第十五話
テツカガミは、カゲトリデへの航路を急いでいた。
ジンは操縦席の背もたれに体を預けた。
ルートがすでに二度、微妙にずれ始めていた。
カズマは窓の外を睨んだ。
「さっきからセンサーにチラチラ反応が出てるな。なんか来るんじゃねーか」
唐突に、船が激しく揺れた。
警報サイレンが甲高く鳴った。
ミコトのディスプレイが赤く点滅した。
「対空ミサイル、接近中! 三発来ます!」
スクリーンにミサイルの軌跡が映った。
船尾が軋んだ。
ジンが即座に叫んだ。
「フレア展開! ノゾミ、回避ルートを!」
ノゾミは船を急旋回させた。
乱気流と風の抵抗で船がわずかに傾いた。
一発が船尾をかすめた。
カズマが立ち上がった。
「野郎ども、しつこいぜ!」
彼は補助魔導書を発動した。
パルス砲が反撃の閃光を放った。
その時、帝国軍からの暗号回線が届いた。
ギゲン将軍の命令が、冷たく響いた。
「テツカガミ、航路付近にハガネハラがある。公国軍が魔鉱を独占する鉱山都市だ。我が軍が総力で攻略する。貴艇は最も近くにいる。即刻、斥候として現地の情報を集め、支援部隊の到着まで持ちこたえろ」
ジンはハガネハラの位置を確認した。
それはカゲトリデへの直線ルートからわずか数キロずれていた。
岩が密集する危険地帯に位置する。
ジンがコンソールの縁を握りしめた。
だが、選択肢はない。
拒否は即時処分を意味する。
ジンは肩の帝国紋章に一瞬視線を落とした。
「了解した。だが、物資は残りわずかだ。支援は確実か?」
ギゲンは即答した。
「必ず到着する。それまで死守しろ」
将軍の返答は機械的だった。
ブリッジの空気が一層重くなった。
ミコトが報告した。
「追跡信号、継続中。ルートずれでカゲトリデまでプラス二時間……ハガネハラへ向かうなら、迎撃を覚悟してください」
ジンはクルーたちに視線を巡らせた。
皆の疲れた目が、自分を信じていることを知った。
彼は声を張り上げた。
「全員、戦闘準備だ。ハガネハラへ進む!」
船が再び揺れた。
ゲリラ攻撃の魔導弾が船首をかすめた。
リョウタの榴弾砲が即座に反撃した。
小型艇が二隻迫った。
カズマのパルス砲が一隻を撃墜した。
しかし、もう一隻がミサイルを追加発射した。
ノゾミが船を急降下させた。
だが、ナビゲーションが乱れた。
ルートはさらにずれ、ハガネハラの方向へ強制的にシフトした。
ジンが無線で叫んだ。
「迎撃を続けろ! ハガネハラまで突っ込む!」
船内の空気が張りつめた。
テツカガミは追撃の網を掻い潜った。
鉱山都市の荒々しいシルエットを捉え始めた。
ハガネハラに到着した。
テツカガミは魔鉱都市の荒々しい姿に迎えられた。
坑道の岩壁を這う魔鉱が脈打っていた。
魔素粒子が足元の砂礫をかすかに発光させた。
低空着陸の振動が船を震わせた。
外壁の赤外線センサーが熱源を断続的に捕捉した。
住民たちは鎖付きのカートを押した。
魔鉱の欠片を運ぶ姿がぼんやりと映った。
衛兵の鞭の音と怒号が漏れた。
強制労働の苛烈さが空気を重くした。
ノゾミが報告した。
「着陸成功……敵影スキャンします」
カズマが補助魔導書を握った。
「キリハシラにシユウ戦、そんで今度はこの鉱山で斥候だと? 物資も無いのにどうやって戦えっていうんだよ! 出ないもんは出ねーよ!」
ミコトが報告した。
「敵シグナル、奥に複数! 公国軍のライセン……!」
ミコトの指がコンソールを高速で操作した。
ホログラムに敵機のシルエットが立体的に浮かんだ。
それは高速機動魔導騎兵だった。
ミコトの額に汗が光った。
「部隊数は最低二十機。ゲリラ戦になります」
ノゾミが地形をスキャンした。
「地形を活かせば、防御陣形が組めるわ! 支援部隊が来るまで耐えるしかないわ!」
ノゾミのスキャナーが坑道のモデルを投影した。
ジンは戦術マップを広げた。
「斥候任務だ。敵の動きを把握し、ギゲン将軍が来るまで持ちこたえろ!」
ハガネハラは、メイジン大佐が指揮していた。
部下の操縦士たちが鋼糸の張力テストを繰り返した。
彼は冷徹な策士だった。
かつて帝国の実験で故郷を焼かれた。
魂の報復を胸に、魔鉱の支配で地位を固めようとしていた。
部下の報告が飛んだ。
「敵船、坑道入口に接近中!」
メイジンはモニターを叩いた。
シユウの敗北報告が脳裏をよぎった。
胸に鈍い痛みが走った。
部下として育て上げた男だった。
「シユウの仇だ。あのテツカガミを、絶対に許さん。全爆弾を発動、捕捉網を要所に張れ。設置時間は五分以内に抑えろ。人間界のガキどもを、一匹残らず地獄に沈めろ!」
部下たちの返事が重なった。
空気が一気に張りつめた。
メイジンの指が操縦桿を握りしめた。
部下に命じた。
「爆弾は遅延で起爆しろ。今回に限り、すべてを灰にしろ。完全なる破壊だ」
「了解、大佐!」
「すべて灰に……!」
「必ずや破壊します!」
部下たちの返事が重なり、空気をさらに張りつめさせた。
テツカガミの接近音が近付いた。
メイジンの指がモニターの拡大ボタンを押した。
船の損傷箇所が詳細に映った。
弱点を即座に分析した。
「シユウの仇、必ずこの手で」
部下たちに視線を巡らせた。
皆の目が血の誓いに染まった。




