歳の差の分だけ上手(うわて)
「意識してんじゃん。」
浅野がそう嬉しそうに言っていたことを未緒は知らない。
―――‐‐‐
「北條大学3年、島谷洋平(シマタニ ヨウヘイ)です。よろしくねー」
「同じく、北條大学3年、渡辺准(ワタナベ ジュン)です。浅野先輩の後輩です!」
「後輩ってことは…、先生北條大学出身なんですか?」
「まぁ」
「意外ですね。」
「緒方(オガタ)、それどういう意味?」
「緒方嘉乃、高3です。」
「スルー?」
「永岡未緒です。」
「本田祐子です!よろしくお願いしまーす!」
「え、何、この展開。」
「浅野先輩、いつもこんな感じなんスか?」
「もしかして、相手にされてないとか…?」
島谷と渡辺が浅野をからかう。
そんな2人に浅野はムッとして言った。
「あーぁ、急に強気になったね、お前等。」
「そりゃあ、なかなか弱みを見せない先輩っスから、なぁ?」
「おぅ、しかも生徒さんたちもこっちの仲間っぽいんで、なおさらっスよ!」
そう言う2人。
でも、浅野もなんだかんだ言って本気では嫌そうではない。
その様子を見て、祐子が笑った。
「先生もそんな顔するんですね!」
「確かに。見たことないかもね。」
「え、そうなの?先輩いつもどんな感じ?」
「うーん、何を考えてるかわからない感じ?」
「無表情ってこと?」
最初自己紹介しただけで後は聞き手側になる未緒。
この、浅野の話題に自分も口を出すと、何だか浅野の思うツボになりそうなので、黙って相槌をうつだけに徹する。
話題変わらないかなぁ…。
ホントは比較的おしゃべりな未緒は自分も会話に入って喋りたい気持ちでいっぱいだ。
しばらく話しが変わるタイミングを見計らっていたが、無理のようで。
仕方ない…。
「あの…っ」
未緒がそう言うと、全員が未緒の方を見る。
「えっと、何か喉が渇いちゃったから、飲み物買ってきたいな…、なんて。」
一旦席を外して、帰ってきたころには流石に話題が代わっているだろう、という期待を込めた発言。
それからいろんなことへの気疲れから、ちょっとだけ1人になりたいなぁ、なんて。
「…わかった、じゃあ、私のも頼んでいい?」
「私、サイダーがいい!」
嘉乃と祐子は未緒が飲み物を買いに行きたいと言った理由に気づき、そして、しばらく1人でいたいということまで察し、自分たちの分まで頼んだ。
「いいよ、嘉乃は?」
「ミネラルウォーターで。」
「了解。じゃあ、行ってくるね」
未緒は財布を持って立ち上がった。
すると、ワンテンポずれて、浅野も立ち上がった。
「俺も何か買いに行こっと。」
「え、はぁ?!」
思わず、荒げた声が出た。
今一緒にいたくない人ランキングで1位なのはアンタなんだよ、先生!!
「あ、じゃあ、欲しいもの言ってください。私買ってきますから。」
どうにかして浅野が一緒に来るのを阻止しようとする未緒。
しかし、相手は4つ年上。
そんなに離れてはいないにしても、やはり経験に差はある。
「んー、まだ何にしようか決まってないし。」
「なら、決まったら私のケー…」
私は、はっとして口を塞ぐ。
逃げ道がない…。
もし今あのまま言葉を繋げてたら、ケータイ番号をあいつに教えることになっていたに違いない。
それから、もし仮に教えないで行っても、祐子が悪気はなく先生に教えてしまう可能性が高い。
それで後から、『ごめん、教えちゃった』、が落ちに決まってる。
ダメだ。
どれを選んでも私はあいつの手中ってことだ。
「…わかりました、じゃあ行きましょう。」
「ってことで俺、永岡と買い物行ってくるから、4人で親睦深めといて。」
「了解っスー」
「あ、ついでに俺のも頼んでいいっスか?」
「…しょうがない、何。」
「えっと、焼きそばとイカ焼きと、かき氷と…」
「ちょっと頼みすぎ。」
「いいじゃないですかー」
そう言う渡辺はニヤニヤしている。
そして、浅野に耳打ちする。
「永岡さんと一緒にいたいんでしょ?片思いの手助けしてあげるってことですよ、先輩」
バッと離れ、渡辺を睨む。
「何で知ってんの。」
「まぁまぁ、それはいいじゃないですか。」
何だか、はぐらかされた感じがしなくもない浅野だか、渡辺がわざわざお節介をやいてくれてるので、それに甘えることにして。
頼まれたものを買ってくることにした。
「じゃ」
「いってらっしゃーい!」
「はぁあ」
未緒はやる気なくビーチを歩き出す。
その横を浅野が歩く。
その距離が意外に近いことに気が付いて、少し距離を離す未緒。
そしてまた、距離を離されたのを縮める浅野。
だんだん小さくなっていく2人を見送る4人。
「……何してんの、あの2人。」
夏の1日はまだ長い。