第十三話
ソウマは鎧を解除し息を荒げた。
テツカガミの甲板に膝をついた。
「この力……少し、わかってきた……」
ソウマはヘルメットを外し、汗まみれの顔を空に向けた。
衝撃波の余韻が体に残った。
ジンが近づき、肩を叩いた。
「よくやった、ソウマ。だが、休む暇はない。被害状況を確認しろ!」
クルーたちは即座に動き出した。
カズマが甲板の焦げ跡を睨んだ。
「ちっ、ナパームのヤツ、深い所にまで食い込んでるぜ。リョウタ、冷却システムのチェックを頼む」
リョウタは頷き、点検を始めた。
金属のきしむ音が響いた。
溶接トーチの青い炎が点滅した。
ミコトはディスプレイに張り付いた。
ログを解析しながら報告した。
「シックウの残存機、撤退ルートは北東へ。追撃の兆候なし……」
彼女の指先はキーを叩くのを止めなかった。
医務員たちが負傷者の担架を運んだ。
ジンはブリッジに戻り、戦術マップを展開した。
「ヤタノカガミ耐久率、六割。回路のオーバーロード痕跡あり。補修を急げ。出航は二時間後だ」
ソウマは甲板の端に腰を下ろした。
カズマが水筒を放り投げてきた。
「ガキ、飲めよ。次はもっとデカいのが来るぜ。衝撃波、悪くなかったが……まだ甘いな。俺のパルスみたいに派手じゃねえし、女の子にモテねえぞ」
ソウマは水を飲み干し、苦笑した。
周囲のクルーがクスクス笑い、緊張が少し解けた。
リョウタが工具を手に加わった。
三人で船の傷を補強した。
その中で、会話が自然と弾んだ。
「次は、アメノハバキリを投げてピンポイントで……」
ソウマの呟きに、カズマが目を細めた。
「へっ、いいアイデアだ。エンビで加速させりゃ、重装甲もぶち抜けるかもな」
一瞬の静けさ。
風が煙を運んだ。
クルーたちの顔に疲労の影を落とした。
だが、そこにあったのは、戦友としての確かな絆だった。
ジンの通信が響く。
「補修進捗、七割。休憩を切り上げろ。カゲトリデの偵察信号が……」
その言葉を遮るように、甲板全体に赤い警報灯が点滅した。
低く唸るサイレンが森を震わせた。
ミコトの叫びがブリッジから飛び出した。
「敵影確認! マガイ一機、シックウ編隊! 高度五百メートル、急接近中!」
ジンが即座に立ち上がった。
「戦闘態勢! 全員、ポジションにつけ! ソウマ、鎧を起動しろ!」
ソウマの心臓が激しく鼓動した。
「シロガラス、起動!」
マガイの巨体が雲間から姿を現した。
シユウの無線が嘲笑を響かせた。
「さぁ、蹂躙だ! 出し惜しみなど考えるな!」
マガイが新たなナパーム弾を投下し、火の海になった。
ミコトは敵の位置を特定した。
「マガイが樹木の密集地に接近! シックウが左右から挟撃!」
ソウマは深呼吸し、彼は天を仰いだ。
「あれ……やってみるか!」
彼は周囲を見下ろし、咄嗟に右腕を構えた。
「アメノハバキリ、起動!」
鎧の右腕に刃が形成された。
ソウマは地面に向かって軽く投擲した。
ズドン! という鈍い音が響いた。
それは直径五十センチほどの浅いクレーターを抉った。
刃先は土に埋まったまま、魔力回路を通じてソウマの意志で微かに振動した。
「これを、ぶつけることができれば!」
ソウマはカズマに叫んだ。
「カズマさん、俺に合わせてください! さっきのやります!」
カズマが一瞬目を細めた。
彼は皮肉を抑えて頷いた。
「へっ、ガキが仕切るかよ……。一発勝負だ! いいぜ、合わせてやる! エンビ、フルチャージ!」
ソウマは魔力の波長をパルスに同期させた。
彼は右腕に最大出力を注ぎ込んだ。
「アメノハバキリ、最大出力!」
鎧の右腕に巨大な刃が形成された。
形成過程で、鎧の右腕回路が脈打った。
長さ三メートルを超える刃が完成した。
オーラが周囲を照らした。
それは敵機のセンサーに干渉波を発生させる副次的効果を生んだ。
ソウマは鎧のセンサーを調整した。
彼は密集地の樹木位置をロックオンした。
ミコトのホログラムがリアルタイムで軌道を複数シミュレートした。
ジンとカズマの入力で投擲のタイミングを一秒単位で精密計算した。
「これでいける!」
リョウタが榴弾砲でマガイの動きを制限した。
「ソウマ、右翼を狙え!」
テツカガミが障壁を展開した。
「今だ、ソウマ!」
ヘルメットにカズマのパルス軌道が赤く表示された。
「ガキ、いくぞ!」
ソウマは刃を振り抜いた。
「落ちろっ!」
投擲の瞬間、回転を加えた。
ミコトの計算通りの直線軌道を描いた。
「エンビ、最大出力! 発射!」
カズマのパルスがその先端を加速した。
青白い尾を引きながらマガイへ迫った。
「持ってけよ! 釣りはいらねぇ!」
カズマの通信が飛び込んだ。
シックウの機銃が迎撃を試みたが、パルスの干渉で照準がずれた。
弾幕が空を裂くだけに終わった。
刃はマガイを直撃し、右翼を粉砕した。
先端が魔導回路を断ち切った。
仲間たちの精密計算がもたらした完璧な命中だった。
右翼のエンジンが即座に炎上し、機体のバランスが崩れた。
巨体が森の斜面に傾きながら激突した。
地面が直径二十メートルのクレーターを形成した。
周囲の樹木が根こそぎ倒れた。
二次的なナパームの火種が飛び散った。
余波で周囲の空気が歪んだ。
シックウが一瞬制御を失った。
互いの機体に軽く接触する乱れを生んだ。
シユウの叫びが無線で伝わった。
「そんな……クロノ家の誇りが……兄上!」
幼い頃の訓練場で兄メイテンと笑い合った記憶がフラッシュバックする。
「お前は空の覇者だ、シユウ!」
その笑顔が炎に溶け、シユウの瞳に涙が浮かぶ。
最後の命令を吐き出した。
「撤退を……全機、散開せよ!」
言葉が、炎に飲み込まれた。
コックピットのガラスが熱で割れ、シユウのシルエットが炎の渦に沈んだ。
シックウの残存機が慌てて高度を上げた。
マガイの残骸から漏れる煙が、火の手をさらに激しくした。
テツカガミのクルーたちは勝利の余韻を味わう間もなく、次の脅威に備えた。
コックピットが炎に包まれた。
ジンがクルーを集めた。
「よくやった、ソウマ! だが、戦いはまだ続く。テツカガミを立て直し、カゲトリデへ向かうぞ!」
ジンの声がブリッジに響き渡った。
クルーたちの疲れた顔に汗が光った。
船内の空気が再び結束の熱に変わった。




