#6 偏見
「ネロ…」
脳裏にネロの姿が浮かぶ。
『アリス。直ぐそっちに行くから、待ってろよ!』
ネロの声を聴いて少し安心する。
――― さて、と…
ネロが来るまで、どうやってこの男たちの相手をしようか。
「…姉ちゃん。人の話聞いてんのか?」
ニット帽を深く被った男が言う。
「人の話はしっかり聞けって、母ちゃんに習わなかったんじゃねーの?」
Pコートを身に付けた男が言う。
アリスは、不良には言われたくない事だな、と思うも、沈黙を貫き通そうと考えたのだが。
「お姉さん、祈り人でしょ?」
男たちに不釣り合いな、育ちが良いであろう少女が言う。
「…そうですけど…」
思わずそう言ったとたん、男たちの目つきが変わった。
「じゃぁ、姉ちゃんは俺らが今どういう状況か分かってるわけだ・・・」
しまった、そう思うより早く、視界が暗くなっていく。
意識が遠のいているのかと一瞬錯覚したが、違う。
男たちの身体から“闇”がその身体を覗かせているからだろう。
「あーあ…お姉さんのせーで、兄さん達の“闇”が出てきちゃったじゃん」
先ほどの少女が、小首を傾げ、綺麗な金髪を揺らしながら言う。
そして、コートから掌くらいの何かを取り出し、弄び始めた。
「この町自体が基本的に祈り人を良く思っていない…」
男たちの姿が崩れていく。
「時には命に関わるから、そういう偏見の事とかは知ってるはずなのに」
シュッ、という軽い音が響いた後、少女の手には銀に光るものがあった。
「お姉さん。ぬけてるね」
「それとも、馬鹿なだけなの?」
「し、失礼な…」
少女はケラケラと笑う。
「ちなみに、僕が兄さん達とどういう関係か、分かる?」
幼い頃から母を見つめて育ってきたのだ。
それくらいは、分かるようになったつもりだ…
…少女が、“招かれざる者”だという事くらい…
*** *** *** ***
透き通った水が湧き出る泉に、二人の少女が足を浸けていた。
「あーあ…スクルドったら、抜け駆けしちゃって…」
頬を膨らませて、少女は言った。
「きっと、スクルドにも考えがあるのよ、ヴェルザンディ。」
大人びた少女がそう、「スクルド」をフォローする。
「でも、ウルズ御姉様、あの子にそんな考えがあるように見えますか?」
間を置いた後、「ウルズ」は答えた。
「…ごめんなさい。とてもそうは思えないわ…あの子はいつも「~だろう」って言ってことを起こしているから…」
「ですよね…はふう…私も行きたかったなぁ…」
「とりあえず、あの子が帰ってきたら叱ってやることにしましょう、ヴェル」
「そうですね、ウルズ御姉様」
そう答えたもののヴェルザンディは、妹が少し羨ましいという気持ちは消えず、今直ぐ飛んでいきたいと思っていた…