第九話
戦闘後、テツカガミが低空で接近した。
ソウマを回収した。
ブリッジでジンの声が響いた。
「ソウマ、無事か! キリハシラを去るぞ!」
ソウマは甲板に倒れ込んだ。
オーバーロードで鎧の出力が不安定になり、追撃を逃した余韻が体に残った。
鎧を解き、横になると甲板の冷たさが伝わる。
「医療班、急げ!」
ジンが指示を出した。
ソウマは目を閉じ、余熱を感じながら安堵した。
「勝った。これで、一歩前進だ」
ユナが駆け寄り、手を握る。
「生きててよかった」
ノゾミが診断した。
「出力オーバーの反動ね。魔導回路に軽いひびが入ってるけど、自動修復で一晩休めば大丈夫よ。よく耐えたわね」
ソウマは弱々しく頷き、ユナの手にさらに力を込めた。
ノゾミは周囲のクルーたちに視線を向けた。
「みんなも消耗が激しいわ。キリハシラの勝利は大きいけど、霧圏の粒子が体に染みついてる。結晶植物の粉末を配布するから、すぐに飲んで」
テツカガミはキリハシラの残骸を後にした。
ソウマはユナの手の温もりを確かめながら、窓の外を見つめた。
レイの執念が、心に刺さった。
「きっと……また戦う」
そんな思いが浮かんだ。
ソウマの瞳には新たな決意の光が宿っていた。
ブリッジに集まったクルーたちは、戦術マップを囲んだ。
ジンが指でマップの中央──カゲトリデのシルエットをなぞった。
「キリハシラの補給塔を落としたのは大きい。これで一時的に奴らの追撃が鈍るはずだ。だが、次の目的地はカゲトリデ。あそこは大規模発電所を備えている。守護魔導書のテスト運用を完遂する拠点でもある。ソウマ、お前の力が本格的に目覚めれば、魔導騎兵を一掃できる」
ジンは一瞬目を伏せた。
「お前の魔導書を強化すれば、ムカイハラの再建も夢じゃない」
カズマが肩をすくめた。
「油断すんなよ。待ち伏せしてる可能性が高い。センサーに異常反応が出たら、毎回出撃だ」
リョウタが静かに頷いた。
「ソウマ、俺たちも全力で守るからな」
ミコトがログをスクロールしながら警告した。
「レイの脱出ポッドの軌跡が、カゲトリデ方面に向かってるわ。次の戦いは、もっと苛烈になるかも……」
ジンが戦術マップを閉じた。
「全員、生き残るぞ」
ソウマはブリッジの隅で呟く。
「シロガラスの全力を引き出せば……未来が変わる。でも、また誰かを傷つけるのか……」
ユナがソウマの手を強く握り、囁いた。
「傷つけるためじゃない、守るために戦うのよ」
ソウマはユナの言葉に頷いた。
「そうだな。俺が道を切り開くよ。ユナ、君の光が俺の力だ」
二人は静かに窓辺に寄り添った。
未来の畑が広がる光景を想像した。
ユナの温もりが、ソウマの孤独を溶かした。
ジンがクルーたちに視線を向け、命じた。
「取れるものから休息を取れ。目的地までまだある」
船内の空気が再び緊張に張りつめた。
そんな中、ユナ、ミコト、ノゾミの女性陣がブリッジの隅で密かに動き始めた。
ユナが結晶植物の葉をすり潰した。
ハーブティーを急ごしらえで淹れた。
ミコトが保存食のレーションを分けた。
ノゾミが医療キットから栄養剤を混ぜて簡易スープを作り上げた。
三人は汗だくになりながら、互いに目配せをした。
疲れたクルーたちにトレイを運んだ。
ミコトが笑顔で言った。
「みんな、キリハシラの勝利を祝って。少しだけ息抜きよ」
ユナがティーカップをジンに手渡した。
「これ、村の畑の味を思い出して。みんなの力で、もっと強くなるわ」
ノゾミがスープをソウマに差し出した。
「栄養補給よ。体力温存してね」
ジンがカップを受け取った。
珍しく柔らかな笑みを浮かべた。
「お前たち、こんな時に……ありがとう。確かに、生き残った証だな」
カズマがスープを啜った。
「へっ、悪くねえぜ。塩気が懐かしいや」
リョウタが静かに頷いた。
「この味、家族の飯みたいだ」
ソウマはユナの肩に寄りかかり、窓辺でティーカップを傾けた。
「……ユナも少し休もう」
ユナがソウマの手に自分の手を重ね、静かに微笑んだ。
「……そうね」
ブリッジの空気が穏やかに流れた。




