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眩しい姿

どうしよう、幸せ過ぎて死ぬかも…!





いよいよ体育祭当日。

あー、いい天気…。

でも。

毎年の『運動オンチ』という肩書きを背負って体育祭に向かわなくてはいけない不安感とは別の意味で、昨日の夜はあまり寝付けず、そのせいもありやたらと太陽が眩しすぎる。

校長の言葉も毎度のことながら長引き、若干のダレた感が漂いながら開会式も終わり、私は嘉乃と祐子と自分の席につき、少しでも眩しさを和らげるため頭からタオルをかぶった。

そして深くしていた眉間のしわが元に戻るとその流れで頬の筋肉まで緩んでしまうのをどうしても我慢出来なくなった。

小さくだが、声まで漏れてしまいそうになる。



「どうしたの?やけに嬉しそうだけど!」


「ん?そうかなぁ?」


「そうだろうね、自分のことなのに聞き口調だし。それに気づいてないかもしれないから言っとくけど、何か微妙に笑い声が口から漏れてるから。」



前文撤回。

漏れてしまいそうになる、んじゃなく、漏れていたようだ。

そして嘉乃さん、やたらと厳しめじゃないですか?今日。



「まぁ、幸せな証拠みたいだから仕方ないけどね。」


「え、未緒幸せなの?何で何で?」


「…えっと」



2人に隠しきれなくなり、小野くんに言われたことを素直に白状する。

校庭のトラックでは障害物競走が行われており、飴食いのゾーンで選手が顔を真っ白にしていた。

頑張るなぁ…。

私はその様子を横目に見ながら説明を続けた。



「…へぇ、そりゃあ幸せな気分にも浸りたくなるよね。」


「…うん」


「よかったじゃん、よかったじゃん!!」


「…うん、えへへ」


「キモい。」


「…。」



そうして若干テンションの上がり下がりはあったものの、体育祭は着々と進んでいった。

自分の出場する競技ではやっぱりいいところはなく、嘉乃と祐子に慰めて頂く結果になった。

嘉乃と祐子はというと、嘉乃は部活に所属していないのに運動神経がよく、難なく自分の競技で1着の旗のところへ並んでいたし、祐子は祐子で「これだけは得意なの」と言っていたパン食い競争で2着になり、あんぱんを嬉しそうに頬張っていた。

何、結局私だけ慰められ組じゃんか。

そうやって拗ねていると祐子が食べかけのあんぱんを差し出してくれた。

優しさに感謝。

ってかごめんね、今日の私何かめんどくさいね。

祐子の食べかけあんぱんで萎んでいた気持ちも回復した頃、小野くんが出るメインの競技、クラス対抗リレーの順番が来た。

小野くんどこかな…。

もうすぐ始まっちゃう。

同じクラスの小野くんだけど、彼は体育委員をやっていてクラスとは別のところに席を構えていたようで、全くといっていいほど今日は彼に会えていなかった。

キョロキョロと周りを見渡して小野くんを探す。



「永岡!」



小野くんを探していた方向と逆の方から誰かに呼ばれた。

振り向くとアンカーのたすきをかけた小野くんがいた。

半袖の体操着を肩までまくっていて、いかにもやる気がみなぎっているのを表していた。



「俺、次出番だから。」


「うん、約束してたし、応援しようと思って…。」


「探してくれてた、とか?」



間違ってないんだけど…。

本人に言われると何だか恥ずかしい。

少し下を俯く。

そして消えそうな声になってしまいながらも返事をする。



「…、うん。」


「サンキュな!」


「えっと、あの、頑張ってね?」



私がそう言うと急に小野くんが顔を近づけて耳打ちしてきた。

え…?

小野くんは用件を言い終えると、顔を離して、少しはにかんだ。



「じゃ、よろしく!」



そう言い残して小野君くんはリレーの選手たちに混ざっていった。

え、ちょっと…。

小野くんの言葉はいつも私の想像を超えてきて。

そして私がそのことで頭がいっぱいになっちゃうのはきっと彼は知らなくて。

彼の口から私の耳を通り抜けた言葉をもう一度反復させる。




“俺、アンカーなんだけどさ、1位だったらなんかご褒美くんない?”




私が話しの展開に着いていけない間にもリレーは始まっていた。

クラスから選ばれた男女5人ずつが交互にトラックを1週ずつ走っていく。

どのクラスも譲らずに、ほぼ同じタイミングでアンカーまでバトンを運んだ。

小野くんが2位でバトンを受け取り走り出す。

1位との差は3メートル位。

追いつきそうだけど、ゴールまであまり距離はなくて。

私はとっさに叫んでいた。



「小野くん、頑張れっ!!」



その時、小野くんがちょっとこっちを見た、気がした。

そしてもうゴールだ、というところで




抜いた。



小野くんがゴールした途端、クラス全員が喜びを顕わにした。

見ているだけのこっちまでが気持ちのいいほどの走りだった。

私はまだ興奮が治まらないクラスメートから少し離れたところで静かに小野くんを見ていた。

私も興奮していないわけではないけれど、みんなのとはちょっと違って。

すると小野くんがまっすぐ私のところに走って来た。

私は胸の高鳴りを抑えつつ声をかけた。



「お疲れさまっ!」


「俺、1位だったよな?」


「うん、おめでとう!」


「サンキュ。って、約束覚えてる?」



そう言って少し心配そうに眉毛をひそめ、尋ねてくる。

いくら興奮していたとはいえ、忘れるわけがない。

だけど…。



「そのことなんだけど、私、何をご褒美にあげたらいいのか浮かばなくて…。」


「あぁ、それは大丈夫。」



小野くんは何も問題ないといった風に答える。

その様子を見て、ただはてなだけを浮かべる私。

そしてそんな私をよそに小野くんは汗を肩で拭きながら言う。



「永岡、今度一緒に出かけるってご褒美、いい?」


「え?!そ、それって…。」


「まぁ、デート、みたいな…?」



後半少し恥じらいを見せながら、確かにそう言った。

……デートっ?!

デートってあの、付き合ってる人達がする、あのデートだよね?!

嘉乃がいたら「その他に何があるの」って一蹴されそうだけど。

うん、そういうの、だよね?

私が口ごもっていると、どうするかと悩んでいるように見えたのか、



「あ、嫌なら、別の考えるけど…。」



と、控えめな声が聞こえた。

こりゃあいかん、とばかりに顔の前で両手を振って笑顔で答える。



「う、ううん!私は平気!」


「よかった!じゃあ…、今度の土曜とかどう?」


「大丈夫!」



私が思わず勢いよく返事すると少し呆気にとられたような顔をしてから、いつものあの笑顔で笑ってくれた。



「じゃあ、永岡ん家に迎えに行くから。」






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