#7 スクルド
「ウルズ御姉様。アリスの騎士が来たみたいですよ」
何処か物憂げに泉を覗き込んでいたヴェルザンディが言った。
「あら・・・彼は彼女の事を大切に想っているのね…」
「“グレート・アリス”の騎士とは大違い。アリスは“グレート・アリス”の…」
「ヴェル!」
「す、すみません、ウルズ御姉様…」
ウルズに叱られ、ヴェルは慌てて口を噤んだ。
「此処は“神の部屋”とは違うのです。何処で誰が聞いているのか、わからないのですよ」
「はい…」
そう答えた後、少し重くなってしまった空気を変えようと、ヴェルは、泉を覗き込んだ…
*** *** ***
「アリス!無事か!?」
路地に、ネロの声が響く。
「ネロ!!」
アリスにとって、ネロが傍に居ることは、何よりも心強いものだった。
「アリス、“祈る”ことはできそうか?」
「うん…ネロがいれば大丈夫だよ」
微笑むアリスの身体からは、汗が溢れだしていた。
――ちょっと無理がありそうだな…
ネロがそう感じている時。
二人のやり取りを静観していた少女が、ネロに向けて言葉を放つ。
「君、“グレート・アリス”の騎士じゃぁ、ないの?」
「ぐれーと・・・ありす?」
何の事だか、まったく分からない様子のネロに、少女は言葉を続ける。
「そぉかぁ…君は“グレート・アリス”の騎士の影武者…置き土産なのかなぁ…」
「“本物”よりも主を想ってるんだね…」
そして、口が裂けんばかりの笑みを浮かべる。
「面白いじゃないか!!良いだろう。僕の名前を教えてあげる」
ナイフをしまい。
「僕は“スクルド”。“グレート・スクルド”だよ」
「ネロ・・だったかな?君はいつか僕の手で消させてもらうよ」
スクルドは“闇”を引き連れ、暗がりへと消えていった…
*** *** *** ***
スクルドが姉たちの待つ“ウルズの泉”へ足を踏み入れた刹那。
「った…!?」
結晶が腕を掠り抜けた。
「スクルド。彼ら人間に“本物”や“グレート・アリス”の事を教えるだなんて…」
ウルズが怒りに震えていることを、スクルドはすぐさま察した。
「ウルズ御姉様。ご安心ください。彼らはその事を喋らないでしょうし、僕は近々彼らを処分するので」
「…“グレート・アリス”の置き土産…確かに、私達の世界に入らないものですね…」
「…いいでしょう。貴方の好きになさっても。ただ、私は知りませんよ。グレート・アリス”のお怒りを 買ったとしても…」
「お許しいただき、光栄です」
その言葉を聴き、背を向けるウルズ。
スクルドは笑みを浮かべ―――