出会い
出会いは今年の4月。
あいつが新任教師としてこの学校に来たことから始まった。
髪の毛の色はこげ茶で襟足が少し長く、目は二重でまつ毛が長い。
鼻も通っていて、肌は色白だがほどほどに健康な色だ。
まぁ、世の中の一般の人風に言うのなら…。
そう、イケメンに属するタイプ。
そんな外見に見惚れる人はもちろん多く、女子から絶大な人気を誇っている。
担当教科は国語、うちのクラスの担任。
それから歳は22歳、これは人気の理由の1つだ。
私たち高校3年生と4つしか離れていない。
4つしか離れていなかったら普通、生徒に舐められるものじゃない?
なのに、あいつは違って。女子だけでなく、男子にも慕われている。
クラスのみんなはあいつを信頼して、尊敬さえしている。
ただ1人、私を除いて。
私はあいつが嫌いだ。
大嫌いだ。
あいつが新任教師だからだ、とか。若いくせにみんなから信頼を得て、どんな技を使ってるかわからなくて信じられないから、とか。
口うるさいとか、課題が多いから。
とか、そういうことではなくて。
何が嫌なの、と聞かれると困ってしまうけど。
言葉にするのは難しいけれど、ダメなものはダメなんだ。
嫌い、と言うともしかしたらちょっと違うのかもしれない。
苦手なのだ。
最初見たときから、なんとなくだけど苦手意識が働いた。
ああいうタイプは女遊びとかしちゃってそうだし、生徒とかにも隠れて手、出してるような、そんなあくまでイメージだけど私の脳内にはそうインプットされてしまっている。
人を外見で判断してはいけないという。
そんなことがわからないほど幼い子供ではないし、そんな自分を戒める気持ちもないわけではない。
ただ、本能があいつを得意としていない、そんな気がして。
だから、苦手じゃなく、嫌いという言葉を当てはめているのかもしれない。
とりあえず、いろいろと言い訳じみたこともぐちゃぐちゃ連ねてみたけれど、言いたいことはこれだけだ。
私はあいつが嫌いだ。
*
「ねぇねぇ、未緒(ミオ)。次国語だよ!浅野先生だよ!テンション上がるね!」
友達の1人である、祐子(ユウコ)がテンションが上がってるせいか、いつもより少し高めの声で話かけてくる。
「相変わらずあいつのこと好きだね、祐子。」
「もー!未緒はいつも“あいつ”って言うっ!」
「だってさ、好きじゃないんだもん。」
「何で何で?あんなにかっこよくて、いい先生はなかなかいないよ?」
「かっこいいっていうのはあえて否定はしないけどね。どこが“いい”先生なの。」
「ん?全て?」
何で語尾がクエスチョンなの。
と、心の中で悪態をつきながら祐子の話しをスルーする。
「あ、ちょっと!またそうやって浅野先生の話になると勝手に終わらせる!」
「だから、好きじゃないんだってば。」
「はぁ…、浅野先生の良さがわからないなんて可哀そう、未緒。」
憐れんだ目で見てくる祐子。
わからなくて結構。
私はそんな表情で返し、席を立ちロッカーへ向かう。
それに…。
気になる人、いるんだもん。
好きでもないあいつのことなんて、気になるわけないじゃん。
*
国語の時間。
あいつがドアを開けて入ってくる。その姿を目で追う女子たち。
毎時間同じことをやってて飽きないのかねぇ。で、今日もいつも通りなら…。
「あーはい、前の時間の続きからね。じゃあ、今日は23日だから35番永岡。読んで、16行目から。」
はぁ。
私はため息をつきながら、ゆっくりと席から立ち上がる。
本名、永岡未緒(ナガオカミオ)。 出席番号、35番。
今日の日付と何の関わりもない番号。
いや“今日”と、限定するのは誤りがある。だいたい、35日なんて日付は存在しない。
なのに、毎回あいつの授業では必ず当たるのだ。
というか、それに気付いている人は誰もいない。
誰かしら気付いてくれているなら、弁護人としてついて来てもらって抗議しようとも思う。
けど、1人だったらどうせ言いくるめられて終わるに決まってる。
だったら、無駄に関わりたくない。
私は大人しく指定された場所から読み始める。
*
授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。と同時に何人かがばらばらと席から離れていく。
その中で、授業の片付けをしていたあいつがふと思い出したように言った。
「永岡、放課後俺んとこ来て。」
……何だろ。