意味の分からない遊技場
翌日、朝6時からプラモデルを作り始めたシンの部屋に乱入した羽月は、2時間ほど自分のファッションショーを繰り広げる。そして、げんなりしたシンを連れて電車に乗り、集合時間ちょうどの9時に遊園地に到着した。
「おっはよー、光美! 美鈴! それに、本多君と大月君!」
皆は、どうしてシンがやつれているのか気になったが、いつものことなのでスルーして羽月達に挨拶を返す。
「シン君。そろそろガイグダン完成しましたか? ハイグレードモデルなのでかなり手間がかかって大変だと思いますが、完成したときは、まるで動きだすかのような仕上がりになりますよ」
大月はすぐにシンとプラモデルの話を始め、シンが質問すると、細かく解説付きで返す。シンをこの世界に引き込んだ大月はプラモデルだけではなく、フィギュアにも通じ、そのうちシンにもそっちの世界を学ばそうと考えている男だ。
髪はセンターで分けているだけの黒髪。オタクっぽいファッションでも無いし、分厚いメガネをかけている訳でも無い。俗に言う、隠れオタクである。
「おいおい、それより昨日のニュース見たか? 日本すぐそばのいつものやばい国、どうやってあんな物作ったんだ? 食う物にも困っているくせによ」
「あっ! ですよね! それは不思議でしたが、最高の気分です! ガイグダンやその他のアニメに出てくるロボットなんて未来の話だと思ってたけど・・・そのうち現れるかもって思いました!」
本多の話にすぐ大月は反応する。彼じゃなくても、男の子は非常に気になる話題に違いない。
「つってもよ、まだ戦車を無理やり立たせただけって感じのロボットだったけど・・・。シンはどう思う? あれってやっぱCGかな? アメリカを差し置いてあんな国がハイテク技術なんて持っているわけねーよなぁ?」
「玩具だな」
「やっぱそうか。外国人のシンが言うと説得力あるよな。・・・あれがCGじゃなくても、動くかどうか怪しいおもちゃ程度の物だって事だな」
本多は茶色の頭を何度も縦に振って頷く。
彼は軽い事でクラスの有名人だ。軽いというのは、性格ではなく、頭が軽い。バカとオタクと宇宙人。この三人はそろうと妙に馬が合うのだ。
「おーい、シンー! ・・・と、その他二人! 入るわよー」
羽月達はすでにフリーパスを買い、入り口の前に立っている。立ち止まって話し込んでいたシン達は、慌てて財布を出しながらチケット売り場へ急いだ。
「まずはジェットコースターからだよねっ!」
羽月の顔を見ながら全員が笑顔で頷く。・・・いや、シンを除いて。
「・・・どうしたの? シン。怖いの?」
口を固く閉じ、頭上を悲鳴と共に走るジェットコースターを見上げながらシンは冷や汗を流していた。羽月はニヤニヤしてその様子を見ている。
「あ・・・あれに乗るのか?」
「乗るよぉ。ほら、みんなもう行ったよ!」
二人を残して、四人はすでにフリーパスを見せてコースターへの階段を上っている。それを見てもシンは足を動かさない。
「だ・・・大丈夫なのかあれは・・・。あのスピードで曲がったり回転したりすれば、相当な遠心力がかかるはずだ。とても反重力装置がついているようには見えないんだが・・・。体は丸出しだし・・・」
「ちゃんと安全バーがついているから安心だって! いくわよっ!」
シンは羽月に手首を掴まれて引っ張られる。
「し・・・しかし、金属疲労などが起きてバラバラに分解する可能性も・・・。すぐにOVER DOLLのセンサーで完全チェックしなければ・・・。待ってろ、すぐ終わる」
「訳わかんない言い訳しないっ! はやく来い!」
シンは羽月に腕を掴まれて強く引っ張られた。
「ま・・・待てっ! お前らは感覚に頼りすぎるぞ! 少しはセンサーに頼るんだ。第一、何のために乗るのだ。移動する訳でも無く元の位置に戻る意味が・・・うわぁぁぁ」
いつものように、羽月に首根っこを引っつかまれてジェットコースター搭乗口にシンは無理やり引きずられて行った。
「えーと、ジェットコースター2種類に、フリーフォールと逆フリーフォールを完了っと。じゃあ次はあのフライング系に乗ろうか。・・・って、シン君大丈夫ぅ?」
小柄な自分よりも小さくなってしまったように見えるシンに、美鈴は声をかけた。
「大丈夫だいじょうぶ! ボクは全然ヘイキです! 次はアレですね! 行きます!」
羽月に後ろから抱き起こされ、頬をつままれて口をパクパクと動かし、明らかに羽月の声色でシンはそう言ったかと思うと、二人でフライングカーペットの方へ走っていった。
「仲いいなぁ。羽月ちゃんとシン君」
「良いんですか・・・あれ・・・」
「・・・・なぁ」
嬉しそうに見守る美鈴の後ろで、大槻と本多が顔を見合わせていた。
14時。一同は遊園地内のレストランで遅めの昼食を取っていた。もちろん、一通り満足するだけ乗り物に乗っていたからこの時間だ。絶叫マシーンに何度も乗ったというのに、白目をむいているシン以外はみんな楽しそうに食事を口に運んでいる。
「まったく。このていたらくで夢はロボットに乗る事なんだから・・・。困った男ね、シンは」
口ではそう言いながらも、羽月は氷と水が入っているコップをシンの額にくっつけてあげる。
「シン君って結局、本当はどこの国の人なの? アメリカかな?」
光美が提示した議題に、みんなは首を捻る。
「このオタク外人、木星木星とか言って、キャラを突き通すのよね。最初は宇宙人のコスプレをして私の前に現れたし。・・・あれ、ロボットのパイロットだったかな? まあ、どっちでもいいけど」
羽月がそう言うと、全員苦笑いで頷く。
「アメリカではコスプレが流行っているらしいから・・・僕もアメリカ人だというのに一票入れます」
「だよなぁ。宇宙人っていうのはタコみたいな奴らだからな。ちょっと無理あるよな」
手を上げて発言した大月の後で言った本多の一言に、みんなは失笑する。
「タコ型宇宙人はちょっと古いよねー。それに、それは火星人だよぉ」
「・・・そうだっけ?」
美鈴にそう言われると、本多は天井を見上げながら考え込んだ。
「しかし、どうして木星なんですかね? 確かに、今の地球の技術では遠いですが、宇宙人規模だと近すぎますよね」
「私もそう言ったの。するとさ、アンドロメダは遠すぎるとか言うのよ。なんかこだわりがあるみたいよ!」
羽月がそう言うと、シンは何かを言いたそうに手を動かしたが、すぐにその手は動かなくなった。
「それじゃ、約一名以外みんなご飯を食べ終えたし。後半戦いってみよー!」
レストランから羽月、美鈴、光美は元気良く出て行く。その後に、本多と大月に肩を貸されながらシンは捕まった宇宙人さながらに連れ出された。




