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魔界独立戦争 ~継承された守護魔道~  作者: 川合 佑樹


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第三十話

 キリザクラの接収は作戦本部で数時間の混乱を挟んだ。

 残された公国軍の備蓄庫から大量の魔鉱結晶と魔素燃料が運び出された。

 耐性兵たちがキリザクラの甲板を踏みしめた。

 金属製のコンテナを次々とテツリュウの格納庫へ移送した。

 一方、ドローンのスキャナーが庫内の隅々を照らした。

 隠された中和剤の在庫を検知した。

 ギゲンの部隊は内部の抵抗勢力を排除した。

 数十名の兵が連携した。

 補給庫の扉を強引にこじ開けた。

 魔鉱が部屋を満たす光景は、勝利を象徴するかのようだった。

 一方で、公国軍の残党がゲリラ攻撃を仕掛けた。

 爆弾がキリザクラの外壁を揺らした。

 帝国兵二名が即死した。

 ギゲンの冷徹な指示が無線で飛び交った。

「残党は掃討せよ。補給を最優先とする」

 こうした混乱の中で、テツカガミへの分配は厳重な護衛下で行われた。

 クルーたちの疲れた顔に一瞬の安堵が浮かんだ。

 すぐに次の警戒態勢への苛立ちに変わった。

 ギゲンの冷徹な通信が響いた。

「テツカガミ、キリザクラの接収を完了した。予想外の収穫だ。公国軍の補給庫に、魔鉱、魔素燃料、結晶植物の中和剤がふんだんに残されていた。戦略的備蓄だろう。テツカガミに分配する。即刻、メッカイサイへ向かえ」

 ジンは一瞬目を細め、応じた。

「了解、将軍。補給は……ありがたい」

 カズマが毒づいた。

「へっ、敵の物資をタダで貰えるなんて、運がいいぜ」

 テツカガミの格納庫に、テツリュウから運び込まれた補給物資が積み上げられた。

 ユナが物資を点検し、目を輝かせた。

「これ、ムカイハラの結晶植物と同じ種類!」

 彼女はソウマに駆け寄り、中和剤の小瓶を握らせた。

「ソウマ、これでみんな、戦える。あなたのおかげよ」

 ソウマはユナの笑顔に一瞬安堵した。

 刹那、シキの言葉が脳裏を刺した。

「帝国はあなたを道具として使う」

 彼は呟いた。

「ユナ……俺が戦うのは、君のためだよね?」

 格納庫の奥で、ソウマは一人、狭い部屋のベッドに座った。

 彼は守護魔導書を膝に置いた。

 ソウマの指が結晶植物の指輪を握り、ユナの笑顔が浮かんだ。

「一緒に帰ろうね、ソウマ」

 だが、シキの言葉が心に刺さった。

 ソウマの視界が赤く染まった。

「俺が守るものは何だ? ユナと公国に行けば、本当に平和が……?」


 一方、メッカイサイの要塞深部に潜む格納庫。

 巨大な洞窟のような空間だった。

 灯が天井から吊り下げられていた。

 壁の回路が光っていた。

 広大な床面には魔導騎兵の残骸が散乱していた。

 シキの指示で集められた技術者たちが、クロノスの最終調整を急いだ。

 溶接機の火花が格納庫の闇を切り裂いた。

 魔鉱が床を照らす中、技術者の一人が報告した。

「シキ様、クロノスの魔導回路、九十八%同期完了だが、キャノンの圧縮率に微調整が必要。安定するまであと数時間かかります」

 シキは優雅に頷き、技術者たちに視線を巡らせた。

 その瞳には冷徹な計算が宿った。

 失敗を許さない圧力が格納庫全体を支配した。

 レイの到着を待ちながら、魔導兵器のメンテナンスを続けた。

 油圧システムのテスト音が、格納庫の緊張をさらに高めていた。

 シキは、漆黒のドレスを纏い、銀髪を揺らして格納庫の中央に立っていた。

 背後には、クロノ家の紋章が刻まれた巨大なディスプレイがそびえていた。

 その前に新機体クロノスが静かに佇んでいた。

 漆黒の対大戦型魔導騎兵。

 キャノンの砲口が、不気味に息づいていた。

 格納庫のハッチが重く開いた。

 レイのゴウライが滑り込んだ。

 機体がゆっくりと着地した。

 コックピットのハッチが開いた。

 レイは黒い甲冑を纏った姿で降り立った。

 ヘルメットを外すと、静かにシキに近づいた。

「シキ様、ご命令により参上しました。何でしょうか?」

 レイの声は抑揚を抑えた。

 高位者に対する敬意を込めたものだった。

 冷静なエース魔導士の仮面は完璧だった。

 その奥に復讐の炎が潜んだ。

 かろうじて抑え込まれているようだった。

 シキは優雅に微笑み、一歩近づいた。

 彼女の瞳がレイの仮面を柔らかく、だが鋭く覗き込んだ。

「レイ、よく来てくれたわ。あなたを待っていたのよ」

 彼女は軽く手を上げた。

 エリナが無言で一礼し、格納庫に消えた。

 シキの微笑みが深まり、レイに語りかけた。

「あなたと私、二人きりで話したいの。誇りを懸けた、特別な話」

 レイの呼吸が一瞬止まった。

「シキ様、……ご命令とは?」

 彼の声は丁寧だった。

 かすかな緊張が混じった。

 シキは一歩近づいた。

 クロノスに手を置いた。

 回路の脈動を指先でなぞった。

「ソウマ・ツキヤマよ。彼に会ったわ。魔族の血を引く少年が、あなたのサラを、シユウを、キオウを冷酷に葬った。サラの最後、覚えているでしょう? ソウマは笑っていたわ。滑稽だったと」

 レイの瞳が揺れた。

「……笑っていた、だと? シキ様、それは……」

 抑えきれぬ怒りが滲み出した。

 冷静な仮面がひび割れた。

 シキは言葉を続ける前に一瞬の間を置いた。

 彼女の指がクロノスをなぞった。

 回路の光が格納庫を照らした。

 レイの顔に影を落とした。

「実験室で、サラが苦痛に歪む顔を、あなたは忘れられないはず。ソウマは彼女を嘲笑い、そして奪った。あの少年は、道具にして、無感情にすべてを壊す怪物」

 レイの呼吸が荒くなった。

 格納庫の空気が張りつめた。

 シキはさらに近づいた。

 レイの肩に軽く手を置いた。

「そうよ、レイ。彼は操り人形。あなたの痛みを嘲笑った。でも、あなたには力があるわ。このクロノス──公国の技術を結集した新機体を、あなたに授ける。ソウマを葬り、家族の仇を討ちなさい」

 シキの声が一瞬低くなった。

「あなたの手にかかっているわ。レイ、ソウマを討てば、サラの魂も報われる」

「シキ様……私は……少年をこの手で……!」

 彼は復讐の炎に燃えていた。

 シキは満足げに頷いた。

 クロノスのコックピットを開いた。

「さあ、レイ。すべてを終わらせましょう」

 二人の影がクロノスの光に溶け込んだ。

 最終幕が、静かに開こうとしていた。


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