第二十二話
リンカのゼツエイがゴウライを遠くへ引きずった。
機体を地面に固定した。
コックピット内でリンカはプライベート無線を飛ばした。
息を潜めて囁いた。
「レイ。表に出て来なさい。さもないとこのまま機体を破壊するわ」
レイは何も答えなかった。
沈黙が無線を埋めた。
リンカはため息をついた。
カウントダウンを始めた。
「十……九……八……」
ゴウライのコックピットがゆっくり開いた。
レイは両手を上げて降り立った。
リンカもゼツエイのハッチを開けて出てきた。
レイの瞳が見開かれた。
「そんな……姉さんか! あの炎で死んだはずじゃ……!」
レイの脳裏に実験室の青い炎が蘇った。
姉の叫び──「レイ、逃げて!」──が胸を抉る。
死んだはずの姉が、帝国の軍服を纏い立っている。
リンカは黒髪を払った。
「レイ、久しぶりね。……生きてたのね。時間が無いから単刀直入に言うわ。帝国に寝返りなさい。公国は魔界を亡ぼそうとしてるわ」
レイの拳が震えた。
「姉さん、なぜその機体に載っている! 洗脳でもされたのか?」
レイの過去の痛みが蘇った。
姉の温かな手が、今は敵の手か。
炎の遺恨が、心を締めつけた。
だが、姉の瞳に宿る懇願が、わずかに炎を鈍らせる。
リンカの視線が彼の痛みを静かに受け止めた。
「洗脳されてるのはどちらかしらね」
二人の会話が霧の中で続いた。
姉弟の絆が一瞬だけ蘇った。
だが、レイの瞳に炎が灯り、決裂の予感が漂った。
ソウマはカゼダンに追い詰められていた。
鋼線が足を絡めた。
「まずいっ……動けない……!」
連続戦闘で鎧の魔力回路が過熱で軋んだ。
サラの無線で冷たく響いた。
「さよなら……また会う日まで」
突然、轟音が戦場を貫いた。
カゲトリデの方向から、魔素の奔流が荒野を突き抜けた。
耳をつんざく音圧がソウマの鼓膜を震わせた。
「何……!?」
ソウマはスラスターを全開にした。
クレーターの縁に飛び込み、シールドを展開した。
爆風が鎧を震わせた。
熱波が盾の表面を焦がした。
遠くで、リンカとレイの対峙も砲撃の衝撃で中断された。
二人は互いに視線を交わした。
即座にコックピットに戻り、ハッチを閉めた。
ゼツエイの拘束が衝撃波で緩んだ。
ゴウライがわずかに動き出した。
「レイ、生き延びて考えて!」
リンカの叫びが無線で響いた。
レイの沈黙が霧を重くし、姉の言葉が胸に刺さった。
だが、スラスターの咆哮でそれを振り払った。
隙を突いて脱出した。
即座に命令を出した。
「サラ、撤退だ! 次で決着をつける!」
サラの機体が一瞬硬直した。
攻撃が止まった。
「キオウ……!」
機体を低空旋回させた。
一方、余波でゼツエイの回路に不具合が発生した。
制御を失った。
「先の衝撃波でスラスターに異常発生! テツカガミ一旦回収して!」
リンカの通信がノイズ混じりで届いた。
テツカガミの回収アームが即座にゼツエイを掴んだ。
リンカはコックピットで息を荒げた。
「……ソウマくん、ごめん!」
ブリッジでは、ミコトのディスプレイがノイズで埋まった。
「ソウマ、聞こえる!?」
彼女は予備周波数に切り替えた。
ノゾミが叫んだ。
「ソウマ、クレーターの縁から動かないで!」
遠くで、ナラクテンマの超圧縮魔導砲が再び放たれた。
カゲトリデの防衛塔が炎に包まれた。
キオウの哄笑が無線で轟いた。
「見よ! 圧倒的な力! 我らが血! 技術の粋!」
ソウマはクレーターの縁で体勢を整えた。
センサーを再調整した。
放射性粒子の干渉が鎧の回路にノイズを発生させた。
ヘルメットのディスプレイが断続的に乱れた。
ソウマはシールドを最小限に展開し、エネルギーを節約した。
その瞬間、テツカガミからジンの通信が届いた。
「ソウマ、再度ナラクテンマの砲撃が要塞を狙ってる。最優先で巨体を止めろ! カゼダンは後回しだ!」
「了解……向かいます!」
スラスターを全開に切り替え、ナラクテンマの方へ急旋回した。
サラは追撃を諦め、低空で後退を始めた。
サラの機体が霧に溶け込む姿を、ソウマは見逃さなかった。
戦場は火花の渦に巻かれた。




