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プロローグ

2011年5月作の小説です。

空は黒く蠢いていた。

数千、いや数万の機械怪獣共がこの施設に迫っている。

ここは世界でも極東の国、しかもその東側、太平洋そばに位置する科学研究所だ。

厚みのある白いコンクリートで覆われ、周囲に発生させている虹色に光を反射している半円状のバリアは、妖精王の住まう幻想的な城を思わす。


俺達は、それぞれの戦闘機に乗り込むとヘルメットをかぶった。正面の扉が開き、その向こうに黒ずんだ空が見える。


「いくぞ! みんな!」

「うん、行こう!」

「わたくし一人でも十分なのですけどね」

「参りましょう」

「何とかなりますよね?」

「ぼっこぼこにしてやんよぉ!」


と、返ってきたそれぞれ個性のある返事に笑みを浮かべながら俺は操縦桿を強く握った。


「光子モード。合体するぞ!」

 

俺の機体は急上昇を始める。そして、光輝いた俺の周りに、同じように光り輝く彼女の達の機体が集まり逆V字編隊を形成する。


「リニア合体!」

 

重なった6つの光は大きな輝きとなり、それは人の形をとる。


「ガイグダン!」

 

光が周囲に飛散すると、そこに巨大な鋼鉄のロボットが現れた。戦国武者の兜をかぶったような頭部。鉄の塊を思わす胸。手足は何重にも、何種類もの文化を匂わすプロテクターが取り付けられている。一撃で地殻すらも破壊するこの巨人は、全高50m、重量950t。その姿は白、青、赤、黄色、緑と塗り分けられ、存在感は迫り来る機械怪獣を圧倒した。


「宇宙粒子ビーム!」

 

俺の操作と共に胸部から4つの砲門が飛び出し、わずかにキラキラと光る粒子を吐き出したかと思うと、巨大なビームが発射された。それは黒い空へ突き刺さると、爆発音を響かせる。すると、そこから青い空がのぞいた。


「雑魚なんてまとめて消しちゃおうよ!」

「いつも考えの浅い楓さんの言う事ですが・・・今日だけは賛成させていただきますわ」

 

普段ケンカばかりの楓と柊だが、今回は意見の一致を見せた。


「それじゃあ行くぞ! あれだ! 椿! 頼む!」

「お任せください」


 椿は困難な操作、ガイグダンを暴走させないように機体を制御する。いつも微笑みながら当然のようにやってくれるが、彼女にしか出来ない高度な作業なのだ。


「いっけぇ!」


 俺は操縦桿を強く前に押す。一度ロックが掛かるが、力任せに限界まで俺は倒した。

 ガイグダンは光の塊になり、一直線に機械怪獣の中心へ突っ込む。そんな俺達を好きにさせる気も相手には無いらしく、あっという間に機械怪獣に取り囲まれる。それは空に浮かぶ圧倒的なサイズの黒い球体となって見えただろう。


「覇王・・・・・・・・・、フラーッシュ!」


 ガイグダンを包んでいた光が放出され、周りの機械怪獣を取り込んで包んでいく。黒い球体を完全に包み込み、今度は光の球になったところで全てが弾き飛んだ。


「敵消滅かな? 勝ったのかな?」


 メガネを触りながら目を何度も瞬きさせて、いつものように自信なく疑問形で報告をする紅葉。しかし、彼女の言う通り、数万の雑魚共は消えてしまったように俺には見えた。


「あ・・・。違う・・・かな? 敵がまだあそこに残ってる! ・・・かな?」


 紅葉がレーダーで指し示した所に、強いエネルギー反応が見えた。モニターを拡大すると、それは先ほどの雑魚達とは一線を画す凶悪な姿の怪獣がいた。サイズも普通よりも大きく、このガイグダンの2倍はあるだろう。


「これは・・・あれしかないよねっ!」


 楓がウキウキとした声で言う。俺も頷き、桜に向かって叫んだ。


「いくぞっ! ガイグソードを出せ!」

「らじゃ! ぼっこぼっこのぎったんぎったんにしてやろうよっ!」


 桜は操作を終えると、コクピットで怪獣に向かってパンチを突き出している。


「食らえっ! 神風必殺、雷神切り!」


 ガイグダンに向かって爪を伸ばしてきた敵を一刀両断、光になってその裏側に突き抜けると、程なく怪獣は爆発をした。


「宇宙最強! 絶対無敵! 超絶ロボット・・」


 俺に全員が声を合わせる。


「ガイグダン!」



-------------------------------------------------------------------------------------



「・・・・・・・・はっ!」

 

 俺は目を覚ました。寝ていた自分が、いつの間にか上体を起こしてガッツポーズをとっていたことに驚く。


「どうしたの? 朝ごはん出来ているよ」


 家の中にはスパイシーな良い匂いが漂っている。××は台所で俺に後姿を見せ、まだ何かを作っているようだ。


「夢を・・・見ていた。まさか・・・この俺が・・・。あんな夢を見るなんて・・・」


 俺はベッドから抜け出て、テーブルに座った。しかしまだ頭はボーっとしている。


「何を見ていたの? 学校の夢? みんないた? ××や××とか。××君や××君は?」


 ××は俺の前にサラダを置くと、興味深そうな目を向けながら正面に座った。


「いや・・・。そうじゃなくて・・・。少し恥ずかしいんだが・・・。アニメの・・・機動人ガイグダン、その夢だ。俺が・・・ガイグダンのパイロットの一人となって敵と戦っていた・・・」


「へっ? ××が? そんな夢を見たの? めっずらしー。 もうすっかり地球人ね!」

「・・・自分でも信じられない・・・」

「あっ! もしかして・・・。他のパイロットは全員女の子だから・・・。そんな環境になってみたいとか思ってるんじゃないのぉ!

 囲まれたいとかって・・・。もぅ! 欲求不満なんじゃないのっ!」


 ××は俺に向かって頬をぷっくりと膨らましている。


「よ・・・きゅう不満? ってなんだ?」

「う・・・・。要するに! 私じゃ・・・私だけじゃ不満、足りないって事を思っているんじゃないかって事よぉ!」


 ××はどうしてかうつむき、顔を赤くしながらチラチラと俺に目線を送ってくる。


「何を言っている。俺はこの生活が楽しい。お前と二人っきりで十分だ」

「まっ・・・たぁ。・・・・照れるんだから真っ直ぐに目を見つめながらストレートに言わないでよ・・・。恥ずかしいんだから・・・」


 ××はますます顔を赤くすると、ボンッと音を出して頭から蒸気を噴き出した。


「二人だけの地球。いいじゃないか。今日は××で少し遠出でもするか?」

「うん! ・・・でも不思議だね。どこまで行っても、だぁれもいない。二人だけの地球・・・。学校も無ければみんなももういない。日本も無い。信じられないなぁ・・・、やっぱり」

「自分の目で確認しただろ?」

「うん・・・。だけど・・・。ふぅ・・・」

「お前こそ不満があるんじゃないのか?」

「無いよっ! そりゃぁ・・・寂しいけど・・・。××がいれば平気!」


 ××は立ち上がり、俺の後ろに回ると抱きついてきた。


「××・・・。大好き」


 


●スピル人 ユリ・ロア・シグン


〈前方超伝導フィールド形成完了〉


「スタンバイ」


〈重力無効化装置グリーン〉


「スタンバイ」


〈マスドライバー10秒後に作動〉


「・・・・・・・・・・・ん」


〈・・・・・・・・・〉


「・・・・スタンバイ」


〈10・・・・9・・・・8・・・・7・・〉


(一体あの夢は・・・・・・)


〈2・・・・・1・・・・0〉


―ゴッ―


「うわぁぁぁぁぁ・・・・・」




〈目的座標までの所要時間48時間23分47秒〉


「ごほっ・・・ごほっ・・・。な・・・なんだ? 重力無効化が効いて無かったぞ? 故障か?」


 俺はヘルメットを脱いで咳き込んだ。


〈故障ではありません あなたの注意力が散漫だったので 少し緩めて目を覚まさせてみました どうです? この気遣い 人間っぽいでしょう?〉


「バカっ! 死ぬだろ!」


 悪びれもせずそいつは俺に向かって言ってくる。


〈生命に危険を及ぼす程度ではありません それに 完全に効いていなければあなたは潰れてそのシートに染みを作っている事でしょう〉


「この後の食事がまずくなるから止めてくれ」


〈データベース照合 了解〉


「まったく、最初っから思っていたが、お前は革新的過ぎるな。今までのA・Iで良かったのに。技術部も暇なんだろうか」


〈私も二ヶ月前 最初に出会った時から 貴方には技術の遅れを感じておりました〉


「・・・俺の権限で乗りなれた機体を使ったら良かったかな」


〈おや このために開発された私が下ろされる訳がありません 交代させられるとしたら貴方の方だと思いますよ〉


「・・・もう寝る。昨日は朝方まで俺門出を祝うパーティーだったからな」


 口が達者な合成音と話すのがバカらしくなり、俺はシートをリクライニングさせると目をつぶった。


〈子守唄代わりに 目的地ネロスにまつわる民話でも話しましょうか? 約4万年前 人間がスピルへ移住した事によって それに関するさまざまな話が『箱舟』風の伝説となって残り 私には260種もの違ったストーリーが記録されています そもそもスピルとネロスの関係は・・〉


「原始人達の話なんてどうでもいい。どうせこれから嫌でも知る事になるんだから・・・。考えたら気が重くなってきた・・・」


〈そんなに嫌ならどうして志願などしたのですか? 理解できません〉


「夢を・・・見たんだよ」


 俺は目を開けると、モニターに映る星々を眺めた。


〈夢? ネロスの夢ですか? データベースにもほとんど記録のない場所の夢を見るとは興味深い〉


「いや。ネロスと決まった訳では無い。だが、原始惑星での夢には違い無い。それを見たせいでネロスの事が気になって・・・この任務と言う訳だ」


〈私は夢を見ることはありません よろしければ教えて頂けませんか?〉


「それが・・・。ほとんど覚えていないんだ」

俺は首を一度捻ってから続ける。


「もちろん、その夢を見てから日が経っているから忘れたと言う訳ではない。夢とは・・・。起きてから何日も覚えているものもあるが、大抵は起きた瞬間や、起きてから数分で忘れてしまう。その夢も・・・、『夢を見た』と言う事は覚えているのだが・・・。どんな夢だったか・・・。良く思い出せない」


〈不明瞭ですね しかし 原始惑星だったと言う事は覚えている 他には何か覚えている事はないのですか?〉


「・・・・。俺は夢を見て飛び起きた。しかし、起きた世界も夢だったんだ・・・。そこでは・・・俺以外に女がいた気がする。女は・・・とても興味深かった・・と、思う。見たことの無いタイプだ。印象しか覚えていないが・・。そして・・、そこは文明的な物は何も無い星だった。・・・と、思う。・・・・・・。他には何も思い出せない」


〈なるほど〉


「あっ・・・。そういえば・・・。女は俺の事を・・何か・・・。聞いた事も無い名前で呼んでいた気がする。しかし、俺はその名前になじみを感じていた・・。あれは・・・」


〈あなたの正式な名称では無かったと言う事ですね?〉


「そうだ。なんて呼ばれていたのか・・。うーん・・・。どうしても思い出せない・・・」


〈ふむ 以上の事を踏まえると 貴方は女性と二人っきりになりたいと願っているようですね〉


「女と?」


〈振られた事が影響しているのかと思われます これはデータベースの 人間の夢から見る願望の項目と照らし合わせました〉


「待て! それを・・・、ど・・・どうして知っている? 振られた事を・・・。誰だ・・・誰がお前に入力した?」


 俺はいつの間にか前のめりになって話していた。


〈思春期と思われる貴方の年齢から推測される女性問題の一つとして提示しただけです〉


「き・・・機械のくせに・・・」


 悪態をついた後、俺は再びシートに寝そべって目をつぶる。


〈機械のくせにとは差別的発言ですね 近年 何事にも注意力散漫な人間よりも我々の方が各分野に広く取り入れられ、そもそも人間と我々とでは・・・〉


「・・・・・・・・・」


〈おや 寝たのですか?〉


「・・・・・・・・・」


〈女性と言うものはですね 常日頃から優しくすると言うよりも 要所要所で強弱を使い分け あなたの場合はもう少しだけコウさんに会いに行く回数を減らして・・・〉


「お前・・・どうして俺の相手を知っているんだ? やっぱり誰かが教えたんだろ。誰だ・・・ヒロか?」


〈狸寝入りと言うものですね 勉強になります〉


 俺は飛び起き、目の前のパネルを軽く叩くが、こいつは綺麗にはぐらかしてくる。


「くっ・・・。たまたまだ。スピルのモテ男と異名をとる俺が、天文学的確立で失敗しただけのはずだ」


〈スピルのモテ男・・・ そのような情報はデータベースに存在しないようですが それではネロスに良い相手が見つかればいいですね〉


「バカ言うな! 原始人なんかに興味は無い! ・・・くそ・・・。つまらないこと吹き込んで・・・。ヒロ・リラ・ミリン帰ってきたら覚えてろ・・・」




 

 二日後、宇宙空間が揺らぐと共に、金属の塊が現れた。


〈減速完了 現在第三スピル速度 起きてくださいユリ ・・・・ユリ・ロア・シグン!〉


「はい! しっかりと見ております!」


 俺は敬礼をしながら回りを見回した。狭い空間。光を放つ機器。どうやらOVER DOLLの操縦席のようだ。


〈あなたの直属の上司 フル・トア・リントの声色を使ってみました〉


「鬼教官の声を出すんじゃない。あの人の声も顔もしばらく忘れるチャンスだと言うのに」


 合成音とのやり取りの中、起きたばかりの俺の目は、正面にある大型の湾曲したスクリーンに釘付けになる。惑星が見える。なんて不思議な色をした星だ。


「青いな。どういう化学反応だ?」


〈ここからのデータでは断言は出来ませんが おそらく水では無いかと〉


「水? ・・・バカな。どうして水が星に満ちているんだ?」


〈地表に多数のエネルギー反応あり 核反応も見受けられます〉


「核・・・って、あの核?」


〈核分裂を利用したエネルギー採取方法です しかし、ここで使われているのはその中でも最も原始的な段階のようですが〉


「ふーん・・・。火をやっと使っているレベルだって聞いていたけど・・・少しはましなのか。大人の言う事はやっぱり当てにならないな」


〈速度落とします 現在第二スピル速度〉


「確か地表を普通に歩けるんだよな。さすが我らが故郷。そこはすばらしいな」


〈驚きました ネロス軌道上に人工物が浮かんでいます おそらく何らかの目的がある衛星ではないかと〉


「ゴミじゃないのか? まさか対隕石用バリア衛星でも打ち上げている事は無いだろ?」


〈センサー衛星のようですね〉


「感知される確立は?」


〈0です〉


「原始人を怯えさせるのは上陸後の生活に支障が出るかもしれない。念には念をいれて、闇になっている地帯から入ろうか」


〈夜ですね それが良いでしょう ユリ 面白いものを発見しました 地表には電波が溢れています〉


「電波?」


〈電磁波の中で 最も周波数の低いものです 非常に遅い速度なのでとても使用には適さないと思うのですが ネロスでは主流のようです〉


「はは! そんなので交信しても、宇宙の誰一人として気がつかないかもしれないな」


〈その電波から地球のいろいろなデータベースにアクセスできるようです 現在ダウンロード中〉


「なら言葉を覚えよう。俺に入れてくれ」


〈それが ネロスにはさまざまな言語があるようです どれになさいますか? 地域によって違いますので 上陸地点で使われている言葉がよろしいかと〉


「いくつも言葉があるって? ・・・なんて効率の悪い。どうやって意思疎通してるんだろ・・・。上陸地点か、どこにしようか」


 俺はモニターを拡大、回転させて見る。少しすると、暗闇に覆われた地域で面白い場所を見つけた。


「なんだここ。やけに細長い場所に光が密集しているな」


〈生命反応を感知できる距離になりました 驚くことに70億と推定されます〉


「70・・・億? ・・・すごいな。なんて生物の量だ・・・」


〈いえ、人間だけでです〉


「嘘だろ! ・・・人間だけで70億? 億? 70万の間違いじゃなくて?」


〈間違いありません 今 ユリが見ている細長い島には 約1億人以上いるようです〉


「一億・・・。確かに地表のどこにでも人間が存在出来るとしても・・・、そんな数・・・どういった感じでいるのやら・・・」


〈確実に現地の言葉を学習してからの上陸を提案します〉


「そうだな。すぐにインストールしてくれ。降りる時は闇・・・夜だっけ? 夜とは言え、ひと目が多い事を予想して光学迷彩の展開を忘れるなよ」


〈学習終了時間は30分後〉


 俺はシートに頭を押し付けて目をつぶった。





 1時間後。

 ある地方の某都市、少しまばらな住宅地の近くの公園に突風が吹いた。

 しかし、それはほんの3秒ほどで収まり、再び静寂が訪れる。


〈着地完了 各部異常なし センサー類グリーン〉


 俺はシートから腰を浮かし、モニターを眺める。辺りには適度に大きな木が生え、その隙間を草の茂みが埋めている。その中心に直径200mほどの水が満ちている場所がある。


「なかなかいい場所だ。この大きな水溜りにOVER DOLLを隠しておけるな」


〈これは池というものです その昔 農業用水に使われていたようですが 現在は使用されていません〉


「農業? ああ、食べ物を作る事だったな。現在の現地時間は?」


〈19時半です 一日は24時間なのでお気をつけください〉


「25時間じゃないのか・・・。とにかく上陸中の住む場所をみつけないとな。あと、食べ物や着る物も滞在中は現地調達したい。どこへ行ったら貰えそうだ?」


〈地球では貨幣と言う物が使われているようです それと交換にして全ての物を得るようです〉


「地球? ・・・現地で呼ばれているネロスの名前か? ・・・それじゃあその貨幣はどうやって手に入れるんだ?」


〈基本的に労働と交換のようです〉


「おいおい、それは・・・回りくどい事をしているな・・・」


〈地球では(きん)が貴重のようです 近くに金を貨幣と交換してくれる店があるようなので そちらに行くとすぐに貨幣を手に入れることができます〉


「金? ゴールドか。そんなものが貴重なのか? 確かに、使える金属だが、いくらでも錬金できるだろうに?」


〈その技術がここには無いようです もう一つ 残念なお知らせがあります 地球には金属水素が存在しないようです〉


「え? それでは・・・燃料が少し不安だな」


〈地球に無尽蔵に存在する重水素で代用できます しかし 出力が大幅に下がってしまいますのでご注意ください〉


「そうか・・・。わかった。今ある金属水素はもしものために温存しておいてくれ。それじゃあ金を出してくれ。行ってくる」


〈ユリを一人で行かせることにかなりの不安を感じますが・・・頑張ってください こちら10kgの金塊です〉


 俺はレプリケーターから出された金色の塊をカバンに詰めた。それをヒョイと肩にかけると、コクピットから伸びるワイヤーに足をかけ、地表に降りた。床は・・・、では無くて、地面は草が生え、何かふわふわした感じだ。嗅いだ事のない変な匂いも感じる。毒・・・って訳では無さそうだが・・・。


 俺は後ろを振り返る。

 そこには俺にかしずく巨大な人型兵器がいた。

 

OVER DOLL TYPE NEROS 。

数万年前のネロスの・・・ここでは地球と呼ぶのだったか、地球の環境データを元に新たに開発された機体だと言う事だ。

宇宙戦を想定してないので、光学迷彩を展開するに際、都合の良い白色を基調とした全高12mのOVER DOLL。

OVER DOLLとは主に太陽系より外の惑星を探索する時、上陸任務に使われる人型を模した起動兵器だ。

スピルから地球程度の短距離ならば単独でも航行可能。

形はさまざまで、ずんぐりとした形からスマートな形、多足歩行をするような機体まである。

このTYPE NEROSは汎用性を重視し、二足歩行を採用したオーソドックスなOVER DOLLだ。

地球への任務と言う事で、対巨大生物用武器などは装備しておらず、ごてごてとした外装は取り除かれた。

頭部両サイドにブレードを思わすようなアンテナセンサーが取り付けられ、体はと言うと、人間が軽量型鎧を装着した姿に似た感じで、軽い印象を与えながらも、各部を守る尖ったプロテクターは鋭利な刃物を思わせる。

 


 OVER DOLLは俺が降りたのを感じ取ると、一人で立ち上がり、向きを変えると水の中へ足を踏み入れていく。周囲数キロはありそうな池なので、横になって隠れるには十分な深さがあるだろう。光学迷彩と水が接触している部分が時折乱反射を起こして、キラキラと輝くような光を放ちながら消えた。




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