フェンリルパパ頑張る(1)
フェンリルパパ頑張るから、外伝金色の護り手までは、本編一部である狼は笑い竜は苦悩するを、見てから見てください。
これといった特産品も、特徴もない寂れた村カダルフィーク。そんな村のさらに端、森の側に建つ平屋の一軒家。その庭でカイルの気合の籠った横なぎの一撃が、フェンリルに向けて放たれる。
刃のついてない模擬剣であっても、当たり所が悪ければ十分人間の命を奪えるだけの威力だ。
その一撃をフェンリルは悠々と飛び越え、カイルの後頭部を後ろ足で蹴り地面に着地すると同時に反転して体当たりする。
「どわっ!」
体勢の崩れたカイルは、その一撃を背中にまともに受け、前方向に転がる。急いで立ち上がろうとするカイルの首筋に、フェンリルの鋭い牙が当てられる。
「チェックメイトだぜ」
己の敗北を知ったカイルは剣を放り出し、地面に大の字に寝転がる。
「ちくしょうっ!何度やっても掠りもしやがらねえ」
「まあそうしょげるな、俺様は世界一強ぇからな。親父も人間にしては中々やる方だぜ」
事実フェンリルが相手でなく、普通の人間が相手ならばかなりのレベルだ。騎士の様に型に嵌った剣術ではなく、実戦で培った相手を倒す為の剣術。
剣の腹で土を撥ね飛ばして相手の懐に飛び込むなど、騎士なら間違いなく使わないであろう手も平気で使う。
カイルは剣を握りなおすと立ち上がる。
「もう一度だフェンリル」
再戦を申し込まれたフェンリルは森を一瞥する。
「俺様はいいが、マスターととかげが帰ってきたみたいだぜ」
フェンリルに言われてカイルは空を見る。ルークとナーガは、薬草採集に朝から向かっている。帰って来るにしても随分と早い。
「帰って来てるか?空には何も見えないぞ」
青い空に浮かぶ白い雲よりも白いナーガの身体は、離れていても目立つが
空にはそれらしき影はない。
「そっちじゃねーよ。何でだか知らねーが歩いて帰って来てるみてーだぜ」
カイルにはわからないが、感覚の鋭いフェンリルの言う事だ間違いはないだろう。
「じゃあこっちもお開きだな。運動後の一杯は美味いぞ」
模擬剣を担ぎ家に向かうカイルにフェンリルも続く。
「別にマスターがいてもいいじゃねーか。何か問題があんのか?」
フェンリルの疑問に、カイルは顔を顰める。
「父親ってのはな、子供にとっていつまでも高い壁じゃなきゃいけないんだ。ボロボロにやられてる姿を見せると、父親の沽券に関わる。それとも何か?お前さんルークが見てる時にはわざと負けてくれるか」
カイルの提案にフェンリルは首を振る。
「それは俺様の沽券に関わるからねーな。父親ってのは意外なとこに拘るんだな」
カイルは笑って「お前さんも親になればわかるさ」と家に入っていった。