シャボン玉大好き♪
シャボン玉
PN 月より
「ママー、シャボン玉つくってー!」
「はいはい。」
私は、4歳になる娘と公園のベンチに座り、シャボン玉を飛ばしていた。
「わーい♪シャボン玉、いっぱいいっぱいとんでいくよぉー!」
「ほんとだね」
娘は、澄み切った青空に飛んでいくシャボン玉たちに、飛び跳ねながらよろこんででいる。
私も、小学生の頃からシャボン玉が大好きで、公園でシャボン玉を作っては飛ばしていた。
両親が共働きでいつも一人。でも、シャボン玉を作ると不思議とそんな寂しさは感じなかったし、あの頃毎週金曜日の夕方になると高校生ぐらいの二人組のお姉さんが、その公園でシャボン玉のマジックショーを演じていた・・・。
=== 25年前 ===
「「そーっれ!」」
(わぁー・・・、しゃぼん玉、おおっきい!おねえちゃん、中に入ちゃった)
「「今日は、これでおしまいです。ありがとうございました♪」」
二人組のセーラー服を着たお姉さんは、大きなシャボン玉の中でショーの終わりを告げると、周りを取り巻いていた親子連れやペットの散歩途中に寄った人たちが「今日は楽しかったね!」「また、来週も楽しみにしているよ」と、口々に言いながら家路に着いていった。
「はぁー・・・おわったぁー。今日も楽しかったね!あとり。」
「うん。最後もばっちり決まりましたし。留美さんのおかげです。」
「あれ?あの子、どうしちゃったのかな。帰らないよ。」
「あの子、今日も一番前で見ていた女の子ですね。いつも一人なのが気になりますけど。」
ショーを終えた留美とあとりは、じーっと立っている女の子に近寄っていった。
「いつも見てくれて、ありがとうね♪今日は、楽しかったかな?」
留美は、女の子と目線が合うようにしゃがみ話しかけた。女の子は、うんうんと首を何回も上下に振った。
「お名前、聞いてもいいですか?」
「まいむ、おおぞらまいむ。“まいあがるゆめ”でまいむってママがいってた。」
「“舞い上がる夢”で舞夢ちゃん。とても素敵なお名前です!あ、両手に持っているの、シャボン玉作るおもちゃね。シャボン玉好きかな?」
「うん♪シャボン玉好き。だーいすき!」
「私も大好きですよ。うん、それじゃお姉ちゃん達と、ここでシャボン玉作ろう!」
「うん♪」
それから3人は、大きなシャボン玉を作ったり中に入ったりして、ショーの再現を行い楽しんが、舞夢はどこかさみしそうな表情を浮かべていた。そうしているうちに、日が傾き、公園の電灯に明かりが灯った。
「舞夢ちゃん、今日は楽しかったかな。」
留美はしゃがんで、舞夢の頭を撫でていたが、なぜか舞夢の目には涙が溢れていた。
「ど、どうしたのかな?もし留美さんが、変なことしたのだったら、怒っておきますからね♪」
「えっ?そ、そうなの。ごめんね。また来週の金曜日、とーっておきのショーをお見せするからね!」
留美とあとりは、なぜ舞夢が泣いているのかわからずオロオロしていたが、やがてまいむの口から、涙声でぽつりぽつりと話し始めた。
「ううん。とてもたのしかった。・・・でもね、まいむのおうち、日曜日にとおいところに引っこしちゃうの・・・。もうおねえちゃんにあえないの。まいむ、シャボン玉大好きだけどこんなに大きいシャボン玉できないの。いっぱいいっぱい、シャボン玉つくったけど、すぐこわれちゃうの・・・」
舞夢は、涙を拭いていた両手をだらりと下げて、涙で溢れている目で留美とあとりを見つめて泣いていた。手に握られていたシャボン玉のおもちゃは、小刻みに震えていた。
「・・・そうなんだ。引っ越しちゃうのね。でもね、舞夢ちゃんがこれからもずーっとシャボン玉が大好きだったら、きっといつの日か出会うことがありますよ♪」
「ほんと?でもまいむ、シャボン玉うまくつくれない・・・。」
留美は、舞夢のシャボン玉のおもちゃを持っている手を両手で包み、笑顔を見せた。
「よーし、舞夢ちゃんが上手くシャボン玉を作れるように、魔法をかけてあげる!」
留美の言葉にあとりは少し驚いた表情をしたが、留美は大丈夫と目で答えた。留美は目を瞑り右手に力を込めると、ビー玉大の小さなシャボン玉が浮かんでいた。
「舞夢ちゃん、目を閉じて、口を開けて・・・。そう、今、おくちににシャボン玉を入れたのがわかるでしょ。シャボン玉が上手く作れるようにって、お願いしながら、飲み込んでみて。」
舞夢は、留美の言われたとおり、必死にお願いしながら小さなシャボン玉を飲み込んだ。シャボン玉を飲み込むと、胸の中ではじけて爽やかな感じがした。
「舞夢ちゃん、目を開いてごらん。」
舞夢は目を開けると、留美とあとりが、体全体に淡く輝いているのがわかった。
「おねえちゃん達、白くひかっているよ!すごーい。天使みたい♪」
「私たちが光って見えるのは、舞夢ちゃんが、シャボン玉が上手に出来る“シャボン玉の妖精”になったからですよ。背中をみてごらん?」
舞夢は、言われたとおり首を後ろにむけると、背中から透明な羽ができていた。
「これはシャボン玉で出来た羽だよ。この羽は人間には見えないのだけど、舞夢ちゃんがシャボン玉が大好きでなくなったら消えてなくなっちうの。だからこれからもシャボン玉、大好きでいてね。必ずシャボン玉が割れずに上手くできるからね♪」
「うん!まいむ、ずーっとシャボン玉大好きでいる!おねえちゃんみたいに、大きなシャボン玉作れるようにいっぱい作る♪」
「留美さん、もう6時回ってます。舞夢ちゃんの親御さんも心配されますよ。」
「それじゃ舞夢ちゃん、お別れだね。シャボン玉が大好きなら、きっといつか会えるからね!」
留美とあとりは、指先で宙に円を描くと大きなシャボン玉ができ、その中に入ると、空高く浮かび上がりはじめた。、
舞夢は、飛び跳ねながら両手で腕がちぎれるぐらい空に向かって手を振っていた。シャボン玉はやがて壊れて、星空といっしょに散らばっていった。
==== ====
「・・・ねえ、ママー。ママってばー。」
娘に袖を引っ張られて、少しウトウトしていた私は夢から覚めた。もうあれから25年。今でも、あの出来事は夢ではないかと思うことがある。
「あらあら、ごめんね。シャボン玉作るわね。」
「ママ、ちがうよ。」
「?」
「・・・舞夢さん、起きましたか?」
いつのまにか娘が誰かと手をつないでいた。視線をあげると、自然と涙が込み上げてきた。涙が止まらない。まだ夢を見ているのではと思い手の甲を少しツネってみた。
「留美さん・・・。」
「おはようございます、舞夢さん。私の名前、覚えてくれていて嬉しいです♪」
「留美さん、ジュース買ってきましたよー。」
あとりがジュースを持ってこちらにやってきた。
「私、覚えていますか?あとりです。お久しぶりですね。元気にしてましたか?・・・って、なぜ泣いているんですか?留美さんが、また変なことしましたか!怒っておきますから。」
「そ、そんなことないわよ!いつも変なことしてるみたいじゃない。ね、舞夢さん。」
「・・・うふふ」
留美とあとりは、25年前のようなやり取りをしている。それがなんだかおかしくて、私は涙が止まり思わず含み笑いをしていた。
「かわいい女の子ですね。らいむちゃんってお名前なんですね。」
「ええ。 “来る夢”で来夢と名付けました。夢が叶いますようにって思いまして・・・。」
あとりがジュースを配り一息ついたところで、留美があらためて私に話しかけた。
「・・・舞夢さん、今でもシャボン玉が好きですか?」
「はい。今でも大好きです。でも・・・」
「でも?」
「学生の頃は、留美さんやあとりさんのようになりたくて、いつもシャボン玉を作って、色んなシャボン玉ができるようになったのですが、娘が生まれてからは、なかなか時間がが取れなくて・・・。」
私は、自分の背中についている“シャボン玉の羽”に指で少し触れ、宙に小さく円を描いた。
「・・・ごめんなさい。これぐらいしか出来なくなりました。」
指先に小さなシャボン玉が浮かぶのを見て、私は申し訳なく思った。
「何を言っているんですか!舞夢さん。シャボン液もなしに、指先だけでシャボン玉が作れるなんて、普通、人間には出来ないですよ。ね、留美さん。」
「私は舞夢さんが今でも小さい頃と変わらず、シャボン玉が大好きってことは、ひと目で分かりましたよ。シャボン玉の羽があることもですが、何より・・・」
「もう、ママ、ママーってばー。」
話し込んでいた3人が、来夢が話しかけているのに気づき、視線を下に向けた。
「ほら、らいむもママみたいにシャボン玉できたよー♪」
来夢が両手を上に大きく広げた手のひらから、シャボン玉が膨らんでいき、来夢の身長ほどもある大きなシャボン玉を掲げていた。
「「「ほわぁー・・・」」」
3人は、予想もしていなかった出来事に驚いた。掲げていた大きなシャボン玉が、浮かばずに沈み始め、来夢がすっぽりシャボン玉の中に入ってしまった。いや、両足だけシャボン玉の外にはみ出ていた。
留美は笑みを浮かべながら、シャボン玉に包まれた来夢を両手で持ち上げ、話を戻した。
「何より舞夢さん、私たちにもできていない事が出来ているじゃないですか。こんなにかわいい“シャボン玉の妖精”ちゃんが♪」
「ほら、背中に小さな羽もできてますよ♪来夢ちゃんもシャボン玉がとっても大好きなんですね!」
私は、シャボン玉に包まれた来夢を受け取ると両手で掲げた。来夢はシャボン玉の外に出ている足をバタバタさせている。
(留美さん、あとりさん、ありがとう。私の一番のシャボン玉の魔法を気づかせてくれて・・・。)
“ぎゅるっるるるぅぅー”
留美のお腹の虫がなった。
「留美さん、恥ずかしいですよ。お腹すいたのですか?
「はははは・・・」
「もしよかったら、うちで晩御飯いっしょに食べませんか?今日主人は出張で、娘とふたりなんですよ。カレーライスでよかったらですが。」
「えっ、いいんですか?はい、喜んで!うふふ、カレーライス♪」
留美の目は、輝いていた。
「留美さん、神様としての自覚はないのですか?」
「神様でも、お腹はすくんですぅー。あとりは、晩御飯いらないそうなので、私がその分いただきます。」
「そ、そんなこと言ってません。」
私はふたりのやり取りを聞いていて、思わず口に出した。
「留美さん、あとりさん。お姿が昔と全く変わらないので、私が子供だった頃も感じてはいたのですが・・・。“神様”って、聞こえちゃったのですが、私たちに証しても大丈夫なのですか?」
「「あっ・・・」」
(あとり。私たち神様って人間にバラしちゃダメでしょ!)
(うーん・・・たぶん大丈夫ですよ。)
(・・・あ、そうか。)
二人は声を合わせて、笑顔を見せた。
「はい、大丈夫です。「舞夢さんと来夢ちゃんは、妖精さんですから♪」」
(おわり)