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2人きりになった瞬間




夏の1日はまだ長い。







「近いんですってばっ!さっきから!!」



嘉乃たちと別れて先生と歩いていたんだけど、さっきから余計に近い。

周りから見たら、付き合ってたり、何かそんな風に見えちゃうんじゃないかってくらいの距離。

私はそんな風に見られてたら嫌だから、離れるんだけど。

でも、その離れた分をあいつはまた縮めてくる。

そんなことを繰り返してるから、なかなか海の家に着かない。



「気のせいじゃない?」


「そんなわけあるかぁぁあ!!」


「はいはい、かっかしないの。ただでさえ暑いのに。」



くー!!

こっちだって、暑いっつーの!



「はいはい、失礼しましたー!」


「え、何急に謝ったして。キャラいつもと違くない?」


「もともとこんなです!」



先生とくだらないやり取りをしているうちにようやく海の家に着いた。

海の家は、結構人がたくさんいて、ガチャガチャしていた。



「えー、と。買うものは…」


「サイダー、ミネラルウォーター、焼きそばとイカ焼き、あとかき氷。」


「え…、あ、わ、わかってます。わざわざ言ってもらわなくても。ってか、私が買ってくる物以外も含まれてますけど。」



私は言い返すが、先生からは返事がない。

不思議に思って先生の方を見ると、先生はレジの人にそう言っていた。

ちょっと、恥ずかしいじゃんっ!

すると、先生がこっちに声をかけてきた。



「永岡は?」


「え…?」


「だから、永岡は何を頼むのって」


「え、べ、別に、私は…」



急に聞かれたので、さっと答えられない未緒。


ってか、奢られるのは勘弁!

後で何を言われるかわかったもんじゃない。


未緒が答えないでいると、浅野が急かしてきた。



「早く、何にすんの?」


「……じゃ、じゃあ、ソフトクリームで」


「あと、ソフトクリーム1つで。」



浅野はそれだけ言って財布からお金を出して、物を受け取った。



「ん。」


「…、どーも、ありがとう…、ございます」



先生から手渡されるソフトクリーム。

一口食べると、冷たい甘さが口の中に広がる。

おいしい…。



「ちょっとあっちの方、行く?」



私がおいしさに浸っていると、先生はそう言ってきた。

と、同時にさっきとは違う方へ歩いていく。


まだ返事返してないんですが…。

あんまり気は向かないけど、アイス買ってもらったし、勝手にいなくなるのは非常識だよね…。


私は先生のあとについていくことにした。




―――――――‐‐‐




たどり着いたのは、人気のない静かな砂浜だった。

先生が座り、私は少し間を空けて座る。

すこし傾きかけた太陽は相変わらず海を照らしていた。



「……」


「……」



しばらく2人とも話さず、ただ海を眺めていた。

買ったものを持って行かなくていいのかと少し気になり、声をかけてみる。



「…そろそろ行かなくていいんですか?」


「もう少し。」



そう言われて目線を海へ戻す。

先生がここで何をしたいのか分からなかったけど、誰もいない浜辺で波の音だけが私へ届き、それに耳を傾けていた。





―――――――‐‐‐





どれくらいの時間、そうしていたのかわからない。

ただ太陽が眩しいものから暖かいものに変わっていて、海をオレンジ色に染めているのに気づいて私はもう一度先生の方へ顔を向けた。


その時の、先生の夕日色に染まった横顔は何だかいつもと違く見えて…。





何もされてないのに、



勝手に少しだけ、














ドキドキした。





「ねぇ。」


「え?」


「アイス、せっかく買ったのにもうほとんど溶けてるんだけど。」



そういえば海を見ている間、ほとんどアイスに口をつけていなくて。

気がつくとアイスは溶けて、手だけではなく腕の方まで垂れてきていた。



「え、あ…」



私は我に返って、アイスの状態を見て慌ててアイスを持っていない左手で軽く拭いた。

すると横から手が伸びてきて。



「どうしたらここまで気付かずにいられるの。」



先生はそう言いながら私の左手を掴んだ。

そして、その左手に唇を寄せる。



「!」



先生の唇の感覚が手から伝わる。

あまりの出来事に恥かし過ぎて、顔を背けることしか出来ない。

ど、しよ…。

体が、動かない…。



ちゅっ



「!!」



未緒が動けないうちに浅野は手についたアイスを舐め、最後に指先にリップ音をたててキスをし、手を放した。

それを聞いた瞬間、さっきまで動かなかった体にスイッチが入ったように自由がきくようになった。



「な、な、何してくれちゃってんですか?!」


「俺、アイスとか甘いの好きじゃないけど、こーゆー食べ方なら好きだよ。」


「そんなこと聞いてません!ってか、話し反れてます!!」


「はぁ、何回言わせんの。あんま」


「かっかすんなって言いたいんですよね?!でも、そうさせてるのは」


「俺、って言いたいの?」


「よくわかってるじゃないですかっ!!」


「俺、そんな覚えないんだけど」


「わ・た・し・は、そーゆー覚えがいくつもあるんですけど!」



未緒がそこまで言い切ると、浅野はふぅ、と浅くため息をついた。



「………じゃあわかった。今度からは気をつける。」


「…そうしてもら「でも、今のことは謝らないよ。」はぁ?!」



1番謝って欲しいとこはそこなんだよ!!



「だって俺、悪くないし。」


「勝手なこと言わないで下さいっ!」


「だって、永岡が俺のこと見てたから……」


「え…っ」



先生気付いてたんだ…、私が見てたこと。

どうしよう、恥ずかしい…。



「愛しそうに」


「愛しいわけないに決まってるでしょうがぁぁ!!」


「いや、愛しそうだったね、あれは。まるで恋人を見るかのように。」


「頭の中で妄想するのは勝手なので、仕方ないということにしても、声に出すのはやめてください!」


「あ、やべ。声に出てた?」


「わざとらしいー!!」





夏の夕方の海にはいつまでも、からかう男の声と、それに怒って反論する女の声が響いていたとか――――






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