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魔界独立戦争 ~継承された守護魔道~  作者: 川合 佑樹


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第二十九話

 ソウマは、キリザクラの巨大なハッチをくぐった。

 移動要塞の内部に足を踏み入れた。

 広大な甲板空間が広がった。

 暗闇がソウマを飲み込んだ。

 壁には人工の魔導回路が張り巡らされていた。

 脈打つ光が母艦のエネルギー流を可視化した。

 ハガネハラの魔鉱を精製した回路だった。

 心臓部を動かすためのものだ。

 敵の気配はなかった。

「この静けさ……罠か?」

 通路の幅は十メートルを超えていた。

 壁の回路が不規則に明滅した。

 闇を不気味に踊らせた。

 闇の奥から灯が点々と灯り始めた。

 それは罠の誘導か本物の経路か。

 進むにつれ、通路の空気が次第に濃密になった。

 霧の粒子が鎧の関節部に溜まった。

 動きをわずかに阻害した。

「この霧……要塞の防衛機構か?」

 警戒を強めた。

 刃を予め展開して構えた。

 突然、通路の壁から回路の光が強まった。

 彼の動きを追跡しているようだった。

 通路の曲がり角で、空気の流れが不自然に変わった。

 圧力がわずかに上昇した。

 彼は壁に背を付け、ゆっくりと角を覗き込んだ。

 青白い光だけが続いていた。

「誘導されてる……?」

 速度を落として進んだ。

 通路の突き当たりで、灯が一斉に輝いた。

 広大な制御室が現れた。

 中央にコアがそびえた。

 部屋は計算された美しさで設計されていた。

 柔らかな光が緊張を解くようだった。

 制御室の空気は通路より澄んでおり、視界が広がった。

 床は鏡面のような金属で覆われていた。

 コアの周囲にコンソールが環状に並んだ。

 ディスプレイが無音でデータを流し続けた。

 ソウマは部屋の隅をスキャンした。

 隠し通路やトラップを探したが、何も見つからなかった。

「ここが核心か……爆破するなら今だ」

 しかし、部屋の美しさが一瞬ためらいを生んだ。

 そこに女性が立っていた。

 シキ・クロノだ。

 漆黒のドレスを纏っていた。

 銀髪が揺れていた。

 肩にはクロノ家の紋章が刻まれていた。

 貴族の気品が漂っていた。

 彼女の背後に側近エリナがいた。

 黒いベールをまとって静かに立っていた。

 魔力の波動を帯びた杖を手にしていた。

 鋭い視線をソウマに向けた。

 シキの存在感が部屋を支配していた。

 ドレスの裾を優雅に払った。

 足音は無音に近かった。

 エリナの杖が微かに輝いた。

 部屋の空気を微調整した。

 ソウマの呼吸をわずかに乱した。

 二人の視線がソウマを捉えた。

 部屋の光が彼女たちを強調していた。

 シキは優雅に微笑み、一礼した。

「ソウマ・ツキヤマ、キリザクラの心臓へようこそ」

 その声は、ソウマの心に滑り込んだ。

 彼女は手を軽く重ね、視線を柔らかく合わせた。

 一礼の角度が敵意を感じさせず、貴族の洗練された所作がソウマを緊張させた。

「敵意は無用よ。私は戦うつもりはないわ」

 シキの瞳は冷たかったが、温かくも見えた。

 ソウマの警戒心を揺さぶった。

「シキ・クロノだな……何のつもりだ?」

 ソウマは構えた。

 シキの動きを予測して距離を保った。

 鎧の回路が部屋の魔鉱と共鳴した。

 シキは一歩近づき、ドレスの胸元がわずかに開き、白い肌が覗いた。

「あなたは特別な存在よ、ソウマ。魔族の血を引く者。帝国は『怪物』と呼ぶけれど、私には魔界の未来を照らす光に見えるわ。……私の側でその力を振るってくれない?」

 甘い誘惑がソウマの心を揺さぶった。

 体が熱くなり、葛藤が生まれた。

「そんな……君の誘惑に負けられない。戦争なんだぞ」

 シキの目が妖しく輝いた。

 エリナが無言で杖を振った。

 制御室の壁に映像が投影された。

 ムカイハラの農園。

 ユナが結晶植物の指輪を作る姿。

 映像のクリアさが部屋の魔導技術の高さを示した。

 ユナの姿が鮮明だった。

 ソウマの感情を直接刺激した。

「あなたの大切な人、ユナ・ホシノも一緒に公国へ来れば、戦争は終わるわ。搾取も、呪いも」

 ソウマの心臓が激しく鳴った。

「ユナを……どうして知ってる?」

 シキは微笑み、続けた。

「彼女の知識、結晶植物の力は、魔界を救うわ。あなたが公国に加われば、ユナも安全よ。帝国はあなたを道具として使う。私は、あなたを仲間として迎えるわ」

「仲間……?」

 ソウマの帝国への不信、村を失った怒りが胸を焼いた。

 シキの言葉にはどこか不確かな病みがあった。

「でも、お前らのせいで、どれだけ血を流した?」

 シキの微笑みが一瞬凍ったが、すぐに取り戻した。

「信じられない? なら、誠意を示しましょう」

 彼女はエリナに頷いた。

 制御室のコンソールに手を置いた。

 回路が一瞬強く脈打った。

 濃縮魔素噴霧装置が停止した。

 キリザクラが静寂に包まれた。

 回路の脈打ちが徐々に弱まった。

 要塞の停止がソウマの感覚に直接伝わった。

「キリザクラをあなたに明け渡すわ。私の目的は、魔界を自由にすること。あなたがその鍵よ、ソウマ」

 ソウマは息を呑んだ。

「……何を企んでる?」

 シキは微笑んだ。

 エリナと共に制御室の奥へ歩み始めた。

 歩みのステップが優雅だった。

 ソウマの視線を追わせた。

 奥のハッチが静かに開いた。

 脱出ポッドのエンジン音が微かに響いた。

「企む? 私はただ、未来を選ぶだけ」

 彼女は振り返らず、脱出ポッドのハッチを開いた。

 エリナと共に青白い尾を残して消えた。

 ポッドが遠ざかった。

 キリザクラの広大な甲板に静寂が戻った。

 霧が徐々に薄れた。

 部屋の視界が広がり、シキの残した誠意が部屋全体に広がった。

 ソウマは通信機を手に取った。

 テツカガミに連絡を取った。

「ジンさん……キリザクラ、制圧しました」

 ジンの通信が届いた。

「よくやった、ソウマ! すぐ回収に向かう!」

 制御室の灯が揺れた。

 ソウマはユナの指輪を握りしめた。

 シキの言葉が心に残響した。

 キリザクラの勝利は、戦争の終わりではなく、新たな嵐の予感だった。


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