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今日の異世界  作者:
8/12

8

 ◆


 前方に放り投げた火の玉が地面に落ちるのを見計らい、俺は少女を抱えて小部屋に飛び込んだ。

 少女の口を塞ぐ。


「動かず、声も出すな!」


 トーコにも注意を促す。

 頼む! うまくいってくれ……!

 声を押し殺し、様子をうかがう。

 突然の暗闇にまだ目が慣れていない。

 あの蜘蛛は、もしかしたらすぐ目の前まで来ているかもしれない。

 そうなれば終わりだ。

 今までに確認した部屋と同じつくりなら、廊下に併設された小部屋には廊下に出る以外の道はない。

 蜘蛛が正面から迫ってくれば逃げ場はない。


 いくらかの時間が過ぎた。

 緊張しているせいで、時間の感覚が麻痺している。

 5分程度しかたっていないかもしれないし、1時間程度経ったかもしれない。

 とりあえず、蜘蛛が現れなかった。


「撒いたか……?」


 左手に、小さな火の玉を作る。

 部屋の中に蜘蛛はいなかった。


「もうしゃべってもいいですか……」


 トーコがひそひそ声で話しかけてくる。

 俺もなるべく声を抑える。


「ああ、大丈夫みたいだ……。でも大きな声は出すなよ?」


「はい……。エーリ、いったい何をしたんですか? あの蜘蛛はどうなりました?」


「たぶん、火の玉のところまでいって、そこで俺たちのことを見失ったはずだ……。今どこにいるかはわからないな……」


「どうして火の玉に? 光ってるものが好きなんですか?」


「いや、一か八かだったんだが……。俺の世界では、蜘蛛ってのは糸で自分の家を作りそこで暮らす。そして、振動で獲物を探す……」


「振動ですか……?」


「だから、あの蜘蛛も同じかもしれないと思ったんだ……。俺たちを見つけられなかったってことは、多分俺たちが歩く振動を床や壁から察知するんだろうな。――あの蜘蛛がうまく火の玉の方に行ってくれるかは賭けだったけどな……。俺たちが今話してる声も空気の振動だから、察知される可能性がある。だから大きな声は出すなよ?」


「わかりました……。でもこれからどうしますか? また外に出たら気が付かれてしまうんじゃ……?」


「いや、もう大丈夫だ」


 俺は立ち上がる。

 もう、十分な時間を稼ぐことができた。

 今の俺なら、あの蜘蛛を一方的に蹂躙することができるだろう。


 俺は部屋を出る。

 蜘蛛が俺たちを探しているであろう間に、十分な魔素を集めることができた。

 集めた魔素にイメージを送り、魔法を発動させる。

 俺の体を中心に、光る細い線が幾重にも走る。

 イメージ通りに発動することができた。


「エーリ、どうするんですか?」


「蜘蛛退治さ。ちょっと危ないから、あの子の所に行っててくれ」


 トーコを避難させ、通路の壁に近づく。

 俺は手を握り、思いきり壁を殴った。

 こうすれば、蜘蛛が俺のことを見つけることができるだろう。


 俺の周りには、不可視の黄色い霧が渦巻いている。

 魔法の範囲は俺を中心にして約10メートル。

 その中では、不規則な軌道を描く光の線が幾重にも走り、そして消えていく。

 俺の周囲の空気は今、帯電状態にある。

 俺達は音もなく動く、あの蜘蛛の接近に気が付くことができない。

 だから、罠を張ったのだ。

 俺が展開した雷の魔法は、範囲内に入った蜘蛛を自動で察知し、息絶えるまで焼き尽くす。

 容易に想像できる俺の勝利に、残酷な喜びを感じた。

 後はただ、待っていればいい…………。


 ――こんな時に考えることじゃないと思うが、やはり魔法と言うものは凄いものだ。 

 俺は今、雷なんていう誰もが恐れる自然現象を、何の束縛もなくイメージ通りに操ることができる。

 魔法の力をうまく使えば、誰にも負けることはないのではないか。

 つまり、絶対に揺るぐことのない強者の地位を手に入れたと言うことだ。

 人々が恐れ逃げ惑う、この遺跡に巣食う怪物のような蜘蛛でさえ、俺は圧倒的な力で倒すことができる。

 この力を使って、俺は―――――――。


 バチンッ!

 左手側から、空気がはじける音がした。

 かかった!?

 俺が振り返ると、明かりによって巨大な蜘蛛が闇の中に浮かび上がっていた。

 無数の光の線が蜘蛛に集中し、破裂音が幾重にも重なり轟音を奏でる。


 ギィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!

 蜘蛛の悲鳴が神殿内に響き渡る。

 雷にその身をうたれる蜘蛛は動くこともできず、その体は焼け、燻り、煙を上げる。

 ありったけの雷をその身に浴び、蜘蛛はやがて沈黙した。

 煙を上げる巨大な蜘蛛の丸焼きが出来上がった。

 その死に様は、いつか見たことのある蜘蛛と同じように、奇妙に足を内側に折り曲げた形だった。

 蜘蛛が焼ける臭いが、あたりに充満する。

 火災現場を思い出させる据えた臭いで、気分が悪くなる。

 蜘蛛が再び動き出さないことを確認して、小部屋に戻った。


「行こう……」


 気分の悪さに冷静さを取り戻し、高揚した気分は失せていた。

 少女の手を引き、部屋を出る。

 部屋の外で未だ燻る蜘蛛の死体を一瞥し、逆方向に行くことにした。

 蜘蛛から逃げるのに必死で走ったせいで道はすでに分からなくなっている。

 どちらに行っても一緒だろう。

 先ほど使った魔法の威力をギリギリまで弱め、常に張り巡らせておく。

 これなら新しい敵が現れても間近まで接近を許すことはないだろう。

 長く続く直線を少女の手を引いて歩く。


 冷静になると、生き物の命を奪った罪悪感が俺を襲った。

 あんな気味の悪い化け物に対しても罪悪感を感じるなんて、俺はどうかしてる。

 元の世界で誰もが口にする命を大切になんて言葉は、人間が強者であることが前提だ。

 自らの手を汚さずに生きていける世界だからこそ、そんなことが言えるのだ。

 この世界に住む人々は違う。

 殺さなくては、生き残れない。

 理不尽で避けようのない殺意が、容赦なく襲い掛かる。

 仲間たちの死を積み上げて、彼らの今の生がある。

 そうか……。

 俺が精神的に強くなれない理由が、何となく理解できた。


 考えながら歩いているうちに長い通路を抜けた。

 そこは地下とは思えないほど広大な空間だった。

 光が届かないせいで、どこまで広げっているのかは分からない。


「なんだかそれっぽい場所に出たな……」


「声がすごく遠くで反響してます……。地下なのにこんなに広い場所があるんですね……」


 長い通路からの、広い空間。 

 多分、ここがこの神殿の中心部だろう。

 なんとなくだがそんな気がする。


「トーコ、スクロールと地図を探そう」


「はい!」


 広間に足を踏み入れる。

 するとコツリと、今までとは違う音が響いた。

 炎で照らし床の様子を確かめる。

 床がこれまでの通路とは違い土ではなかった。


「なんだ……?」


 鈍い光を反射する、乳白色の滑らかな床だった。

 正確な性質は分からないが、恐らく石ではない。

 俺が知るこの世界にはとてつもなく似合わないものだ。


「なあトーコ、こういう床って普通にあるのか?」


 俺が知らないだけで、こういうものを作る技術は普通にあるのかもしれない。


「ごめんなさいエーリ、私は床には詳しくないのです。この床は石ではないのですか?」


「たぶん違う。これも旧文明の名残ってことなのか……?」


 俺が何をしているのか気になったのだろう。

 少女も俺の横にしゃがみこんで、床の触って確かめている。

 それとなく様子をうかがってみる。

 その表情は真剣だが、何を考えているのかはうかがい知れなかった。


「進んでみよう……」


 座り込んだ少女の肩を叩き、手を差し出す。

 少女が俺の手を握る。

 少女を伴い広間を進む。

 唯一聞こえるコツコツという俺の足音がやけに大きく聞こえる。


 やがて俺たちの前に壁が現れた。

 左右を見てもどこまで続いているのかはわからない。

 当然上側も闇の中に消えていた。

 壁には大きな絵が飾られている。

 白い背景に黒い幾何学模様。

 模様は大きな円を中心に枝が何本も伸び、角度と大きさを変えた四角が幾重にも重なっている。


「これは……」


 意識の中にあったので、それが俺の探している物の一つだと分かった。

 それは地図だった。

 この神殿が複雑に入り組んだ迷路のような構造をしているのが分かる。

 けれど円から一本、出口に向かって長い通路が続いているのがすぐにわかった。


「考えてみればそうか……。一番重要な施設なら、入り口からまっすぐ来れるように作るのが当たり前だ……」


 遺跡と聞いて、重要なものは隠されている物と勝手に思い込んでいた。

 そもそもここは神殿だったのだ。

 人が集まるための場所を、隠すわけがない。

 無駄な遠回りをしていたことに気が付いて少しうんざりしたが、同時に安堵もした。

 なぜなら、すべての分かれ道を右に曲がったらどうやってもここには辿り着かないのだ。

 偶然ここにたどり着けたのはまさに幸運だ。


 首が痛くなりそうな角度で地図を眺めていたら、くいっと服を引っ張られた。

 トーコかと思ったら、俺の服をつかんでいるのは少女だった

 少女が何かを言って指を差す。

 少女の指差す先は地図の下側だった。

 段差がありすこし高くなったそこにあるのは、白い長方体の物体。

 なんだろうか?

 長方体に近づきその前に立つ。

 何気なしに、その四角く滑らかな表面に触れてみた。

 その瞬間、表面が青白い光を放った。

 同時に、ノイズのような音を発する。


「な、なんだっ!?」


 再びノイズ。

 そして、今度こそ信じられないことが起こった。


「―――――言語認証を完了しました。用件をどうぞ」



 声はどうやらこの四角い物体から聞こえたようだった。


「なあトーコ、これは何だろうな……?」


「わかりませんけど、なんか光ってます! 変な音を発してます!」


 あれ……?

 トーコの言ってることは少しおかしい。


「なあトーコ……、こいつさっきしゃべってたよな?」


「ええっ! 本当ですか?」


 どういう事だろうか?

 偶然トーコには聞こえなかっただけか?

 いや、確かにしゃべったはずだ。

 用件をどうぞ、こいつは確かにそう言ったはずだ。


「お前は何だ……?」


 馬鹿なことを言っているとは思ったが、確かめるにはこれが一番早そうだ。

 返事はすぐに返ってきた。


「中央情報統合機構接続用端末ナンバー00000001です。用件をどうぞ」


 中央情報統合機構? の接続用端末……。

 意味は何となくわかる。

 だがしかし、それじゃあこいつはまるでこの世界にふさわしくない。

 こいつの言っていることは、まるでコンピューターのそれだ。

 しかもここは遺跡だぞ? 

 いったい何百年前のコンピュータなのか知らないが、元の世界でもこんなものは見たことがない。


 今度こそ、トーコ達にも聞こえただろうか?


「トーコ、今のは分かったか?」


「何がですか? これ、さっきから変な音ばっかり出してますね……、壊れてるんでしょうか?」


 やはりトーコには聞こえていない……?

 なぜか俺だけに聞こえているようだ。


 気持ちを切り替えよう。

 これが何かは分からないが……、俺にはここに来た目的がある。

 それをこいつがなんとかしてくれるなら、細かいことは後回しでいい。


「用件か……。この世界の、人間の言葉を理解できるようにしてくれ」


 どうだ……?


「対応するデータがあります。世界、ゼフテラ。言語、人類でよろしいですか」


 ゼフテラ?

 初めて聞く名前だ。


「なあトーコ、この世界の名前はゼフテラでいいのか?」


 世界に名前があるのか?

 俺の世界にも名前があるのだろうか?


「ゼフテラ? いえ、聞いたことがないです……。この国は、ルークス・アーラと言います。みんなルクアと呼ぶそうです」


 ゼフテラと言う名前を、トーコは聞いたことがないと言った。

 安易に使うのは危険かもしれない。

 なら……。


「ルークス・アーラの言葉にしてくれ」


「対応するデータがあります。国家、ルークス・アーラ。言語、人類でよろしいですか」


「ああ……」


「データのインストールには認証が必要です。画面のマークに手の平を重ねてください」


 インストール……?

 端末の表面に手形が浮かび上がる。

 さすがに考え直したくなるが、ここでやめて何になる。

 ええい、ままよ!

 俺は、手形に重なるように自分の右手を重ねた。


「認証が完了しました。インストールを開始します。―――インストールが完了しました。国家、ルークス・アーラ。言語。人類のインストールが完了しました。用件をどうぞ」


 正直、展開が早すぎて何が起っているのかさっぱりわからない。

 こいつは、インストールが完了したと言いやがった。

 それはつまり、俺がこの国の人の言葉を理解できるようになったという事か?

 そもそもインストールなんて言葉は、人間に対して使う言葉じゃない。

 人間は、ソフトを入れればその通りに動く機械じゃないんだぞ……?

 まったく信じられないが、こいつが言っていることが本当か試す方法がある。


 そのためには横から覗き込んでいた少女に、話しかけてみればいい。


「あー……、俺の言葉、わかるか?」


 すごい勢いでこちらを振り返った少女の目が、大きく見開かれているのが分かった。


「あなた、言葉が話せるの!?」


 言葉が分かる!?

 俺が感慨に浸る間もなく、直後、少女は信じられない行動にでた。

 俺の胸ぐらをつかんだのだ!

 ものすごい勢いで引き寄せられる。

 視界いっぱいに怒った少女の顔が広がる。


「なんで最初から話してくれなかったの!? なんで言葉が分からない振りなんてしたの!?」


 鬼気迫るとはこのことだ。

 少女の勢いに、あっけにとられてしまう。

 なんとなくこの少女はおとなしい性格だと思っていのに……。


「いや、これには事情が……」


「事情ってなに!? どんな事情があったら私に話しかけられないっていうの!?」


「いや、それは……」


 とりあえず、首を絞めるのをやめてほしい。

 あと落ち着いてほしい。


 ―――――――――――パチッ。

 俺が張っていた雷の網に、反応があった。


「――――敵かっ!?」


 周囲を確認する。

 俺の言葉に、少女も周りを見た。

 その光景は一瞬、何が起こったのかわからなかった。

 夢でも見ているのかと思った。


 そこには蜘蛛がいた。

 しかもその数は、一匹や二匹ではない。

 見渡す限りの蜘蛛が、俺たちを取り囲んでいた。


「こんなにいやがったのか!?」


 そりゃ誰も探索しようと思わないわけだ!

 こんな蜘蛛の巣にのこのこ入っていくのは、自殺志願者か馬鹿だけだ!

 ということは、俺は馬鹿か!?


「いや、いやぁああああ……!!」


 怯え、悲鳴を上げる少女。

 今俺にこいつらを全部退治するだけの魔素はない……!

 逃げるしかない!!


「逃げるぞ!!」


 少女の手をつかんで走り出す。

 帰りは直線だ。

 雷を守りだけに使って、一気に走り抜けるしかない!!


 長い通路を駆け抜ける。

 後ろには蜘蛛!

 前方にも蜘蛛!

 どうにか隙間を見つけ、潜り抜ける。

 雷で壁を作っているので、あいつらは俺たちに触れられない。

 壁に触れた蜘蛛たちの体が焦げる音が耳障りだ。


 前方に、わずかな光が見えた!


「出口っ!!」


 あと少しだと思ったところで、前方に蜘蛛が集まりだす。

 通路に隙間なく詰まった蜘蛛が、黒い壁となった。


「閉じ込めて出られないようにする気か!?」


 出口まであと少し!

 あの壁をどうにかしないと外には出られない!

 俺は雷の守りを解いて、全てを攻撃に回す。

 前方に、雷の球を作り出す。

 最後の攻防に、思わず笑ってしまった。

 楽しい!!

 こんなに楽しいことは初めてだ!!


「蜘蛛の癖に、頭がいいじゃないか!! でもなっ、やっぱり最後は俺の勝ちだ!! そこは通してもらおうっ!!」


 前方に収束させた雷を、爆音とともに発射する。

 光の柱になった雷が通路をいっぱいまで広がり、壁となった蜘蛛たちに直撃した。

 蜘蛛たちの黒い姿が、光の中に掻き消える。

 光が消えた後には、何も残ってはいなかった。


 一気に階段を駆け上がる。

 光が、視界いっぱいに広がる。

 念願の外が、すぐそこにある!!

 俺たちは転がるように飛び出した。


 外に出た。

 顔を上げ、光の暖かさを感じる。

 まぶしさに慣れれば、木々の緑が、雲の白さが、空の青さが広がっているはずだ。

 

「蜘蛛は!?」


 遺跡の入り口を振り返る。

 入り口からはみ出した黒い脚が見えた。

 続いて、その巨大な体躯が入り口から現れる。


 キイィ―――――――――――――――――。

 蜘蛛が耳障りな鳴き声を上げる。

 入り口の奥からも、キィキィと言う鳴き声が聞こえてくる。


「まずい!! こいつら出てくるつもりか!?」


 こいつらは遺跡から出てこれないものだと、すっかり思い込んでいた。

 こんな奴らが出てきたら、絶対に町にいる人たちを襲うぞ!

 入り口をふさがないと!

 しかしすでに一匹、蜘蛛は入り口を出てしまっていた。

 魔素を集めている時間がない……!


「ねえあなた! あの入口塞げないの!?」


「できるけど、少しだけ時間がかかる! しかもあの蜘蛛から逃げならじゃ無理だ!」


 せっかく脱出できたのに、再び絶望的な状況だ。


 少女が大きく息深呼吸をするのが分かった。

 そして、信じられないことを言い出す。


「わかった……。あの蜘蛛は私が何とかする……」


「ええ!?」


 いったい何言いだしたんだこいつは!


「貴方の剣、少し借りるわ……」


 俺が腰に差してあった剣を抜き、少女は俺の前に立つ。


「不意打ちでさえなければ、お前らなんかに……」


 少女はそう言って剣を構える。


「本当に任せていいのか!?」


 少女の剣の構えは様になっていた。

 もしかしたらと思ってしまう。


「なるべく急いで! 何匹も出てきたら無理だから!」


「分かった、そいつを頼む!」


 もうこうなったら、少女の言うことを信じるしかない。

 俺は魔素を集めるのに集中する。

 少女が前に出る。


「いい剣ね。よく切れそう」


 ギイイイイイィィ――――――――――――。

 蜘蛛の足が、少女を襲う。

 しかし、その足は少女には届かなかった。

 足が届くより先に、少女の剣が蜘蛛の足を切断する。

 黒く毛深い脚が宙に舞い、不気味な紫色の体液が飛び散った。


 すごい……。

 少女が華麗な動きで蜘蛛を翻弄し、その身を切り刻んでいく。

 体を支えられるだけの足を失い、やがて蜘蛛はその身を維持できなくなった。

 巨体が地面に沈む。


 ギギギギギギギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ。

 一際高い鳴き声が響き渡った。

 その声に呼応するように、遺跡の入り口から黒い脚がのぞく。

 まずい、仲間を呼ぶ声か!

 少女もそれに気が付いたようだ。


「まだなの!?」


 少女が振り向いた。

 そして、その苦渋の表情が驚きの表情に変わった。


「どいてろ!!」


 俺の言葉に、少女が慌ててその場を離れる。

 俺は巨大な火球を持ち上げる。

 遺跡の入口より大きくなったそれを、ピッチャーよろしく振りかぶった。


「これで最後だ、蜘蛛野郎!!」


 全てを飲み込む炎が遺跡の入り口にぶち当たる。

 出てこようとしていた蜘蛛ともども遺跡の入り口が崩れ落ちた。

 入り口を飲み込み、その場で炎は燃え続ける。


「さすがにこれなら出てこられないだろ……」


 さすがに疲れた……。

 俺はその場で大の字に転がった。

 寝転がった俺に、少女が近づいてくる。


「あなた、すごいのね……」


 少女の髪が、太陽の光を反射を受けて銀色に輝いていた。



 ◆



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