第五話
テツカガミの甲板には襲撃の爪痕が残っていた。
格納庫の床には戦闘の残骸が散乱していた。
簡易の清掃隊が慌ただしく片付けを進めていた。
クルーたちの制服は煤と血で汚れていた。
船はナビゲーションシステムを頼りにした。
テツカガミはムカイハラの残骸を遠くに置き去りにした。
ジンがディスプレイの前に立ち、クルーたちに視線を向けた。
「状況報告! ソウマの状態は? 追撃の兆候は?」
皆の顔に緊張が走った。
「まだ子供だ。気をつかってやれ」
ミコトが冷静に応じる。
「格納庫で休んでいます。傷は軽微ですが、ショック状態。ユナが付き添っています。センサーに……粒子雲の彼方で反応が動いてる!」
ミコトの指がデバイスを高速で滑らせた。
ノイズをフィルタリングしようとした。
センサーの反応がぼんやりと広がった。
敵の規模を正確に測れなかった。
ブリッジの空気が一気に張り詰めた。
カズマが目を細める。
「まだガキだってのによ」
カズマは苛立ちを隠しきれなかった。
リョウタが静かに頷く。
「村の喪失は俺も痛い」
ノゾミがコンソールを叩く。
「推進系が乱れてる! 粒子帯を抜けるまで耐えられるか分かりません……!」
ソウマは格納庫の隅で膝を抱えていた。
壁は冷たく湿っていた。
戦闘の疲労が骨まで染み渡った。
ユナがそっと近づいた。
ソウマの肩に手を置いた。
「ソウマ……大丈夫?」
ユナは優しく肩を撫でた。
「あなたが戦ってくれたから、私たち生き残れたんだよ。あなたが、止めてくれなかったら……」
ソウマの耳に優しく届いた。
だが、彼女の制服の袖口には母の血の染みが残っていた。
触れる手が微かに湿っていた。
ソウマは顔を上げた。
ユナの目を見つめた。
彼女の瞳に涙の痕が見えた。
「ユナ、君こそ……大丈夫だった? ごめん……俺ばっかり弱音吐いて」
ユナは唇を噛んだ。
ソウマの隣に座った。
「うん……まだ怖いよ、正直。……もし私がもっと強かったら、助けられたのかなって」
ユナの膝が床に触れた。
金属の冷たさが体温を奪った。
彼女の瞳の奥に、炎の残像がちらついた。
息が白く漏れた。
ソウマはユナの手をそっと握った。
「そんな風に自分を責めないで。君はいつも、みんなの光だった。君がいてくれるから、守りたいって思えるんだ」
だが、言葉の途中で船体の振動が激しくなった。
手が離れかけた。
ソウマの手がユナの指を包んだ。
互いの体温が冷たさを押し返した。
握る力がわずかに強くなった。
戦闘の傷跡が手のひらに痛みを呼び起こした。
ユナは小さく笑った。
「ふふ、元気つけようと思ったら、逆に元気づけられちゃったね」
「ユナ……君の言葉が、俺の鎖を少し軽くしてくれた。全てが終わったら、戻ろう。約束だ」
ユナは頷いた。
ソウマの額にそっと額を寄せた。
二人の息が混じり合った。
格納庫の冷たい空気が一瞬、温もりに変わる。
ユナの瞳が近くで輝き、ソウマの心臓が激しく鳴った。
そっと、ユナの額がソウマの額に寄せられた。
二人の息が混じり合い、互いの痛みを分かち合うような静かな触れ合い。
戦争の重みが一瞬だけ遠ざかり、短い安堵の温もりが胸に広がった。
ソウマの目が閉じ、ユナの指が彼の頰を撫でた。
一瞬、世界が二人だけになった。
その矢先──格納庫の振動が一瞬止まった。
警報が甲高く鳴り響いた。
二人は反射的に離れ、息を飲んだ。
通信機からジンの声が割れて届いた。
「全クルー、戦闘態勢! 敵影確認!」
格納庫のハッチが自動で閉じ始めた。
その中で、二人は即座に立ち上がった。
互いの手を強く握り直した。
ユナの頰がわずかに赤く染まった。
ソウマの瞳に決意の炎が灯った。




