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 漆黒の狼は、一陣の風の様に走る。その背中には、漆黒の狼をミニチュアにしたような子狼が、振り落とされまいとしっかりと掴まっている


「凄い凄い!速いです」


 背中ではしゃぐ子狼のネルを傍から見れば、この二頭が親子ではないと疑う者など皆無だろう。


「もう随分走った気がすんが、シルフィのいるとこはまだ遠いのか?」


「僕の足で十日ぐらいかかったからまだまだですよ」


 子狼の足で十日なら、俺様なら一日半てとこだな。ビロードを思わせる美しい光沢と手触りの髪を持つ美人、シルフィとフェンリルが出会ったのは数百年前。どちらかと言えば、フェンリルではなくシルフィの方が積極的だった。


 まあ俺様はモテたからなと、フェンリルはシルフィとの甘い日々に想いをはせる。しかし最後は煮え切らないフェンリルに業を煮やして、シルフィから別れを切り出したはずだ。それが何で今更、俺様の子供だなんてのが出てくるんだ?


「おいシルフィは何で人間界になんか来てやがんだ?」


「わかんないです。僕の目の前でいきなり青い光に包まれて消えたです」


青い光?召喚術か!時期を聞いてみれば、マスターのルークと一緒に魔導都市ファンリにいた頃、誰かにシルフィは召喚術で呼び出された事になる。


 ルークの場合、古き神の一人バルドルが手を貸していたからまだわかるが、通常人間の使う召喚術では神界にも魔界にも繋がらない。人間界との壁が曖昧になってきているのか?


 冷静に考えて見れば魔界や神界の者が、人間界の門を開くのだってかなりの力が必要だ。フェンリルの知っているシルフィにはそんな力はない。


「おめぇはどうやって人間界に来たんだ?」


 母親のシルフィにそんな力がないのに、幼児のネルにそんな力があるはずもない。


「スルトおじさんが送ってくれたです」


 急ブレーキをかけたフェンリルの背中から、ネルは慣性の法則に逆らうことが出来ず前へ放り出される。


 フェンリルは宙を舞うネルを空中でキャッチして、静かに地面に降ろす。


「スルトだと・・・洗い浚い全部吐いてもらおうか」


幼いネルも自分の失言に気付いて、口を押えているが後の祭りである。


 炎の剣レーヴァテインを持つスルトは、フェンリルとは因縁浅からぬ仲である。つい先日も、ルークの魂を争ってフェンリルとはやりあっている。


 ネルは死んでも言うものかと、必死で口を押さえている。フェンリルはその姿を見て、ネルをその場に残し来た道を引き返す。


「どこいくですかパパ」


「帰ぇるんだよ。これ以上茶番に付き合ってられねぇからな。それと俺様はおめぇのパパじゃねぇ」


「待ってです」と前に回り込むネルの目には涙が溜まっている。


 ルークならこの姿を見るだけで、何でも許してしまいそうだが、生憎フェンリルはルークではない。


「だったら全部話しな。それからどうするかは、俺様が判断する」


 話さなければフェンリルの協力を仰げないと悟ったネルは、渋々と語り始める。


「ママがいなくなってから、僕スルトおじさんのお世話になってたです」


 小さな子供が、魔界で一人生きるのは難しい。他人の子供の面倒を見るなどと酔狂な者も滅多にいないが、スルトは魔界ではかなりの変わり者だ。


「おじさんはママがいるところも見つけてくれたです。でも、そこからは男なら一人でやってみろと言われたです」


 ネルの口が重いのも、一人でやれと言われたのに助けを求めているからだろう。


「シルフィの居場所がわかってんならおめぇが連れ出せばいいだけだろ?」


「ママがいるとこは結界が張ってあって入れないです」


 人間が張った結界程度で、どうしようもなくなるような子供なのだから最後まで面倒を見てやればいいものを、全てには手を貸さないのは無骨な武人スルトらしいと言えばスルトらしい。


「おめぇ帰りはどうするつもりだったんだ?」


 来る時は、スルトが人間界の扉を開いてくれたのだろうが、そんなものはとっくに閉じてしまっているはずだ。


 扉を開けばどこにでも行ける訳でもない。移動して扉を開けば、移動しただけ扉の出口も移動する。


「帰る時はこれで連絡したらおじさんが扉を開いてくれるです」


ネルが耳から小さな赤い玉を取り出す。


「レーヴァテインの欠片か」


 神器の欠片ともなれば、魔界との連絡ぐらい出来る力がある。そこまでしてやるなら、最後まで面倒見ろよとフェンリルは毒づく。


このまま連れて帰って、子供じゃないとネルに説明させたとして・・・


「こんな子供を嚇して嘘つかせるなんて酷い」

「貴様は最低な奴だな」

「お前さん親としてそれはいけないぞ」


 三人の反応が、脳裏に浮かびフェンリルは嘆息する。


 どちらにせよフェンリル自身の疑いを払しょくするには、母親であるシルフィから説明させるのが一番だ。


「しょうがねぇ乗りな」


ネルは喜び、フェンリルの背中によじ登る。


「ありがとうですパパ」


「パパじゃねぇつってんだろ!おめぇの本当の父親はどうしたんだ」


  背中から消え入りそうな声で「本当のパパは僕が生まれる前に死んだです」


 魔界は力が無い者は、生き残れない。ネルを見れば、父親も大した力を持っていなかったのはすぐにわかる。


「パパ・・・フェンリルおじさんがスルトおじさんと戦ってるのを見たです。こんな強い人が僕のパパだったらいいなって」


 何の事はない、スルトと戦っているところをネルが見て、父親の影をフェンリルに重ねているだけなのだ。一人の寂しさは、フェンリルもよく知っている。


「チッ人間界にいる間だけ俺様が父親の真似事してやらあ」


背中をぎゅっと抱きしめる感触が伝わる。


「おめぇよく俺様がいるところがわかったな」


 ネルがフェンリルのところに来たのも、偶然とは思えない。


「変な人に一回でいいから解剖させてくれって追いかけられてた時に、門番の人が助けてくれてパパの事を教えてくれたです」


 門番?俺様の事を知ってる?何か嫌な予感がすんぜとフェンリルは、ネルの指示する方角に駆けていった 。


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