第三十七話
数週間後、テツカガミはムカイハラの再建地近くに到着した。
船体が土の大地に優しく着地した。
窓の外に広がるのは、かつての畑の面影だった。
避難民たちの手で新たに植えられた苗が、風に揺れていた。
ソウマはハッチの小窓を開けた。
土の湿った香りと植物の甘い魔素の匂いに迎えられた。
村人たちの姿が、遠くの小屋にぼんやりと浮かんでいた。
子供たちが結晶植物の欠片を手に笑い合った。
農夫たちがマスクを外して土を耕していた。
かつての襲撃跡地では、爆撃のクレーターが今や貯水池として活用されていた。
結晶植物の灌漑システムが構築されつつあった。
空には、監視する公国製魔動機が飛んでいた。
断続的なリアルタイムでデータを共有した。
安全を不十分ながら確保していた。
そこには若い公国軍の面々がいた。
ソウマと同じく、一五歳ほどの少年少女たち。
彼らはクロノ家の旗を畳んでやってきた。
彼らは魔鉱の知識を活かし、土壌の浄化を進めた。
小さな研究所の基礎を築き始めた。
まだぎこちない新しい仲間として汗を流した。
その姿が、広がる未来を予感させた。
研究所の基礎工事では、少年たちが重機を操作した。
魔鉱の結晶を粉砕し、土壌改良剤を製造していた。
簡易テントが研究所の隣に並んだ。
夜間の警備を強化していた。
村人たちが感謝の食事を差し入れた。
兵士たちの疲れた顔に笑みが浮かんだ。
その光景が平和の絆を象徴した。
土壌浄化の進捗は目覚ましかった。
最初のテスト区画で結晶植物の苗が根付いた。
ソウマは魔導書を活性化し、銀色の粒子を畑に撒いた。
粒子が土に染み込み、苗が一瞬で青く輝き、成長を加速させた。
歓声が上がった。
ユナが笑顔で手を振った。
「ソウマ、この苗、魔素が優しく包んでるわ」
「そうだね。父さんは、こんな未来を夢見てた。一緒に、もっと広げよう」
「きっと未来の畑になるわ!」
公国軍の知識と住民たちの経験が融合した。
公国の再生を加速させた。
ユナは農園の端で、結晶植物の苗を植え替えた。
彼女は独自の中和剤を開発し、苗に塗布する。
村人の女性が話しかけてきた。
「ユナさん、こんなに早く根付くなんて……帝国の技術もすごいけど、あなたの知識が命を吹き込んでるわ」
「みんなの汗があってこそよ。一緒に、霧を晴らしましょう。これで放射性粒子を吸着できるわ!」
周囲の村人たちが感嘆し、ユナの知識が農園の再生を加速させた。
彼女の指先が青く光る欠片に触れた。
ムカイハラの夜を思い出した。
農園の作業現場では、ユナの周りに女性たちが集まった。
手際よく苗を植え替えた。
土を丁寧に押さえ、魔鉱粉末を振りかけた。
粒子を中和する工程を繰り返した。
彼女の指導のもと、苗の間隔を調整した。
水路の掘り進めを進めた。
「ユナさんの方法で、収穫量が倍になるわ」との声が上がった。
夕陽の光が苗の葉に反射した。
ユナは子供たちに植物の育て方を教えた。
子供たちの小さな手が土に触れた。
「ユナお姉ちゃん、霧が怖くないの?」
「怖いけど、みんなで守れば大丈夫。ソウマみたいに、強く育とうね。根がしっかり張れば、霧にも負けないよ」
未来の希望が広がった。
ソウマがその光景を見て笑った。
「ユナ、君とこれからも一緒に、この畑を甦らせたい……」
ユナは頰を赤らめた。
二人は手を重ねた。
「ソウマ。約束よ、一緒に新しい村を作ろう」
二人は畑の土に座った。
夕陽が包む中、静かに言葉を交わした。
二人の会話は、畑の土に座ったまま続いた。
ソウマが守護魔導書を広げた。
「これを使えば、もっと土壌浄化を加速できるかもしれない」
ユナが目を輝かせた。
「一緒に試してみよう!」
夕陽の赤みが苗を染めた。
風が二人の髪を揺らした。
その中で、再建計画を語り合った。
周囲では、作業を終え、焚き火を囲んで歌を口ずさんでいた。
二人の姿を見守る光景が広がっていた。
かつてない穏やかさに満ちていた。
集会所は簡素な木造の小屋だった。
簡易ランプの光が灯った。
結晶植物の葉で編んだ飾りが壁を照らした。
テツカガミのクルーたちは粗末なテーブルを囲んだ。
帝国から届いた保存食とユナの作ったハーブティーを分け合った。
温かなひと時。
やがて村人たちが加わった。
兵士たちも輪に加わった。
簡単な料理を振る舞った。
皆の笑顔がランプの光に照らされた。
会話は再建のアイデアに広がった。
「魔鉱を肥料に使えば、作物の成長が早まるわ」
皆が地図を広げた。
具体的な計画を練り始めた。
ミコトは微笑んだ。
「私は帝国の外交官として、公国に残るわ。霧圏の通信網を繋げて、ムカイハラの声を帝国まで届けるの」
ミコトは通信機を調整した。
信号強度をテストした。
少女と連携した。
テスト放送を試みた。
「これで公国のニュースを共有できるわ」
少年が提案した。
「僕たちの技術を共有しよう」
ミコトの笑みが広がった。
カズマはグラスを傾けた。
「へっ、俺とリョウタは技術者として、帝国に戻るぜ。正規兵だからな。でも、残党の心配もねえよ。若い公国軍の奴ら、意外と使えるぜ……リンカのワイヤー技術、奴らに少し教えておいたよ。あの娘の分までな」
皆の視線が一瞬静まった。
ソウマがグラスを握りしめた。
「……カズマさん」
カズマは少年にアドバイスした。
「パルス砲の回路を改良してみろよ」
少年が目を輝かせてノートを取った。
毒舌の裏に、技術者の情熱が伝わった。
リョウタは隣で頷き、静かに語った。
「正規兵の義務があるけど、再建データは帝国で活用するよ」
ノゾミは地図を広げた。
「私は復興計画を帝国で進めるわ! 霧圏の地形を分析して、畑を広げるデータを提供する。あいつらの魔鉱知識と合わせたら、完璧だわ」
ノゾミは地図にペンを走らせた。
地形データをスケッチした。
少女と議論した。
「このルートで水路を引けば、灌漑効率が上がるわ」
ジンは最後に立ち上がった。
「正規士官として、帝国に戻る。君の力は、未来を変える。お前が継いだ心が、俺の誇りだ」
ソウマは皆の顔を見回した。
胸が熱くなった。
「みんなと出会った絆が、俺の力だった。公国軍の皆さんも、ようこそ。この村は、もうみんなのものだ」
別れの握手が続いた。
夜風がランプの炎を揺らした。
握手はカズマの力強いものから始まった。
リョウタの静かなもの、ノゾミの熱いもの、ミコトの優しいもの、ジンの厳格なものと続いた。
公国軍の若い面々が加わった。
輪が広がった。
少女が明るく笑った。
「明日から一緒に研究所で頑張るよ! 新しい仲間として、よろしくね!」
クルーたちは安心の笑みを浮かべた。
テツカガミのエンジンを再起動させた。
帝国に戻る彼らの背中は、穏やかな確信に満ちていた。
集会所の灯りが広がった。
その中で、ソウマは一人、丘の頂に立った。
テツカガミのシルエットが霧の彼方に沈んだ。
クルーたちの笑い声が風に溶けた。
ソウマは父のノートを指でなぞった。
「魔素技術は心だ」
その言葉が、レイの最後と重なり、胸に疼きを残した。
「レイ、お前の痛みも、俺が守る道の一部だ」
ユナが手を繋いだ。
「なら私があなたを守るわ」
二人は星空を見上げた。
村の灯りが平和を運んだ。
ソウマはユナの頰にそっと手を添え、優しく唇を重ねた。
柔らかなキスは、未来の約束を囁くようだった。
星の光が二人を優しく包み、ムカイハラの夜は静かに更けていった。




