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動き出した歯車

先生は机に肘をついて不満げな顔をした。



え、え?

何その表情。

何で不満そうなのよ?!

先生の不満げな表情の意味が分からず私は少し困惑する。



「……だから。」



いろいろと考えていたからか、先生の声が小さかったからか、語尾のところしか聞き取れなかった。

今何て…?



「え、よく聞こえない…。」



私がそう言うと先生は私を上目で見上げるようにしながら、とんでもないことを言った。



「好きだから。」


「ぇ、え?!」



まさか過ぎる言葉に私は驚きを隠せなかった。

その様子を見て先生は意地悪そうに笑みを浮かべながら席を立ち上がった。

その表情の変わりようはどういうこと?!

ってか、好き?

…好き?!

あ。

すみません、先生。

私“好き”って言葉にちょっと戸惑いましたけど、ちゃんと意味分かりました!!



「あ、先生、ホントは生徒が大好きなんですね!」



私がなるほど、と言わんばかりにそう言うと、先生はまた不機嫌な表情に戻った。

あら?

眉間にしわがよっちゃいましたよ、先生。



「わざと言ってんの?それ。」


「わざとじゃないですよ。ほら、好きって色んなのあるじゃないですか?」


「…そーゆーのじゃなくて。」



とは、どういうことだ。

もうホントに、この人国語の教師だよね。

毎回毎回分かりづらいよ。



「じゃなくて?」



ここで促したことを後で後悔することになるとは、全く思ってもいなくて。

先生の答えをあまりにも無防備に待ちすぎた。



「イイことしたくなる、好きの方。」


「い゛!イイことって何なんですか?!」



刺激の強すぎる言い回しに急激に顔が熱くなるのを感じた。

おまけにホントに急激に血が回ったのか少し目眩がした。

え、夢ですか夢ですよね寧ろ今この瞬間覚めてください起きてちょうだい私!!!



「じょ、冗談はやめてください!」



この悪夢から抜け出すための糸口を求めるように先生に言う。

けれど夢であってほしいと願いながらも、多分これは覚めることも起きることもない現実であってリアルだと分かっていて、それからこれも多分本能的に感じ取った身の危険を回避するために私は先生の顔を出来るだけ視界に入れないように下を見たまま、少し後ずさる。

それが引き金だったかのように先生も間を縮めるように歩きだす。



「俺…、」



わざとらしく間を空けて言う先生。

そういう言い方がいやらしいのよー!

そしてこの国語科準備室はそんなに広くないのであっという間に2人の間はつまっていき、私はとうとう壁に背がついてしまった。

おっと…。



「本気だけど。」



おっとー!!!

その言葉にびくっと体が震えた。

だって何かいつもより声が少し低いし、ってか距離近いしぃー!!

壁に背中がついてしまった私とそれをつめてきた先生の距離は1メートル無い位。

どう考えても先生と生徒の距離感じゃない。

おかしい、おかしすぎる。



「は、離れてください!ちょっと近すぎます!!」


「ふっ。意識してんの?永岡。」


「は、はぁっ!?してませんよ!だ、だいたい信じてませんし!」


「…ふぅん。じゃあ本気だって証拠を見せれば信じんの?」



信じるもなにも、それ以前の問題で。

何で「なーんちゃって。からかってみただけ。」って言わないの?

ちょっと生意気な生徒相手に何むきになってんのよ先生。



「しょ、証拠?あ、あぁ、見せられるもんならみせてくださいよ。」



って、何挑発してんの私ー!!

あほあほあほー!!!

負けず嫌いな性格が裏目に出過ぎちゃったにも程があるでしょ!

私が自分を責めていたところで、下げている頭の少し上のほうでふ、と笑う声が聞こえた。



「いいよ、そっちから了解が出たなら好都合だし。」



ちょっと。

この人もどこまで負けず嫌いなの。

私は恐る恐る目線を上げる。

と、そこには挑発的な笑みを浮かべた先生がいた。

その表情はどこか色気があって、今まで見たことのない、そう、多分今の先生は“先生”じゃない。

“男”だ。

そして先生は目で私を捉えると髪を一束掴み、それにキスをした。



「!!」



私はあまりのことに言葉を発することが出来なかったが、



「これが証拠。」



と意地悪く先生が言った一言で我に帰った。



「ぃ、いやー!!」



私は馬鹿デカイ声で叫び、あらん限りの力で先生のことを突き飛ばして、国語科準備室から飛び出した。




「スゲー馬鹿力…。」



出て行った未緒を呆然と見送って浅野はそう言った。






私は走ったまま教室に入り、自分の鞄を掴んですぐさま下駄箱で靴を履きかえて、校門を出た。

そしてしばらく走ってからようやくペースを緩め、立ち止まった。

何だ今の。

何が起こったのかさっぱり分からない。

私はあいつに無理矢理押し付けられた変な宿題を答えに行った、だけ。

それなのに何であーゆー展開になるわけ?!

ぐるぐると今までの状況を思い出す。



「もー!!何でなのよー!!!」


「何が“何で”?」



考えすぎて思わず出た独り言に返事がついてきた。

大きく体を振るわせて声のした後ろを振り向いた。

そこにいた声の主は、クラスメイト兼私の好きな人である小野くんだった。



「小野くん…?!」


「永岡今帰り?」


「あ、うん。小野くんも?」


「うん、今日は部活が短縮だったんだ。」



そう言ってちょっといたずらっぽく笑う。

かわいい…。

小野くんは体の線も細くはないし、寧ろテニスをやっている分ある程度筋肉はついてるから中性的なそういうのではないけれど。

そう分かっているのに思わず浮かんでくる彼へのその印象はやっぱり特別な感情が故なのだろうか。



「ねぇ永岡、よければ一緒に帰ろうよ。家同じ方向だよね。」


「え!いいよ!」



小野くんからの突然の誘いに驚きながらも、喜びを隠せない。

自然に頬の筋肉が緩んでいくのがわかる。

え、今日っていい日じゃない?



「じゃあ行こっか。」


「うん!」


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