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真夏の海にて




だから、もっと警戒心を持っとくべきだったんだ。




―――‐‐‐





学校も終わり、学生たちの愛すべき夏休みがやってきた。

私たちは7月の後半に海に行くことにした。

それまでに課題をある程度は終わらせておくことにしたのだ。



――――仮にも受験生なわけだし。



嘉乃に言われたこの言葉。

“受験生”。

この時期、嫌でも耳に入ってしまう。

今年1年は離れたくても、離れられないこの単語。


仕方ないよね…。


『夏休みは海に行ってました。なので課題は終わってません!』



なんて、正々堂々と言えたもんじゃない。

受験生辛いっ!

課題の量は多かったが、嘉乃と祐子と勉強会をやり、どうにか半分は終わらせることが出来た。






―――‐‐‐






「やったー!海だ、海!!」


「夏が来たよ!夏が!」


「いや、夏はとっくに来てたけどね。」



未緒と祐子は嘉乃のツッコミにもへこたれずに海に向かって走っていく。







と、その時。




未緒の目に、そこにいるべき人ではない人物の存在が写り、急ブレーキをかけ、元来た方向へ走り戻る。




しかし。



「あっ!先生!!」



祐子がその存在を捉えてしまった。



「あ、本田(ホンダ)じゃん。」



本田は祐子の苗字。






とか言ってる場合じゃなぁーい!!!

何で?何で?何で?!

どうして先生がここにいるわけ?!

しかも、他の先生ならまだしも、



「浅野先生、どうしてここにいるんですか?」



何であいつなのぉお?!



「あぁ、俺は大学の後輩に誘われて。」


「あっ、そうかぁ!去年まで大学生だったもんね、先生。」



親しげに先生と話している祐子。

あー、どうか私に気付きませんように…!


しかし、未緒の願いも虚しく、浅野は今気付いたのか、もともと知っていたのか、祐子に言った。



「あそこにいるのって、永岡?」


「はい、嘉乃もいます。今日は3人で来ているんですよ!」


「へぇ」


「未緒ー!」



祐子が未緒の気持ちに気付かず、大声で呼ぶ。

未緒は呼ばれて、立ち止まる。

そして、ゆっくり振り返ると、祐子が手を大きく振っていた。

その横には、どこかで見たことのある、あの不敵な笑みを浮かべた浅野がいた。


私が引き攣りながらどうにか笑いながら手を振り返すと、祐子は先生と何だか話している。

そして、



「先生たちと一緒に遊ぶことにしたよー!!」



………ん?

何だろ今の。

何か幻聴が…。

“一緒に遊ぶことにした”?!

え、何、“遊ばない?”ならまだしも、もう決定事項?!

私が動揺しているうちに、祐子は嘉乃のところまで行って話している。

嘉乃、どうかダメだと祐子に言ってあげて…。



「いいんじゃない?」



死。

もう終わった。


未緒がうなだれていると、横に人の気配が。



「さっきの笑顔、かなり引き攣ってたけど。」


「…そんなことないですよ。」


「いや、永岡が思ってるほど笑顔になりきれてなかったから。」


「じゃあ逆に聞きますけど、それって誰のせいだと思いますか?」


「さぁ?」



わざとらしいー!

アンタだよ、アンタ!!

アンタが海にいて、祐子の隣に立って、一緒に遊ぶことにしたからだよ!



「ってか、何でここにいるんですか。」



私は一番気になっていたことを口にした。



「大学の後輩に誘われたから。だから、誰かさんたちが7月の後半に海に来るなんて話しは聞いてたわけじゃないけど?」



………あ、れ?

その言い方に違和感を覚えた。

ちょっと待って。

え、もしかして…。



「ちょっ、まさか…!」



聞いてたのか!!

こいつ私たちの話しを聞いてたんだ…!



「まぁ、いいじゃん。何でも。」



よくないだろ!話しを流すな!!




ってか…。

勢いで何だか話してしまったけど、この距離に先生がいるとこの間のことが思い出されて。

何か顔見て話せない。



「ねぇ、何でさっきから下ばっか見てんの?」


「な、何か綺麗な貝ないかな、って…。」



そして、そのことに気がつくんじゃない!!

空気読めよ!!

国語の教師だろうっ


でも先生はそんなことを全く察する様子もなく、



「ふーん。…なら、」



そう言うと、私の顔を両手で上げて、自分の方を向かせた。


ち、近い…。

先生と私の距離、20cm弱。

あれ、何かの本で読んだことあるぞ。

30cm以内にいて嫌な感じを感じなければ、夫婦や恋人レベルでどうのこうの…。



って、それを感じる以前にあっという間に夫婦&恋人圏内に入られちゃってるんですが…!!!



しかし私がいろいろ考えてる最中に相変わらず先生は自分のペースで言ってのけた。



「俺の顔、見て話せるよね?」



一瞬で顔が熱くなるのがわかった。

先生の手は相変わらず顔に添えられてて、その手が余計に顔を熱くさせてる。


ひーっ

これ以上はまずいー!



「…っ、み、見れますよ!」



私は恥ずかしさを紛らわすために、ムキになって声を発する。

そして、顔に触れている手を引きはがす。



「顔見たって意識なんてしませんから!ガン見してあげますよ!!」



そう言い切って、未緒はずんずんと祐子たちのいるところに歩いて行った。



自惚れないでよね!!

ってか、前にもこんなことがあったような、気がしないでもないのは…、私な気のせいか…?








「意識してんじゃん。」



未緒が歩いて行ってから、浅野がそう嬉しそうに言っていたことを未緒は知らない。






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