事態の豹変
何かあの言い方だと小野くんが悪い人みたいじゃん!
先生の馬鹿!!
家に帰ってからベッドに飛び込んだ。
先生に言われたことがぐるぐると頭の中を巡ってる。
“あいつはやめときなよ”
“好きな女が傷つくのは見たくないでしょ、普通。”
「小野くんが人を傷つけるような人なわけないじゃん…。」
私の声は静かに響いた。
――――‐‐‐
先生から忠告を受けて1週間がたった。
あれから何回か話しかけられたけど、全部シカトした。
だって、いきなり生徒に“好き”とか言ってくる先生の言葉を信じろっていう方が無理じゃない?
その反面、小野くんとは何だかいい感じ。
お昼一緒に食べようって誘われたり、男女での2人組を作るときとかも一緒に組んだりして…。
この2、3週間ですごく距離が縮まったような気がする。
だから私は幸せな気持ちにどっぷりと浸かっていたんだ。
―――‐‐‐
「あ。」
「どしたの?」
「宿題持ってくるの忘れてた…。」
放課後、嘉乃と祐子と帰っている途中で宿題を持って帰ってくるのを忘れてたことに気がついた。
「それって今日必要なの?」
「うん、明日までのだから…。待ってもらっちゃうのも悪いから、ごめん、先帰ってて!」
顔の前で手を合わせて2人にそう言い、私は走って、来た道を戻った。
―――‐‐‐
靴を履き替え廊下を進んでいく。
外から聞こえてくる部活動の声が人気のない廊下に響いてる。
この時間帯は校舎には人はほとんどいない。
でも―――。
あれ?
教室電気付いてる…。
少しだけ不思議に思いながらドアに手をかけた。
瞬間、中から誰かの声が聞こえた。
「お前最近永岡と仲良くね?」
声の主は、クラスメートの高木くん。
と、
「やっぱそう見える?」
小野くん。
話の中に私が出てきたから、思わず開けようとした手を止めた。
自然と息を潜めて耳を澄ませていた。
「だって何かあるたびに誘ってんじゃん。」
「まぁな。」
「お前どうしたの、美奈子は。」
話の中に私以外の名前が出てきた。
美奈子、本名は飯田美奈子(イイダミナコ)
彼女もクラスメートだ。
小野くんと彼女は部活のレギュラーとマネージャーっていうだけの関係だったはず。
なのに何で飯田さんの名前がここで出てくるの?
私の疑問をよそに、ドア越しに私が話を聞いているなんて知らない小野くんは可笑しそうに笑いを含んだ声で言った。
「ん、どうもしないぜ?相変わらずぞっこんだけど。」
その瞬間、潜めていた息が止まった。
え、どういうこと…?
「え、じゃあ何、永岡はどういうことなわけ?」
「あれはエサ。美奈子を妬かせるための、な。あいつ全然俺のこと気にかけないからよー」
「うっわ、お前ひでぇな。」
「なんとでも言ってくれよ。俺は美奈子の気持ちを確かめるためなら、これくらいのことはするって。」
目の前が真っ暗になった。
そこからの会話は全くといっていいほど耳に入ってこなかった。
ただ、このときの私に出来たことは、この場から離れるために当てもなく走り去ることだけだった。