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魔界独立戦争 ~継承された守護魔道~  作者: 川合 佑樹


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第十四話

 クロノミヤの指揮中枢、漆黒の要塞サクラノミヤの深部。

 制御室は突然の通信に震えていた。

 公王ユウエン・クロノは玉座から立ち上がった。

 長い白髪を揺らし、戦術モニターを睨みつけた。

 スクリーンに映るのは、シユウのマガイだった。

 炎に沈む瞬間。

 部下のシックウパイロットからの断片的な映像だ。

 ノイズを交えながら繰り返し再生されていた。

「シユウ……我が子よ……!」

 ユウエンが嘆いた。

 だがその奥に、復讐の炎が燃え上がった。

 彼は玉座の肘掛けを握りつぶした。

 クロノ家の紋章が刻まれた甲冑が軋んだ。

 ユウエンの瞳には影が宿っていた。

 個人的な絶望。

 愛する息子の死は、胸を抉った。

 息子の笑顔が蘇った。

 幼い頃交わした約束。

 炎の向こうで浮かび上がった。

 ユウエンは膝をついた。

 抑えきれぬ嗚咽を漏らした。

「お前はクロノの空を継ぐはずだった……なぜ、こんなひどい事を……!」

 傍らで、メイテン・クロノ総帥が冷徹な眼差しを向けた。

 部下に怒鳴った。

「詳細を! シユウの機体が……どうして一撃で!? シロガラスとは何だ!」

 メイテンは苛立ちに満ちていた。

 戦術卓を叩きつけた。

 メイテンは兄として分析しようとした。

 シユウの死を戦略的損失として。

 だが、心の奥で恐怖がよぎった。

 彼はオペレーターに詰め寄った。

「全センサーを再起動せよ! テツカガミの航路を割り出し、まずは偵察部隊による追跡を確認後、追撃を命じろ! ナラクテンマを投入せよ。補給線を断てば、奴らは自滅する!」

 制御室は一瞬にして喧騒に包まれた。

 オペレーターたちが慌ただしくコンソールを操作した。

 次々と報告が飛び交った。

「シックウ編隊、半壊!」

「追跡信号乱れ!」

 シキは銀髪を優雅に払った。

 微笑みを浮かべながら、瞳の奥に光を宿した。

 一歩進み出て、ユウエンの肩にそっと手を置いた。

 彼女の視線が一瞬、モニターの炎に留まった。

「父上、メイテン兄上……落ち着いて。シユウの死は痛手ですが、クロノ家の血はまだ流れています。帝国の少年──ソウマ・ツキヤマ──を狙うなら、復讐ではなく、利用を。魔導書の力は、公国の未来を変える鍵ですわ」

 彼女の言葉は穏やかだった。

「兄上たちの怒り……これを、シャクゴクに捧げましょう。総力戦の狼煙に、シユウの血を灯すのです」

 ユウエンは魔導剣を抜き放ち、卓を一閃で斬り裂いた。

「メイテン、即刻、総力でテツカガミを追え! キオウにナラクテンマを動員せよ! 我々の誇りを、帝国の灰で汚すな!」

 メイテンの瞳が燃え上がり、命じた。

「全軍に通達! シユウの仇討ちだ。シロガラスを粉砕せよ! メッカイサイの防衛を固め、霧圏の全補給線を封鎖! 少年の首を、父上の前に!」

 シユウの死は、単なる喪失ではない。

 戦争の歯車を加速させる引き金となったのだ。

 公国に不穏なざわめきを広げていった。


 一方、森の奥深く。

 湖畔に不時着したテツカガミの甲板では、まったく別の光景が広がっていた。

 船の補修は丸一日かかった。

 エンジンの損傷が深刻だった。

 ジンの指示でクルーたちは「休息」を命じられた。

 湖は核戦争の遺産だ。

 魔素粒子が水面を淡く青く輝かせた。

 結晶植物の蔓が生えていた。

 冷たい水風が肌を撫でた。

 ユナは作業服の袖をまくり、湖畔の浅瀬に足を浸した。

 冷たい水が煤だらけの肌を優しく洗い流す。

「はあ……少しだけ、息をつけるね」

 母の血の染みが残る袖を眺め、静かに涙を拭った。

 ミコトはポニーテールを解いた。

 水着の肩紐を直した。

 湖畔の岩に腰を下ろした。

 金色の髪が濡れた。

 普段の凛々しさが、少女らしい柔らかさに変わった。

「ふふ、……今だけ、息抜きね」

 ソウマは少し離れた岩に座っていたが、視線がミコトの肩に留まった。

 肩紐が滑り落ちそうになるのを直す仕草が、戦場の彼女とは別人のように柔らかく、思わず目を奪われてしまう。

 心臓が少し速く鳴った。

 ミコトはソウマの視線に気づき、くすっと笑って目を細めた。

「男の子ね。でもユナが見てるわよ」

 彼女の目はからかうように軽く、それでいて優しさを帯びていた。

 ユナは湖から顔を上げ、ソウマをちらりと見て、頰を少し膨らませた。

「ソウマー!」

 その声は甘く、でも少し詰めるような響きで、ソウマの耳をくすぐった。

 ユナの瞳に、嫉妬が一瞬だけ揺れ、すぐに笑みに変わる。

 ソウマは慌てて目を逸らし、頰を赤らめた。

「ご、ごめん! そんなつもりじゃ……」

 ミコトは二人の様子を見て、肩をすくめて笑った。

「ふふ、冗談よ。みんな疲れてるんだから、こんな時間くらい許してあげなさい」

 湖畔の空気が、少しだけ甘く温かくなった。

 ノゾミは湖に飛び込んだ。

 水しぶきを上げて笑った。

 水着のビキニが水面に反射した。

「わーい! みんな、来なよー! ソウマも、ユナの隣空いてるわよ?」

 クルーたちの笑い声が湖畔に響いた。

 ソウマは湖の少し離れた岩に座った。

 水着姿のユナを横目で見た。

 守護魔導書を膝に置いていた。

 シユウの最後の叫びが耳に残った。

「クロノの誇り……」

 あの一撃で家族の絆を断ち切った。

 罪悪感が心を覆った。

「この力で、どれだけの人生を壊したんだろう……」

 ユナは水から上がった。

 濡れた髪を拭きながらソウマの隣に座った。

 水着の滴が青く光った。

 彼女の肌を優しく照らした。

「ソウマ、そんな顔しないで。今は……少し、忘れよう? ほら、水浴びしよ」

 彼女はソウマの手を引いて湖へ連れ込んだ。

 水しぶきが上がり、ミコトの笑顔が重なった。

 ユナがソウマの首に腕を回し、軽くキスをした。

 唇が触れ合う温かさが、ソウマの胸を溶かした。

 彼女の体が密着し、柔らかな感触が伝わった。

「ちょっとは、元気出た? 浮気したらダメなんだからね!」

 ユナの囁きが耳元で響き、ソウマの頰が熱くなった。

 ソウマの頰に一筋の涙が混じった。

 それは、罪悪感の涙か、安堵の涙か。

 ノゾミが水をかけた。

 ミコトが「キャー!」と逃げ回った。

 湖畔は一時、笑いに満ちた。

 休息の夜は静かに更けていった。

 補修の朝が来るまで、クルーたちは、互いの温もりを確かめ合った。


 レイの脱出ポッドは、魔界の森の奥深くに着地した。

 コックピットのハッチが開き、湿った土の臭いが鼻を突いた。

 シユウのマガイが炎に沈む光景が、脳裏に焼き付いて離れない。

 シキの命令が届いた。

「撤退ポイントを伝えなさい。カゼダンの準備が整い次第、サラを合流させます」

 だが、レイの指は動かなかった。

 あの実験室の記憶が、霧のように蘇る。

 十歳のレイの視界に、隣で息を切らす少女の姿があった。

 サラ・テンカ。

 彼女は同じ檻から生まれた「変異者」の一人。

 魔力注入実験で、家族を失った者同士の、唯一の絆だった。

「レイ、こっち! 出口が……!」

 サラの小さな手が、崩落する天井の隙間を指差した。

 彼女の瞳には、レイと同じ恐怖と決意が宿っていた。

 リンカが先頭で道を切り開き、三人は炎の渦を抜け、霧圏の外れまで逃げ延びた。

 あの時、サラはレイの腕を掴み、囁いた。

「生き延びた私たちは、絶対に帝国を許さない。約束よ」

 公国軍に入ってからも、サラはレイに寄り添った。

 彼女の笑顔が、レイの心を支えていた。

 レイはポッドの座標を送信した。

 シキが応じる。

「ハガネハラでテツカガミを監視しなさい」

 レイの拳が操縦桿を握りしめた。

「……了解。ハガネハラに向かいます」

 ソウマの鎧が、サラの未来を奪う前に、俺が止める。

 レイは心に決意した。

 


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