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聖女に転生したけど中身は世界最凶の暗殺者でした  作者: じゃむばた
聖女と南ディオール地方編
96/119

化物の正体

 武装した男が二人殺気を纏いこちらへ迫ってくる。


 それを確認したバロックはマルタを背中から降ろし、目線を合わせた。


「よし、坊主。ワシらが悪いやつらをぶん殴って、友達も連れ戻してやる。ここで待っておれるな?」


「うん、髭のおじいちゃん……お願い……」


 小さな手が服を掴む。


 バロックはその頭をわしゃわしゃと撫で、ソルフィーユと視線を交わす。


「おい、ライナー。奴ら、ワシらを生きて返す気はなさそうじゃぞ」


 億劫そうに鞘から剣を抜き「まあ、そうだろうな」と言うが、ライナーの空気は一瞬にして変わる。


「ここまで来て見過ごすわけにはいかん。奴らが何をしているのか、吐かせるぞい」


「――んじゃ、月下の牙……行くぞ!」


 一斉に坑道から飛び出す。


 緩やかな下り坂を駆け下り、硬い石の感触が靴底に伝わる。

 地底湖の水面が揺れ淡い光が走る。


 その瞬間。


 ライナーの後方から影が跳ねた。


 横薙ぎに振るわれた片刃の大剣。だが男は姿勢を低くして回避する。

 直後、突き出された槍の穂先が、生き物のようにしなりながらガルドの心臓へと伸びる。


「とっ!」


 足と腰が強くしなり、身体を捻って躱す。

 だが完全ではない。浅く裂け、血が舞う。


 ――突き、突き、突き。


 左手で軸を固定し、右手で引いて押す。

 単純で無駄のない動き。ゆえに速い。


 致命傷は避けているが、ガルドの身体には確実に傷が増えていく。


「んにゃろ! ちょこまかと!」


 怒声とともに大剣が上段から振り下ろされる。

 地面が砕け、石片が跳ねる。


 ――避けられた。


 一瞬の隙。

 槍の穂先が一直線にガルドの目を狙う。


 その刹那、鈍い衝撃音。


 槍を持つ男が、くの字に折れ曲がって吹き飛ぶ。


 バロックが戦鎚の石突を地面に突きさし「おい、犬っころ。もう少し間合いを考えて戦えんか。そんな戦い方、格下にしか通じんぞ」と言い放つ。

 

「……んなこと分かってるけどよ、あの槍使い強えーぞ」


 ガルドの視線の先で、もう一人の男が槍持ちを引き起こしている姿があった。


「油断した」


「敵の数が多い。アレを出すか?」


「……時間稼ぎには丁度いいか」


 二人は小声で何かを交わすと、同時に後方へ駆け出した。


「む、犬っころ!」


「犬呼ばわりすんな! 止める!」


 急いで追いかける。

 その先には横たわる子供の姿。


 人質にするつもりか――いや、それ以上に嫌な予感が走る。


「――それは拒絶の炎、道を閉ざし、我を守れ。『火の壁』」


 逃走中の男が詠唱する。


 次の瞬間、視界が赤に染まり、炎の壁が轟音とともに立ち上がる。


「どわっ、熱っち!」


「しまった!」


 想定外の魔法に足が止まる。


 熱波が肌を焼き空気が震える。


「――火の精霊よ、火を鎮めたまえ」


 静かな囁き。


 セレナの言葉に応じるように、炎は音もなく崩れ落ちると、一瞬で進路を塞いでいた火の壁が消える。


 残ったのは歪んだ空気と焦げた匂いだけ。


 視界が開けた先では、男たちはすでに子供の前に立っていた。


「こいつは正規品だぜ」


「核憑きよりかはコントロールしやすい。奴らを排除してさっさと戻ろう」


 槍持ちの男が拳大の赤く輝く石を、子供の胸に押し当てると、ズルリと体内に沈む。


 地底湖に響く心音。

 徐々に大きくなるその音は、不安を助長させる。


 月下の牙たちは、目の前で起きていることに理解が追いつかない。


 ――子供の姿が、作り変えられているのか、それとも、新たな肉体を得たのは分からないが、それは人間の姿を一部残しているだけで全く別の生物。

 強いて言えば先ほど戦った化物や、オルロレアンの森から出てきた化物に近い姿をしている。


 だが、何やら様子がおかしい。

 二人の男が慌てふためく姿が視界に入った。


「ど、どうなってる?」


「わからんが、同調率が異常値を示している。――暴走か?」


「あれは正規品だろ? 実用化された人造魔兵が暴走するなんて聞いたことがない」


 男たちの手元にある板を観ながら何かを言い合っていると、人造魔兵と呼ばれた化物が暴れ、男たちを巻き込みながら吹き飛ばす。


「ぐああっ!」


「うぐっ!」


 化物に変化した子供がゆっくりと起き上がると、真っ赤に染まった瞳を月下の牙に向けた。


「……おいおい、まじかよ」


「どうするんじゃ?」


「俺たちが相手していたのって、まさかよぉ……」


「……悪趣味なことしたわね」


 あの子供の面影をほんの少しだけ残し、口元から腹部まで裂けたその姿は、姿形は違えどあの化物と酷似していた。


 さらに変化が生じる。

 背中から骨が砕ける音が鳴ると、長い腕が二本、また二本と生えだし、六本の腕で体を支えて起き上がった。


「今度は蜘蛛みたいなやつになっ――」


 空気を巻き込みながら拳が伸び、ライナーの言葉が終わる前に直撃。

 宙を舞うライナーはそのまま地底湖に水柱を立てて落ちた。


「ライナー!」


 セレナがライナーの落下先に駆け寄るが、長い腕が掴もうと伸びてくる。


「風よっ!」


 風が体を包み、人造魔兵の掌からするりと抜け地底湖の上に浮遊した。


 それを見たガルドとバロックは動き出す。


「まずは手だ!」


「ワシに任せろ! 土の精霊よ、掘れ掘れヨイヨイ、壊せや岩石、貫け――『螺旋石砕き』」


 バロックの足下から渦巻き状の石の塊が唸りを上げで回転、空気が爆破すると同時に目に見えぬ速さで人造魔兵の片側の腕三本を巻き込んだ。

 バランスを崩した人造魔兵が硬い地面に落ち着けられた。


「うう……痛い……イタイよ……」


 濁った声で悲痛な声を上げる。

 その声を聞いたバロックが動きを止めた。


「バロックっ! 止まるなっ!」


 ガルドの言葉が耳に入ったときには遅かった。

 人造魔兵は背中から腕が新たに生え、拳がバロックの体を打ちのめす。


「ゴフッ……ワシとしたことが、ぬかったわい……」


 人造魔兵の腕も全て再生し、増えた手で歩く姿形は形容しがたい姿をしていた。

 

 あの子供は人の姿からかけ離れた存在になってしまった。


「イエ……アウ……エト……アビビアバアババ」

 

 声にならない声でバロックに向かって一直線に走り出す。


 ――小さな影が人造魔兵の前に立ち塞がる。


「もうやめて!」


「……ボウズ、危ねぇから離れてろ」


「フロンタン! 髭のじいちゃんをいじめるな!」


 人造魔兵は首を傾げ、顔をマルタに近づける。


「……ウ? マ、ウ、タ?」


「!! そうだよマルタだよ! フロンタン、もう戦うのは止めて!」


 両手を広げ、これ以上戦うのを止めようと必死で声をかけるマルタに、フロンタンと呼ばれた人造魔兵は口を大きく広げ、こう言った。


「……ボクをオイテニゲタ……マルタ、ホントウニ……ニクイ。ニクイ、ニクイニクイニクニク、ニク?……アァ、オナカスイタ」


 赤い瞳がニッコリ微笑むと、腹部まで伸びた口が縦に裂け、マルタに覆いかぶさろうと動いた。


「フロンタンッ!」


 黒い影が飛び込み、人造魔兵の頭部を半分切り落とした。


「――ギャアアアアッッ!!」


 マルタは恐る恐る瞼を開けると、目の前に誰かが立っている。

 黒を基調とし、灰色に輝く軽鎧。腰巻きの裁縫は美しい花柄。武骨だが守り抜く強さを放つカイトシールド。


 そして、聖騎士だけが持つことを許される一振りの剣の持ち主が、人造魔兵に大きなダメージを与えた。


 バロックは掠れた声で「……誰だ?」と、背中を向ける騎士に声を掛けるが、返った来た声に聞き覚えがあった。


「バロック殿、ソルフィーユ様から治療を受け、マルタを守って欲しい」


 バロックの肩に優しく手が添えられる。

 その手の持ち主に振り返ると、聖女ソルフィーユが側に立っていた。

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