『龍の愛し子』は大往生したい
ななつの大陸と小さな島々で構成されている、7体の『龍』が存在するこの世界。龍は気紛れで『愛し子』を選び、周辺の島々を含む大陸毎に加護を与えてきた。
この大陸を守護する龍は青龍で、色による格の違いは無く全ての個体が同格。
『龍の愛し子』
それは成人の儀で男女問わず選ばれる、龍の加護を受けた存在。『愛し子』の住む大陸には恵みが齎され、自然災害や疫病を遮断する結界が張られる。
――と。庶民としての成人の儀にてその説明を受けた後、洗礼で『龍の愛し子』と発覚したルナリア。両親は諸手を挙げてルナリアを神殿へ売った。
成人したばかりの娘に対して中々に薄情ではあるが、それはルナリアの身を護る為にも必要なこと。身代金目的の犯罪集団から狙われる『龍の愛し子』を家で保護し続けるなんて、庶民の彼等には不可能。
だとしたら神殿に売り王家に保護してもらうことは理に適っている。確実に、どの家でも同じ判断をする。
現に、両親とは手紙でやりとりは可能と教えてもらった。1通目には『龍の愛し子』の両親として貰った補助金でウハウハと書かれていたので、やはり薄情かもしれない。
あれよあれよと。
教会内でシスター達から身を清められたルナリアは10日間の菜食と『愛し子』として龍への祈りを済ませ、それが終わったと思えば王宮へ。その日の内に継承権の低い第三王子の婚約者として公表され――
――現在。
庶民時代とは比べるまでもなく豪華な部屋。ドレス。装飾品。貴重な香辛料を惜しみなく使った料理。複数の護衛、複数のメイド。
いやめっちゃ窮屈。
ルナリア――現代日本でブラック企業の社畜として過労死し、この世界に転生していた彼女。幼い頃は前世の記憶もその内消えるだろうと思っていたが、記憶を持った儘に成人してしまった。
しかし、きちんと“ルナリア”としての自我が構築されているので「まあいっか」程度。家が程々の商家だったので徐々に社畜根性は薄れ、今は正常な仕事量を見極められることが出来ている。
出来ていた、のに。
まさか私が『龍の愛し子』に選ばれるとは。
このまま、婿を取ってのんびり程々商家ライフで満足だったのに。なによ、王子って。王族入りて。
も〜〜〜やだ〜〜〜のんびり暮らしたかったのに〜〜〜王族のいざこざやだ〜〜〜絶対王族の闇には関わらないからな。絶対にだ。
強く心に決めるルナリアは、向かいに座る第三王子――アレクシウスの王子様スマイルに口元を引き攣らせての笑みを返しておく。
婚約者。前世では人並みの経験はあるが、今世を含め婚約者なんて初めてで対応に困る。相手は王子なので余計に困る。
そして更に困ることがあって……
「城での暮らしは慣れましたか?」
「少しずつ。皆さんが、良くしてくださるので」
「何か必要な物があれば遠慮無くお申し付け下さい」
「は、い」
王子様からの敬語。過度な庇護。『龍の愛し子』に対しては正しいのだろうが、問題は……コレ。
なんとなく。漠然とだが伝わって来る、王子様スマイルの奥に潜む敵意。と、怯え。
それはアレクシウスだけではなく、付けられた護衛やメイド達からも伝わって来るもの。敵意は……まあ理解は出来る。庶民がいきなり婚約者になったのだから、納得も出来ないだろう。継承権が低い故に彼に婚約者がいなかったことだけが幸いか。
しかし“怯え”が理解出来ない。何故『龍の愛し子』に怯えるのか。自国に現れたのならそれこそ栄誉で、大陸に恵みを齎し自然災害や疫病を遮断するのだから周辺諸国への発言力も増すだろうに。
その利益を凌駕する程の“なにか”がある。……と云う事か。
漠然と。そう確信するルナリアは、しかし何かを確認することはしない。面倒事は全力で回避するに限る。
――あ。
「必要な物ではないのですが。食事が、その……味が濃くて。香辛料は高価で口に出来ることは有り難く思いますが、出来れば素材の味を活かした味付けをお願いしたいです」
「、……わかりました。伝えておきます」
「ありがとうございます」
正直、新手の拷問かと思っていたので承諾されたことはとても嬉しい。つい漏れた、安堵の息。
「他には?」
「ぇ。えっと……ぁ。お肉を減らして野菜を増やしてほしいです。お肉4:野菜6くらいのバランスで」
「肉……を。他には」
「ぇ――っと。お菓子は少なめで大丈夫です。甘さも、控えめが好みです」
「分かりました。他には」
「ほか……紅茶だけじゃなくて、10分以上沸騰させたお湯も欲しいです。作り置きではなく、その都度」
「沸騰? その理由を訊いても?」
「殺菌です。生水には、身体に害となる極小の生物が潜んでいるので」
ざわっ。
護衛とメイドが一斉にざわつき、びくりと肩が鳴る。向かいのアレクシウスも目を見開き、何やら驚いている様子。
え。なに。こわい。
「えっと……?」
「なるほど。分かりました。氷は?」
「え。氷は、香辛料より高価ですよね?」
「王侯貴族へ金銭面の心配をすることは、寧ろ失礼となりますよ」
「……たしかに。あの、でも氷は要らないです。同じように沸騰させた後に凍らせないと、殺菌効果は薄いので」
「、――分かりました。貴女は、不思議な『龍の愛し子』様ですね」
「はい?」
「いえ。氷、なんとかしてみます。またお伺いします」
「え、あ。はい。良い1日を」
「はい。貴女も」
変わらずの王子様スマイル。しかし、漠然と伝わって来ていた敵意と怯えが薄れた印象。
なんだったんだろうとルナリアは首を傾げるが、考えても分からないことだなとさっさと思考の外へ追いやる。代わりに、濃い味付けの食事をこれから回避出来る事への喜びを噛み締めた。
どうやら“日本人の味覚”を引き継いでいるらしく、庶民時代は特に不便は無かったが……大量の香辛料は舌に合わない。あと普通に内臓に悪い。
前世の死因が社畜での過労死なので、今世は健康に長生きをしたいのだろう。野菜は元から好きで、甘いものも頻繁には食べずとも構わない。
「愛し子様」
「はい」
メイドのひとり。すっ――と側に寄ったその静かな移動には感心しているが、まだ慣れない。気配が薄くてちょっと怖い。
「本日のお菓子の中で、好みのものはありますか?」
「あ、はい。ミルククッキーとバタークッキー、チョコケーキです。チョコは、もう少しほろ苦い方が」
「ほろ苦い……ですか」
「えぇっと。コーヒーを混ぜるとか。コーヒー味のホイップが舌に合いそうです。――あ。紅茶のクッキーを作ってもらえますか? 茶葉を細かく刻んで、生地に練り込む感じで」
「……畏まりました。伝えておきます」
「お願いします」
やった!と。ほくほく顔でミルククッキーを堪能するルナリアは、護衛とメイド達が安堵の息を吐いたことには気付かなかった。
何がどうしてこうなった。
軽い現実逃避として遠い目をするルナリアの向かいには、王子様スマイルのアレクシウス。その横に、王太子。更に、王。
なにゆえ。
引き攣った笑みを返しておいた。
「『龍石』――知っていますか?」
「えぇと。稀に、地中から発見される……龍の慈悲により些細なお力を分けて頂ける、鉱石。『龍具』を動かす為の動力。ですよね」
『龍石』とは、前世に嗜んでいたファンタジー作品で言うところの“魔石”。『龍具』とは“魔道具”のようなもの。当然、高価。
この世界には魔物はおらず、その代わりのようなものだろうか。使い終わった龍石は透明になり、再び土に埋めるとひと月程でまた使用出来るそうな。
因みに。この世界には魔力はあるが『魔法の理』は存在せず、魔力の使い道は龍石に込めるだけ。野球ボール程の大きさの龍石を完全に満たす魔力持ちは1万人に1人の割合――稀少な人材なので、当然ながら各国の王族に囲われている。
完璧なクリーンエネルギー、素晴らしい。
「流石、商家の出ですね。その龍石を使い極小の生物を観測出来る龍具を作ったところ、貴女の言葉通り生水から無数の生物が確認されました。沸騰後に時間経過で水がどうなるかも何度も観察し、作り置きの危険性も理解しました。――この実験結果は、対策と共に既に全世界へ発表しております」
「は、あ。それは、国の発言力が増しますね」
「それだけですか?」
「え。他に、何が?」
「『氷を作る龍具は作らなかったのか』とは訊かないのですか」
「?……ぁ。言っていましたね、そういえば。氷よりも、健康被害を減らす事を優先するのは当然かと」
「……ふ、ふふっ」
「え」
「いえ。……ん、ふふっ。ちゃんと作っています。氷を作る龍具も」
「それは……龍石の無駄遣いでは?」
「何か問題が起きた時の為に、個人的に保管していたものなので。構いません」
「とっても構うのですが」
「では。健康被害への対策を提供して頂いた事に対する報酬、で」
「あぁ。それなら。ありがとうございます。氷を細かく砕いてフルーツシロップや濃厚なミルクを掛けたら、冷たいスイーツとして爆発的な人気が出ますよ。フルーツを添えると見た目も華やかで、女性が喜ぶ新しいデートスポットになるかと。一気に食べたらアイスクリーム頭痛――頭がキーンと痛くなるので、ご注意を」
「早急な龍石の大量発掘が必要になりました」
「大変そうですね。応援しています」
あの日からちょくちょくお茶をしに来ているアレクシウスとは、こうやって友人のような会話が出来る程度には仲良くなれた。
決してルナリアが一方的に思っていることではなく、アレクシウスからの敵意と怯えが完全に消えているので事実。良い関係を築けている……と思う。思いたい。
それは、護衛とメイド達にも言えること。自室の空気感は大幅に良くなっている。
……あ。なるほど。
「では陛下と王太子殿下は、国の責任者として同席しているのですね」
「貴女は頭が良いので楽です。それと、もうひとつ。――父上」
公式の場ではないから『父上』呼びか。そう察するルナリアは、城に来た日ぶりに会う王へ視線を移す。
『王』としての無意識の威圧感にあてられ、お腹が痛くなりそうな感覚。今直ぐ逃げたいが、ここが自室なのて逃げられない。泣きたい。
数秒程の静寂。の、後。
「『龍の愛し子』について、神殿による説明の他に知っていることはあるか?」
「いえ。特には」
「だろうな。貴族、市井。『龍の愛し子』に選ばれる者に一貫性は無い。しかし各国は貴族から選ばれることを切に願っている。理由は分かるか?」
「…………庶民は、突然降って湧いた豪勢な暮らしに傲慢になり国庫を食い荒らす害虫になる?」
「中々に過激な言葉を選んだな」
「あー……それは、皆様も敵意を向けた上で怯えますね」
「気付いていたか。貴女には居心地の悪い思いをさせてしまった。申し訳ない」
「え。いえ、謝らないで下さい。特に実害は無いので全く気にしていません。私こそ、お料理に色々と言ってしまって」
「『香辛料と肉を減らして野菜を増やし、菓子を減らし甘さを抑えろ』か。香辛料は兎も角、肉と砂糖を減らせなど貴族でも言わぬ。受け入れ難いと、料理長が暫く寝込んだぞ」
「それは……なにやら、大変申し訳なく」
「まったくだ。ドレスも装飾品も増やさぬとは。これでは、警戒していた我々がまるで道化ではないか。心労を返してほしいものだ」
「えぇ……あ。では、その心労が報われる我儘を」
「申してみよ」
「ダム……えぇと。川の上流に広く深い溜め池を作ってください。ダムが決壊しないように、下流側へ放出出来るように水量調整が可能な構造で。しかし、きちんと下流の住民が水を確保出来る水量を流し続けることが鉄則です。これを無視してしまうと生態系が乱れ魚も緑も減り、大きな反発を招き暴動が起きますから。水を堰き止める石材が劣化すればダムが壊れ大量の水が溢れるので、定期的に水を抜いての点検も必須ですね。後程大まかな構造を書きますが実験は必要ですね。本当は『砂ダム』が最適なのでしょうが……生憎、詳しい作り方が分からなくて。まあ正しく管理し活用すれば乾季の水の確保にもなり、『龍の愛し子』が不在の時代でも雨季の川の氾濫は減るかと。――あぁ、だとしたら浄水の龍具も必要になりますね。汚水すらも清らかな水に変える龍具は、広場に設置すれば大勢の健康を支えるでしょうし」
「……ハァ。アレクシウス。なんなのだ、この娘は」
「愉快でしょう?」
「……愛し子よ。『ダム』とやらを作るとして、広範囲に伐採しては龍の怒りに触れるのではないか?」
「? 伐採せず、山の麓に植樹して森を広げれば良いのでは? 『龍の愛し子』の私が神殿で説明と祈りを捧げれば、なんとなく大丈夫な気がしますし」
「大木を麓へ運ぶ方法は。その労力は。資金も、既に決まっている国家予算からは捻出出来ぬぞ」
「それこそ川を利用すれば良いですよね? あぁでも、現存の船は川を登れないので……龍石で水を吸い上げ排出する力を利用して川を上ることが出来る船を……いえ、現存の船に取り付ければ良いだけですね。植樹は国家事業として給金を出すと御触れを出せば、王都周辺からも力自慢が殺到するでしょうし。その資金の捻出は『龍の愛し子』の品位維持の予算から出して構いませんよ。特に欲しい物は無いので。もしくは……疑似ダムの模型を作り繰り返し実験してダムの有用性を証明すれば、王都を真に思う貴族達は自ら資金を提供するでしょうね。地方は実際に川の氾濫が起きなければ理解出来ないでしょうが、王都での水害が劇的に減れば……遅くとも20年後にはこの国全土で。技術と水害の推移を発表すれば、世界中でダムの着工が増加する筈です。またこの国の発言力が増しますよ。良かったですね」
「……アレクシウス」
「直ぐに実験の手筈を整えます。暫くの資金の捻出は彼女のお言葉に甘えましょう。――あぁ。ちゃんと兄上が統括だと公言しますので、ご安心を」
「手柄の横取りは私の趣味ではないと、いつも言っている筈だが」
「継承権の低い第三王子が国家事業なんて、貴族達の思惑に利用されるだけですから。そもそも『王』なんて面倒事は御免です」
「お前は……昔から変わらないな。本当は私より優秀だろうに」
「まさか、そんな。彼女も『王妃』という重責は背負えないかと。――ね、ルナ?」
「絶対に嫌です。『龍の愛し子』と云うだけで生き辛いのに。王妃なんて絶対やだ。陰謀やら何も考えずにのんびり過ごしたい」
「ん、ふふっ。――っと云うことなので。存分に第三王子を利用してくださいね、兄上」
「お前達が似合いだと云うことはよく分かった」
どこか遠い目をする王太子に、王太子って大変なんだなー。と雑な感想を持ったルナリアは、出されたケーキを一口。ほろ苦いコーヒーの風味。最高。
この『仄かな苦味を楽しむケーキ』は男性の舌にも合うと、現在王都で爆発的に流行している。……その事実は、城から一切出ないルナリアは知らない。護衛もメイド達も教えておらず、それはアレクシウスの指示によるもの。
ルナリアが社交界に出たがらない。
その事実をこれ幸いに、アレクシウスは貴族達からの茶会の誘いや懇親会の招待状を送り返している。態々、自らも一筆添えて。
「そうでしょう。兄上もそう思いますよね。――だってよ、ルナ?」
「ひっ」
「なぜ悲鳴なのかな」
「い、え……反射的に」
「怒らせたいの?」
「滅相もありません」
友人。そう思っているのはルナリアだけで、アレクシウスは違う。圧のある笑み。
その真意は、ひとつ。
「兄上からもお墨付きを貰えたし、そろそろ婚姻の話を進めようか。ね?」
「ぉ……王太子殿下の婚姻がまだですので、私達が先というのは……些か外聞が宜しくないかと」
「んー……そうか。それもそうだね」
「そ、うでしょう。ご理解頂き、」
「じゃあ先に子供作ろっか」
「うぅ……ご理解頂きたかった……」
つまり。“おもしれー女”認定をされ、多少強引でも囲い込もうとして来ている。護衛やメイド達から同情の目を向けられる程に。同情するなら助けてほしい。
夜這いなどの実害が無い事だけが救いなのかもしれない。
それでも、アレクシウスがいつまで“我慢”を出来るのか……ルナリアの貞操が婚姻まで守られるのか。その保証は無い。
縋るように王と王太子へ視線を向けると、何やら気まずそうに目を逸らされた。恐らく、既に多方面への根回しが済んでいるのだろう。どうやら王太子の『私より優秀』発言は事実らしい。希望は絶たれた。
「理解しているよ。要は『陰謀渦巻く王族の暮らしが面倒臭いから、数年経ったら教会に籍を移して生涯独身でも貫こうかな』――とでも思っているんだよね。ちゃんと理解している。だから、子供が居ればお人好しの優しいルナは逃げられないかな。って」
「……っ護衛さん達! この異常者拘束して!!」
「酷いなあ、ルナ。婚約者を拘束だなんて。――あ。“そういうの”が好き? 合わせるね」
「変態っ!!」
「愛だよ」
「んえぇぇっ本気で気持ち悪いよこの王子ぃ……っ」
「ルナが僕を変えたんだよ」
罵倒されているのに笑顔のアレクシウスは、物心ついた時から出来ないことが無かった。故に何にも興味を示さず、自分自身でも己を冷たい人間だと自認していた。
それを崩したのが、奇想天外な知識を渡して来た『龍の愛し子』――ルナリア。
彼女の心を手に入れたいのに中々手に入らない。寧ろ逃げようとしている。あからさまに嫌がっている。
これは、燃える。
逃げる獲物を追う狩猟本能だろうか。地位がある『男』として、手に入らない『女』を求めたがる性質もあるのかもしれないが。
「そういえば――ルナが欲しがってた『コメ』という穀物。輸入ルートがやっと手に入りそうなんだけど、島国からの輸入だから日常的に食べられるのは王族くらいかな。えぇっと……セイマイ?だっけ。それをする前の状態で輸入するから――あぁ、ほら。『龍』の恵みで不作は無いとは思うけど、念の為に備蓄を優先したくて。だから市井には流せないんだよね」
「脅迫されてる」
「コメ関連が脅迫になるんだね。分かった」
「分からないでください。食の恨みは恐ろしいんですよ」
「なら。恨みを抱かないように、お腹いっぱい食べられる王族で居ないとね。――あ。心配しないで。ルナの知識を囲っておきたいのは事実だけど、ちゃんと僕はルナを愛している。鎖でも付けようかなってくらいには」
「本当に気持ち悪いんだけど、この王子……――王様。どうにかしてください」
「さて。我々の用は済んだな。あとは婚約者同士、親交を深めてもらおうか」
「そうですね、父上。――愛し子様。弟を宜しくお願い致します」
「この野郎共最低過ぎる」
「その不敬発言を盾にひとつ命令でもしたいところだが、アレクシウスも手腕を発揮したいようだ。不問としてやろう」
「子供の成長を促すためのその寛大な御心、称賛して差し上げた方が宜しいですか?」
「中々に棘があるな。良いことだ」
よし。と頷いてから部屋を出て行く、王と王太子。その護衛達からは完全な同情の目を向けられたので、彼等もアレクシウスの腹黒さを把握しているらしい。
さてと――と、ルナリアの隣に移動したアレクシウス。逃げようとする彼女の腰を抱き寄せ、片手にはほろ苦いケーキを掬ったフォーク。餌付けだろうか。
「早めに観念した方が良いと思うよ」
むにっ。ケーキが乗るフォークを唇に当てられたので、引き攣る頬をそのままにケーキを口の中へ。食べ物に罪は無い。糖分、だいじ。
ほろ苦い甘さ。うまうまっ。至福。
顔を綻ばせるルナリアは、その『純粋に“食”を楽しむ姿』がアレクシウスのツボにハマった事実を知らない。美味しい食事は手軽に幸福を得る手段。いつかに力説したその思想もツボらしい。
王族故に造り物の笑顔で寵愛を得ようと群がられ辟易していたアレクシウス。彼が初めて目にした『邪な気持ちの無い笑み』――始めは愛玩対象だったとしても、今では胸を張って「愛している」と口に出来る。
「――あ。そうでした。あの、コルセットは骨や内臓に悪くて。個人的にランジェリーを作っても良いですか?」
「僕の理性を試しているのは分かった。今夜、楽しみにしておいて」
「護衛さん。どうやら今夜、賊が入り込むようです。騎士団総出の厳重警備をお願いします」
「僕が囚人役か。頑張るから、ご褒美頂戴」
「きっっっもちわるい!!」
「ふふっ。冗談。針子を用意しておくから、取り敢えずデザイン画をお願い。――はい、ケーキ」
「んむっ」
また唇に当てられたフォーク。口の中に広がる、ほろ苦い甘さ。
うまうまっ。
「自覚の無い魅力って良いよね」
「うん?」
「どんどんルナを好きになっているってこと」
全ては語らず。しかし、好意は都度必ず口にして。
はたして――お人好しで優しいルナリアが絆されるのは、いつになるのだろうか。
今日から1ヶ月以内に賭ける者が大半なのでオッズは低い。『龍の愛し子』で賭け事とは不敬そのものだが、ルナリアは気付いたとしても「娯楽は大切ですもんね」と特に気にしない。
ルナリアが気にしないのなら『龍』も気にせず、故に罰は下されないだろう。寛大である。
『龍』は愛し子に甘い。
閲覧ありがとうございます。
気に入ったら↓の☆をぽちっとする序でに、リアクションやブクマお願いしますー。
アレクシウス気色悪いな……とドン引きしている作者です。どうも。
しかしこう云う頭のネジぶっ飛んでる男がド性癖なので後悔も反省もしない。
今後も自重しない。
たのしかった!
この3ヶ月後に「龍の愛し子様考案!美しさは体内から!」――との宣伝文句により、野菜ブームと共にランジェリー革命が起きた。
一足先に、社交界ではアレクシウスの「アレを目にして理性を保てる者は本物の紳士」発言がランジェリーの宣伝文句になってたよ。
翌年、大陸の出生率が爆増した。
『賭け』ですが、1ヶ月を数日過ぎて結果が出ました。
「私のどこが好きなんですか」
「幸せそうにご飯食べてる顔」
「……不覚にも好きとか思ってしまった」
「――ぁ。言質」
「ちがう」
爆速で城中に広まり翌日には王都民の全てが把握して結婚式の日取りが決められたので、完全に外堀を埋められた。
優秀過ぎるな……と変に感心。現実逃避だよ。
違わないんだよな〜〜〜。
ルナリア、この頃にはアレクシウスのことを好きになっています。
一緒に居ても沈黙が気まずくない、と云うのが決め手。
でも偶に変なへキ出そうとして来るからまじで気持ち悪いとも思ってる。器用だね。
いやアレクシウスが“娯楽”として巫山戯ているのは、ちゃんと察しているんですけどね。
でも『腹黒アレクシウス』だから実行しそうだな……と、この察しにちょっと自信を持てない。
日頃の行いですね。
ルナリアが色々な知識を軽率に渡している理由ですが。
最初の食事関係は己の健康面だけを最優先に考えてお願いしたら、国側からすると『知識』として渡された事になっていただけ。
次のダム建設は「なんか困らせた方が良いっぽいな」との、斜め上の気遣いで知識を提供しただけです。
別に「国の為に〜」じゃなく、まじで自分の生活環境改善と気遣い。
それが『国』にとって有益になったなら良かったね、程度。
だって元庶民だし。転生前は社畜だったし。
まったりのんびり、健康に大往生したいだけです。
因みに。
元庶民なのに何故様々な知識を提供出来るのか……と皆が訝しがらないのは「商家の娘だというから勤勉者で、柔軟な発想で意欲的なのだな」と自己完結しているからです。
前世の知識だとは生涯話すことはありませんでした。
アレクシウスだけはうっすらと気付いていたけど、確認することはなかったよ。
ルナリアが隠したいなら明確にしない。
アレクシウス、ちゃんとルナリアの心を慮っているんです。
あとルナリアの知識量が異常だと皆理解しているので、次の『龍の愛し子』にルナリア並みの“貢献”は望みません。
そもそも存在するだけで大陸に恵みが齎されますからね。
ってか『愛し子』を雑に扱ったら『龍』の逆鱗をぶん殴ることになる。やべえ。
恐ろしいね。
活動報告に結婚式当日のおまけ。
たのしかった!
幸せになれよな!




