第十話
霧圏の荒野で、レイの脱出ポッドが着地した。
通信機のノイズが響く中、彼は呼びかけた。
「シキ様、キリハシラが落とされました」
気品のある返答が即座に返ってきた。
シキ・クロノの声は冷たく、優雅だった。
「既に報告を受けているわ。損失は?」
「クレン、クロウ、シオンを失いました。テツカガミはカゲトリデへ向かうでしょう」
シキの目が一瞬鋭くなり、命令を下した。
「カゲトリデの陥落に向けて、我々はすでに動いています」
レイは操縦桿を強く握った。
「では、一度体勢を立て直して追います」
「近くにシユウの空軍がいます。お前の撤退ポイントを伝えなさい。今ならまだ待ち伏せが間に合うでしょう」
レイは即座に座標を送信した。
テツカガミはカゲトリデへ急いだ。
旧高知の旧梼原、魔界の森が迫る。
霧が深く、木々が不気味に揺れた。
突然、センサーが甲高い警報を上げた。
ミコトが叫んだ。
「地上からの対空ミサイル、複数波接近! 高台からもミサイルが飛んでくる!」
高台に潜む公国軍の発射陣地が赤く瞬いた。
ミサイルがテツカガミを狙った。
ジンは即座にブリッジのクルーたちに視線を巡らせた。
「状況は? ミコト、敵の規模と位置を! ノゾミ、回避ルートを計算しろ! カズマ、リョウタ、対空準備!」
ミコトが応じた。
「三波、合計八発! 高台から二基、森から六基──障壁で耐えられるけど、連続被弾はヤバいわ!」
ノゾミが指を飛ばした。
「低空降下で木々を盾に! 乱気流を活かせば、三分で不時着可能!」
カズマが敵を睨んだ。
「了解、俺のエンビで高台を叩くぜ! リョウタ、ハクゲイで援護頼む!」
リョウタが静かに頷いた。
「任せろ!」
ジンが叫んだ。
「ヤタノカガミ、起動! フレアを放て!」
ノゾミの指がコンソールを操作した。
フレアが船尾から噴射さ、ミサイルの誘導を一瞬乱した。
だが、二発目の爆発が船を震わせた。
障壁が船体を包んだ。
三発目のミサイルが直撃した。
シールドが一瞬輝いて崩れかけた。
ノゾミが叫んだ。
「燃料漏れの兆候! 制御が不安定です!」
カズマとリョウタが補助魔導書を活性化した。
戦闘態勢へ移行した。
カズマが毒づいた。
「ご存じの通り、待ち伏せってね!?」
リョウタは静かに頷いた。
「ソウマが出られるようになるまで、俺たちが時間を稼ぐ」
ミコトが無線にノイズを捉えた。
「敵艦から通信来ます!」
突然、シユウ・クロノ中佐からの声がテツカガミに届いた。
スクリーンに金髪の男の自信に満ちた顔が映った。
「人間界の野鼠ども、クロノ家の空の覇者がお前たちを迎えに来た。シロガラスを渡せば、楽に済むぞ」
シユウの瞳は鋭かった。
嘲笑の奥に、誇りが燃えていた。
ジンの胸に不快な予感が走った。
これは単なる待ち伏せではない。
執拗な追跡だ。
ジンが叫んだ。
「……シユウの軍か。低空に降下! 不時着だ!」
ノゾミの指が操縦桿を握りしめた。
船が急降下し、クルーたちをシートに押しつけた。
着地と同時に木々をなぎ倒した。
ソウマは格納庫で呟いた。
「まだ、出られないのか……!」
ジンがブリッジから即座に指示を飛ばした。
「全員、生存確認! 負傷者なしを確認したら、周囲警戒。カズマ、リョウタ、対空準備だ。船内リンクが使えない以上、個人モードで展開せよ! ミコト、回線を確保──ノゾミ、地形スキャンで敵の接近を予測しろ!」
ノゾミがコンソールを確認した。
「岩場が東五十メートル、敵の接近は上空から、五分以内! 防御陣形、ルート描くから、合わせて!」
カズマが這い上がった。
「生存クリア! こんな所で戦えってか」
リョウタが静かに立ち上がった。
「負傷なし。ハクゲイ、準備完了」
ジンがクルーを見渡した。
「警戒態勢、継続!」
カズマが魔導書を起動した。
光が彼の周囲を渦巻いた。
個人モードは、魔力消費を最小限に抑えた。
リョウタも榴弾砲を展開した。
ジンの鋭い声が響いた。
「敵の追撃が来るぞ!」
その言葉が終わるや否や、航空騎兵が唸り始めた。
マガイのシルエットが木々の隙間を覗いた。
シックウが旋回する気配がした。
クルーたちの疲労した顔に緊張が走った。
岩陰へ移動を始め、防御陣形の輪郭を形作った。
待ち伏せが、テツカガミを容赦なく包み込んだ。
シユウは哄笑した。
「クロノの空が、お前たちを飲み込む」
新たな嵐の予感が、森の闇を濃く染め上げた。




