第二十八話
メッカイサイの手前。
公国軍の移動要塞キリザクラが佇んでいた。
ギゲンの艦隊が待機していた。
キリザクラの濃縮魔素噴霧装置が放射性魔素粒子を放っていた。
霧は無音で広がり、艦艇の外装を腐食させた。
一部のクルーが対抗スプレーを散布した。
霧の拡散は止まらなかった。
主力魔導艇の甲板上。
クルーたちがマスクを急ぎ装着した。
だが、粒子が換気口から侵入した。
呼吸器に痺れを残した。
巡洋魔導艇の砲台が回転を止めた。
センサースクリーンがノイズに埋もれた。
艦長たちの怒号が飛び交った。
「粒子濃度、臨界値超え! 非常用障壁を展開!」
艦隊が停止を余儀なくされ、センサーがノイズに埋もれた。
「回路が三十%焼損! 出力三十%低下中……今、八十%焼損に達しました! 出力五十%低下、二十分で完全停止します!」
テツカガミから煙が上がった。
ノゾミの指が緊急停止ボタンを叩いた。
粒子が回路基板に食い込んだ。
バックアップ電源すら不安定に揺らぐ。
主力魔導艇が次々と停止した。
補助艇の一隻が完全に沈黙した。
レックウがその隙を突き、低空からミサイルを連射した。
軌跡が停止した艦艇の甲板を直撃した。
爆炎が赤く染め上げた。
テツリュウからギゲンの通信がブリッジに届いた。
「ジン・キオカ、ただちに作戦会議だ」
テツカガミはテツリュウにドッキングした。
接続チューブが伸長し、固定された。
ブリッジのクルーたちが緊張した面持ちでハッチを通った。
彼らはテツリュウの内部へ移った。
ギゲンの作戦室は、厳重な防壁の向こうにあった。
入室するジンの肩に、紋章の重みがのしかかった。
テツリュウの作戦室は耐性合金で覆われていた。
霧の粒子が外部から侵入を阻まれた。
内部の空気がわずかに重く淀んだ。
中央の戦術卓はホログラムで地形を投影していた。
公国軍の艦影が赤く点滅した。
ギゲンが戦術マップを広げた。
「公国軍が霧で我々の進軍を封じる。霧は毎分五十メートル拡散、二十分で濃度ピークだ。シキ・クロノの策略だ。耐性部隊を編成──テツリュウ、耐性兵三十名、そしてテツカガミのソウマ・ツキヤマでキリザクラのコアを破壊する。予備の衛星通信機を各隊に配備し、ジャミング時のバックアップとする」
戦術マップのホログラムがシミュレートした。
粒子雲が艦隊を飲み込む様子がリアルタイムで表示された。
ギゲンの指がマップをなぞった。
キリザクラの噴霧装置の熱源が赤く点滅した。
耐性兵の選抜リストがスクリーンにリストアップされた。
三十名の名前が厳選された戦士として輝いた。
ジンが頷き、慎重に問うた。
「ソウマは……」
ギゲンが目を細め、鋭く切り込んだ。
「君の所の魔族、ソウマ・ツキヤマを使いたい」
ジンが息を呑んだ。
「それは……」
ギゲンが遮った。
「守護魔導書は魔族レベルの魔力無しでは動かん。作戦遂行が目的だ。すべて不問とする。ソウマと耐性兵にキリザクラのコアを破壊させ、テツリュウと耐性艦三隻が陽動、レックウを牽制する。突入までの時間は十分だ。やってくれるな?」
ギゲンの視線がジンを貫いた。
部屋の空気が一瞬凍りついた。
将軍の指が戦術卓を叩いた。
ホログラムが耐性部隊の突入ルートを描いた。
テツリュウの陽動射撃がレックウの戦闘機を散らす。
耐性艦三隻が魔導爆弾を吸引する。
その配置が詳細に表示された。
十分のカウントダウンがスクリーンに投影された。
将軍は低く続けた。
「リンカの事は残念だった。あの娘の死は、大きな損失だ。だが、彼女が生かした命だ。ここで役立ててはくれんか」
ジンの胸が締めつけられたが、言葉を飲み込んだ。
「了解しました、将軍」
テツカガミに戻ったジンは、ソウマに告げた。
「ソウマ、ギゲン将軍がお前の魔族性に気づいた。不問だと言う。キリザクラを破壊してほしい。失敗すれば、この戦争は悪い意味で終わる」
ジンの声がわずかに低くなった。
「リンカが生かした命だ。行ってくれるか」
ソウマの胸が熱くなり、瞳が揺れた。
ジンを見据えた。
「やります。この戦いを終わらせるために!」
ハッチが開いた。
ソウマは鎧を纏って飛び出した。
耐性兵が特殊装甲を纏った。
テツリュウの陽動と共にキリザクラへ突入した。
ヘルメットのバイザーが青く光った。
テツリュウの主砲が陽動射撃を開始した。
魔素弾がレックウの群れを乱した。
三十名が低空降下艇から霧海へ飛び込んだ。
兵士たちのブーツが濃密な粒子に着地した。
装甲の表面が粒子を弾き返した。
だが、接近するや、霧が濃密に渦巻いた。
無線がジャミングで途絶えた。
「ソウマ、聞こえるか!? 霧の濃度が高い──耐性兵を盾に、レックウの死角を突け! カズマのエンビで道を開く、タイミングを合わせろ!」
ジンの叫びがノイズ混じりで響き、続いてカズマの毒舌が割り込んだ。
「ガキ、死ぬんじゃねえぞ! 俺のエンビが三秒後だ、突っ込め!」
「ソウマ、聞こ……! 位置確認、右翼から援護射撃よ!」
ミコトの声がノイズに掻き消された。
レックウがカズマのパルス砲を回避し襲いかかった。
レックウの群れが扇形に広がって突進した。
機銃の弾幕、爆弾が投下された。
一機のレックウが魔導剣を展開し、ソウマを狙った。
軌跡が鎧をかすめた。
耐性兵の一人が爆弾の直撃を受けた。
装甲が腐食して霧に沈んだ。
一人、また一人と倒れた。
ソウマの耳に兵士の叫びが響いた。
「足を止めるな! 行け!」
兵士たちの装甲が粒子に食われた。
表面が溶け始め、膝をついた。
ソウマの通信に断末魔が混じった。
「コアを……破壊……」
途切れ途切れに伝わった。
レックウの機銃弾が耐性兵を蜂の巣にした。
残存兵が爆弾を投げ返し、道を切り開いた。
だが、次々と倒れていった。
ソウマはスラスターを全開にし、突き進んだ。
「たどり着け! 力はあるんだろ!」
ソウマは刃を展開した。
戦闘機を切り裂き、爆弾を弾き返した。
耐性兵の悲鳴が続いた。
最後の一人が倒れた。
ソウマだけがキリザクラの外壁に辿り着いた。
その瞬間、キリザクラの巨大な扉が、静かに開いた。
内部の青い魔導灯が漏れ出した。
粒子が扉の縁をチリチリと焦がした。
内部の耐性回路がそれを弾き返していた。
キリザクラの外壁は魔素粒子で覆われていた。
粒子が扉の縁をチリチリと焦がした。
内部は不気味な静寂に満ちていた。
無線のノイズが耳をつんざいた。
クルーの声は届かなかった。
孤立無援の中、ソウマは拳を握った。
レックウが遠ざかった。
キリザクラの内部通路が青く照らされた。
その中で、ソウマは深呼吸した。
彼は孤立の重圧を胸に押し込んだ。
ゆっくりと一歩を踏み出した。




