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新型

 プラズマが放たれた刹那、シンは直感でそのタイミングを掴み、回避に成功していた。フル教官が水蒸気に目を奪われ、仕留めたと気を抜いた間に、その後方200mの位置に移動をしていた。


《良くやりました シンの性能は上々ですね》


「とは言っても、これで振り出しに戻っただけだ。お前のプランを教えてくれ」


《それは 今右手に持っている物です》


 ネロスの手には大型の刃物、強固な宇宙合金、チタディアム製のナイフが握られていた。それをモニターで確認すると、当然のようにシンはネロスに問う。


「こんなものがシールドに通用するはずがないだろ? それに、振り上げて接近するまでの間に5発はプラズマ弾を打ち込まれるぞ」


《ところがこのナイフは光速を超えた速さで飛ぶのです そして 空間を飛び越え 相手のシールド内に姿を現します》


「空間を・・・飛び越える? まるでワープだな」


《ワープさせます ナイフを構えて私の合図と共に投げてください 反物質反応炉充填完了 ワープフィールド形成》


 ネロスの前の空間が歪みだした。


「まさかっ! ワープジェネレーターが積んであるのかっ! そんなのを組み込んだOVER DOLL なんて存在するのか!」


《小型ジェネレーターですが 理論上 OVER DOLL単独ワープも可能です しかし もちろん地球のそば しかも 大気圏内で行うのでワープフィールドは最小です 下手したら地球を巻き込んで亜空間に吹き飛ばしてしまいますから しかし この小さなフィールドでもナイフを飛ばすことは出来ます》


「やはり機体は新型だったのか・・・。しかし、仮にワープさせたとしても、あの機体とシールドの隙間の座標にワープポイントを設置する事なんて不可能だ そんな計算できる訳が無い!」


《シン 私は言ったでしょう 私こそが このA・Iこそが いや この機体に使われているCPUこそが新型だと 私は木星メインコンピューターに使われている中央演算装置のコピーです この程度の計算問題ありません》


「あのブラックボックス化されているコアのコピー? か・・・解析できたのか? 木星の記録以前に存在していた物なのに、今まで木星人が作ったどのCPUより遥かに高性能だったあれを・・・」


《さあ 相手がこちらの存在に気づきました ワープフィールド形成完了 ・・・投げて! シン!》




 黒い機体は後ろを振り向くと同時にプラズマライフルをネロスに向けた。しかし、その銃口は上を向き、プラズマは空の彼方へ消えた。


中にいるフル教官は何が起こったのか分からない。異常を知らせるアラームの中、モニターの一つに銀色の刃を見つけた。


「な・・・・なんだと・・・? どこからこんな物が・・・。いや・・・どうしてシールドを通り抜けたんだ・・・・?」


 黒い機体の背中、人間で言ううなじの下、肩甲骨の辺りに銀色に光るナイフが突き立っていた。


〈ピー シールドジェネレーター破損 メインエネルギー炉破損 10秒後に臨界を越えます〉


 フル教官はネロスに向かって木星チャンネルを開けた。


《シン見事だ。これも・・・何かの必然って・・・やつか。しかし、俺が用意した追試はどうかな? 簡単に乗り越えられる問題を用意するほど俺は甘くは無い人間だと知っているだろう?》


《敵機爆発します シン 離れて! 今はシールドがありません 核反応抑制粒子散布完了》


 黒い機体はパイロット乗せたまま爆発をした。ネロスは遥か上空に上がり、小さく見える煙を見下ろしていた。


「フル教官・・・」


 悲しげな目をしているシンの手をそっと羽月は取り、それを両手で包んであげた。


《おかしいですね 私の計算は完璧でした ナイフは寸分たがわず 相手のシールドジェネレーターだけを破壊するはずだったのに ・・・これも必然でしょうか?》


「おじさんかわいそう・・・。でも・・・、おかしな事言っていなかった? 追試・・・とか。追試って普通簡単に作ってくれるものだけど、たまにいるのよね、本試験よりも難しい追試問題を出してくる意地悪な先生。あの人もそうだったのかな?」


「・・・そうだな。ミスをすれば必ずその三倍の試練を与えてくる人だった・・・」



《ピー 警告 きましたよ 追試です ・・・それも巨大な・・・》


「巨大?」





 学校の教室では、先生が指示した訳でも無いのにみんなは机を中央に寄せ、お弁当を食べていた。普段、学校の食堂で食べる生徒も、買った物を教室に持ち帰って来て輪に加わっている。担任の先生すらも愛妻弁当を教室で披露しながら食べていた。


「まだかなぁ。あれから30分は経つよね」


 美鈴は卵焼きを口に放り投げながら光美に顔を向ける。


「うん・・・。みんな待っててくれたけど・・・。食べ終わるまでに帰って来るかな・・」


 光美は美鈴と顔を見合わせ、二人のために空けてある席に目を向ける。そこには、カバンから取り出した羽月の弁当とシンの弁当が置かれている。


「センセー、ちゃんと伝えてくれたんだよねー? 警察に」


 本多が携帯のテレビを見ながら不満げに言う。どのチャンネルでも昨日のようなロボットが戦っているニュースはやっていないからだ。


「それは間違いない。しかし、どこにロボットがいるかわからないようだ。今回は大軍じゃ無いかもしれない」


「数が少なけりゃ、シンのロボットならあっという間にやっつけてしまうよな!」


 本多は笑顔で大月の肩を叩くが、その大月は視線を落として唇を噛んだ。


「でもそれならシン君達はすぐに帰ってきているはずです。よっぽど相手が強いか・・・あるいは・・・。いや、やられていたらそのロボットは日本のどこかを攻撃するはずです。それがまだ無い所を見ると、いまだ戦闘中だと思われますっ!」


 大月はシンが生きていると信じたいので、最後は口調を強め、間違いないとばかりに言い切った。それを聞き、本多を初め、クラスの全員が頷く。


〈緊急ニュースです!〉


「あれ・・・見て?」


 携帯でテレビをチェックしていた生徒の何人かが声をあげた。本多も自分の携帯を見ると、お昼のお笑い番組はまだ終わる時間ではないというのに、アナウンサー達が慌しく書類を受け取って読み上げようとしている場面が映っている。


〈アメリカ・ロシア、他各国の衛星が大変な物を見つけました! 地球のそばに突如巨大な隕石が・・・出現したと言うことです! 直径が10km! これは過去、恐竜を絶滅させたと言われる物と、ほぼ同サイズだと言う事です! こんな巨大な隕石がどうして今まで見つから無かった、気が付か無かったのかと専門家達は首を捻り、政府は直ちに緊急対策本部を・・・じ・・・時間がありません! 隕石は! 一時間で・・・ 今すぐにでも・・・・・・〉


 そこで女性アナウンサーは泣き出した。すぐに映像は切り替わり、衛星が捉えた隕石の映像に切り替わった。


「・・・・・・・・」


 教室中で言葉を発する者はいなかった。全員が全員、焦点の合わない目で宙や携帯、お互いの顔を見ていた。冗談? CG? そんな事を考える人間はいなかった。


いや、外国ではいたかもしれないが、この教室、この日本ではいなかっただろう。つい先日、昨日、信じられない物を見たばかりだ。あれほどのサイエンス・フィクション、SFだと思っていた事が現実に起こったばかりなのでこの隕石も信憑性がある、いや、事実に間違いないと誰しも思った。


「ど・・・ど・・・どうなってんだよぉ!」


 沈黙を破ったのは当然この人、クラスのムードメーカー本多だった。その声と共にみんなの瞳は光を取り戻し、あれやこれやと話を始める。


「こ・・・これもシンが何とかしてくれるのか? ねえ先生!」


 教師は腕時計で時間を確認すると、愛妻弁当を見ながら涙をこぼした。


「なあ大月! 直径10kmってどのくらいの大きさだよっ! この学校より大きいか? グラウンド入れたよりもでかいのかっ?」


「せ・・・正確にはわかりませんが・・・。たぶん・・・。この教室の窓から見える景色くらいですかね・・・」


「き・・・昨日使っていたレーザーで・・・。・・・・どうにかできる大きさじゃ・・無いか・・・」


 本多は椅子にストンと座ると、首をカックンと折ってうなだれた。


「・・・・んんんんん。もういいや! 羽月やシン君は死ぬ覚悟で行った! 私達も死んじゃっていいよねっ! 二人だけに気苦労をかけちゃうなんてダメだよっ!」


 光美は立ち上がり、笑顔で天井に向かって腕を突き出した。それを見て、美鈴も立ち上がり、お気に入りのメガネを外すとなぜか嬉しそうに踊り出した。


「わー。多野さんってメガネを外すと・・・かわいいんだ。メガネっ子。萌え・・・」


 大月は顔を赤くしながら横目でチラチラとそれを見ている。


「だよな。最悪、あの二人だけでもロボットで地球から脱出してくれたらいいかぁ」


 本多もそう言うと顔を上げ、その後に「天才本多様の事を後世に伝えてくれ」と叫ぶが誰も聞いて無かった。


「先生も生徒を死地に送り出しながら何をメソメソしていたんだろうな。私は隕石が頭の上に落ちてこようと、悠里と西原、それにお前たちが死なない事を最後まで祈る!」


 それぞれが思いを胸に秘め、教室の窓から空を見上げた。






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