匂いの漏れにくい部屋にでもいれば見逃してしまう可能性もある。とにもかくにもルフツネイルの敷地は広大で、その広さは住んでいるカダルフィーク村を遥かに上回る。


 そしてフェンリルの瞳は、唯一出会うと面倒だと思っていた男の姿を捉える。


季節は秋だというのに、上半身は裸


自ら光を発しているような見事なスキンヘッド


名匠が彫った男性像の彫刻の、割れた腹筋よりも主張しまくっている筋肉


 フェンリルは足を止め、その男と睨み合う。その男とは、そうルフツネイル剣術師範バルガスその人である。


「お前は何時ぞやの狼ではないか。マスターのルークはどうした?」


 野太い低音で、バルガスはフェンリルに問い掛ける。重低音の声が怖いのか、それとも顔が怖いのか、フェンリルの背中でネルがヒッと小さな声を上げる。


「俺様のマスターなら、おめぇに殴られすぎてちょっと小さくなっているが元気だぜ」


「はっはっ中々冗談が上手いな。人間が殴られて小さくなる訳なかろう」


「本当だぜ。ついでにちょっと頭もおかしくなっちまってるから、次会った時おかしな事言うかも知れねーが勘弁してやりな」


その時、背後から迫る警備兵の足音


「バルガス殿~そいつが侵入者です。捕まえて下さい!」


 フェンリルはチッと舌打ちして、横を駆け抜けようとするが、バルガスにそれを許すような隙はない。


「さっきから騒がしいと思っていたが、お前が侵入者か。残念だが悪を見過ごす訳にはいかん」


その言葉を聞いて、怯えていたネルが言葉を発する。


「悪はそっちです!僕のママをさらったです!」


バルガスは警備兵を、手で制する。


「人さらいとは穏やかではないな。だがここは学校であって犯罪組織ではないぞ。坊主ママの名前は何という?」


名前を聞いて、バルガスは首を捻る。


「先日トルク先生の紹介で、住み込みで働き始めたのが確かそんな名前だったが・・・」


 今度はフェンリルが首を捻る番だった。住み込みで働いているだぁ?いってぇどうなってるんだ。


「この件はワシがあずかる。お前達トルク先生と、シルフィと言う娘がそこで働いているなら呼んできてくれ」


 暫くして階段を降りてきた美しい髪を持つ女性は、確かにフェンリルの記憶にあるシルフィのままだった。


「ママ!」


ネルがシルフィの胸に飛び込む。


「ああネルまた会えるなんて、どうしてここに?」


シルフィもきつくネルを抱きしめる。


「トルク先生これは一体どう言う事ですかな」


 トルク先生と呼ばれた男は、フェンリルも見覚えがある。確かナーガを網で追いかけまわしていた召喚術の講師だ。


「どう言う事だと言われても、私にも何が何やらさっぱり」


「シルフィは連れていく。文句はねーな」


フェンリルの言葉にトルクの顔色が変わる。


「連れていくなどととんでもない!君には彼女の価値がわかってない。いいかい歴史上初めて人間が召喚術で召喚された。しかもだ魂の契約すら交わせたというのは、召喚術の定義を揺るがす大事件なのだよ」


 フェンリルは、シルフィが何故ここに留まっていたのかを理解する。シルフィは魔界の住人である事を隠して、人間として振舞った。だが彼女が生きていくのには糧は必要だ。力の無いシルフィであれば、ただの人間と契約を交わす事も可能だろう。


 しかし契約を交わしたままでは、いくら魔界に繋がる門をスルトが開いたとしても、シルフィはこの世界に縛られ帰る事が出来ない。


「契約を破棄しな。嫌なら力づくでも破棄させるぜ」


トルクがフェンリルの迫力に後ずさる。


「まあそういきり立つな。本人の意思が一番大切だろう。シルフィさんはどうしたいのかね?このままトルク先生の元で働くか、この者達と一緒にいくのか」


 シルフィは静かにだが、はっきりと「息子と一緒に帰ります」と言い切った。


「そうはさせん!彼女とは契約を結んである。つまり彼女は私の所有物という事だ」


 バルガスはふむふむと頷くと「古来より人は譲れぬ物がある時どちらが優れているのかを競い奪い合ってきた。オールオアナッシング勝った方が全てを手に入れるではどうかな?」


「俺様はそれでいいぜ。そいつをぶっ飛ばせばいいんだな」


バルガスに、異論を唱えたのはトルクだった。


「バルガス先生!私は喧嘩はからっきしですよ。余りに横暴です」


「確かに・・・余りに実力がはなれた者同士が戦っても意味はない。そこで提案なのだが、トルク先生の代理にワシがやるというのではどうかな?」


こいつ最初からそのつもりだったなとフェンリルは思ったが異論はない。


「バルガス先生がやってくれるなら文句はありません」


もうもらったものだという表情を、トルクは隠しきれていない。


「決まりだな。すまんがワシの斬馬刀と警備の人間を全て中庭に集めてくれ。シルフィ殿それで構いませんかな」


「私の為に二人の男が争うなんて、なんて罪な私」


異論はないようだ。


「おめぇ最初っから俺様と戦いたかっただけだろ」


フェンリルにバルガスは、犯罪者も裸足で逃げ出す笑顔を返す。


「何の事かな。言っておくが壊した壁の修理費は請求させてもらうぞ」


「俺様はただの使い魔だからな。請求はマスターにしてくれ」


 後日、壁の修理費の請求がルークにされるのだが、それはまた別の話である。

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