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聖女に転生したけど中身は世界最凶の暗殺者でした  作者: じゃむばた
聖女と南ディオール地方編
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帝国産の輝き

「おい、後ろが詰まっているぞ」


 その一言で門兵の背筋が跳ね上がる。


 声の主は、額に大きな古傷を残した男だった。

 佩いた装備と立ち振る舞いから、ただの門兵ではないことは一目で分かる。ペルジーオの守備隊の中でも、さらに上位の人間だ。


「はっ! 申し訳ございません!」


 門兵は慌てて背を正す。


「こちらの女性が、聖王国ディオール貴族、ローラ=エクスリプス=デ=ベルサール様と名乗られておりますが、通行証をお持ちではなく……」


 男の視線がソルフィーユに向けられる。

 鋭く、値踏みするような眼差し。半端な身分詐称者であれば、視線を合わせただけで化けの皮が剥がれるだろう。


 だがサイファは潜入の際には常に『その人物として存在する』為、徹底的に成りきる。

 この程度の圧迫感など問題にもなるばすもなく、ソルフィーユは腕を組みながら男を見上げた。


「……で、いつまで私を門前で立たせるおつもりかしら。貴方の名前は?」


「ダッド=ラハマッタ。ペルジーオ上級騎士を務めている」


 男は名乗り、改めてソルフィーユを見据えた。


「ローラ嬢、でよろしいかな。本日はどのような要件で? 見ての通り、現在ペルジーオは外部からの立ち入りを制限している」


「買付ですわ」


 ローラ扮するソルフィーユはわずかに顎を上げる。


「良質な貴金属を探しておりますの。最高の腕を持つ彫金師にアクセサリーを作らせ、流行らせたい物がありまして……リュミエル」


 合図と同時にリュミエルが一歩進み、小袋を差し出す。

 ダッドはそれを受け取り中身を覗いた。


「……ほう」


 一瞬だけ小袋の重みを指先で確かめる。


「ペルジーオの鉱物は質が高く、高純度での錬成も可能だ」


 ダッドは軽く頷いた。


「中で通行証の発行手続きを進めましょう。おい、この馬車を通せ」


「はっ!」


 門兵たちは慌てて門を開き馬車を通す。


「バートリー男爵様の屋敷は、小高い丘の上にあります」


「ありがとう。失礼するわね」


 ソルフィーユは微笑みだけを残し馬車へと戻った。


 ダッドは貴族の一行を見送ると、何事もなかったかのように小袋を懐へしまい込む。その仕草は、あまりにも手慣れていた。


 馬車が門を通り過ぎ、ライナーが通行証の手続きを済ませている間、セレナはソルフィーユの隣に腰を下ろし、先ほどの騎士とのやり取りについて口を開いた。


「なにあれ。賄賂?」


「人聞きが悪いですね。仮にも私は聖女ですので、そのようなことはしません」


「じゃあ、リュミエルが渡した小袋は何?」


 リュミエルは小さく咳払いをして、ぷいと顔を背けた。


「……通行料が必要だと言われたでしょう。それを渡しただけです。問題が起きないなら、その方が手間が省けます」


「はいはい。そういうことにしておくわ。ね、ローザ様?」


 からかうように恭しく頭を下げ、上目遣いで視線を向ける。


「聖女様はなぜ偽名を使ったのじゃ? 身分を明かして用件を伝えれば、それで済む話ではないか」


 バロックの問いにソルフィーユは静かに答えた。


「簡単に言えば、バートリー男爵に警戒されないためです」


 大聖都ミレニアから聖女が訪れる。

 それだけで、後ろ暗い事情を抱える者は身構える。

 下手に刺激して、敵対関係になる方がよほど厄介だと判断した。


「まずはペルジーオの情報収集を優先します。その上で、聖女として表敬訪問をします」


「いざって時は、俺たちが守るだけだ」


 ガルドが胸を張る。


 暫くして、手続きを終えたライナーが馬車へ戻ってきた。


「通行証は無事に発行してもらえた。宿とギルドの場所も聞いてある。まずは宿に向かおう」


 馬車が動きだすと、町の風景が流れ始める。


 鉱夫たちが籠いっぱいの石を運び、通り沿いでは選別作業らしき工程が行われていた。

 屋台も多く、その半数以上が鉱山由来の素材を扱っているように見える。


 隣ではリュミエルが、目を輝かせながら町並みを眺めていた。

 時間が許せばゆっくり見て回るのも悪くなさそうだ。そう思えるほど、ペルジーオは活気に満ちていた。


 馬車は一件の宿に辿り着いた。

 宿は旅人向けの大きな宿で、馬車や馬を預けることもできる利便性の高い造りだった。

 宿代は聖女持ちであるため、月下の牙の面々も自然と一段上の部屋に泊まることになる。そこに不満が出るはずもない。


 ただし、取った部屋は二つだけだった。

 理由は単純で、金の管理を任されているのがリュミエルだからだ。


 ソルフィーユが彼女に預けている路銀は、三か月旅をしても余裕で余る額だ。

 だがその金は聖庁から出ている。

 聖庁の財源は、各地の教会に集まるお布施と、国政事業から得られる収入――つまり、国民の金。


 金は道具であり、最終的に国民へ還元されるなら問題ないとソルフィーユは考えている。


 一方、リュミエルは違った。

 聖庁に集められた金だからこそ、正確に、不正なく使うべきだと考えている。

 節約は義務であり、管理は責任だった。


 先ほどの通行料も、必要経費として使うこと自体はソルフィーユが許可している。

 ただし、リュミエルは本来の相場以上に払うことには反対だった。


 ――それでも、あの場では仕方がなかった。

 そう理解した上で、色を付けて渡したのだ。


 女性専用の部屋に入ると、シングルベッドが三つ並んでいた。そのうち一つだけが二段ベッドになっている。


「私は二段ベッドの上を使うから、聖女様は一人用を使って」


「ありがとうございます」


 リュミエルはセレナの下段のベッドを使うことになった。


 内装は簡素だが、窓を開けると連なる山脈が一望できる。

 山頂は雪化粧をまとい、冷たい風が山からペルジーオへと吹き下ろし「夜は冷え込みそうですね」とリュミエルが呟く。


 部屋には暖炉と薪が備え付けられている。

 防寒さえしっかりしていれば、眠るのに支障はなさそうだった。


「じゃ、私たちはギルドに報告に行くわ。聖女様はどうする?」


「私は情報収集のために、町を散策します」


「何か分かったら共有するわ。夜には宿に集合ね」


 セレナはそう言って部屋を出ていった。


「それでは、私たちも外に行きましょうか」


「はい!」


 身支度を軽く整え外套を羽織ると、ソルフィーユとリュミエルは宿を後にした。


 馬車から見た通り、町は活気に満ちている。

 金属を叩くリズムカルな音、粉塵でざらついた空気、荷車の軋みがこの町の独特な空気を感じさせる。

 まずは屋台が立ち並ぶ通りへと足を向けた。


 香ばしい匂いが漂い、どうやらそれはリュミエルの空腹で胃を刺激したらしい。

 彼女のお腹が小さく鳴ったのを聞いて、二人は自然と屋台へ向かった。


「ラッシャイ! 見ない顔だな。仕事探し……って感じでもなさそうだな」


 声をかけてきたのは、髭面の人族の店主だった。


「はい。鉱物の買い付けで、大聖都ミレニアから参りました」


「おお、そうかそうか。初めてなら市場もいいし、工房に直接頼むのも手だぞ。市場には、たまに珍しい宝石も流れてくる」


「ありがとうございます。では、その串を二本お願いします」


「毎度! 嬢ちゃんたち可愛いから、二本おまけだ!」


「あら、ありがとうございます」


 串を受け取り、一本をリュミエルに手渡す。


「また来てくれよ!」


 謎肉の串を頬張りながら町の中を散策する。


 店主の言葉通り、市場には大小さまざまな鉱石を扱う露店が並んでいる。

 どの山で採れたか、どの坑道か――それ自体が売り文句になっているようだ。


 その中で、ソルフィーユは宝石を扱う露店の前で足を止めた。


「宝石も採れるのですね」


「いや、この辺りじゃ滅多に出ない」


 店主は即座に否定する。


「それは帝国産さ。ここの鉱山で採れた金属で細工して、宝石を付けて付加価値を出してる」


「帝国産……。綺麗ですね。手に取っても?」


「どうぞ」


 ソルフィーユは髪留めを一つ手に取った。


 繊細な彫金が施され、素材は銀。

深い青の宝石は小粒ながら、丁寧にカットされている。技術的にも明らかに高価な品だった。


「こちらはいくらですか?」


「銀貨二十枚でどうだ」


「高いのかは分かりませんが、その値段で買います」


「ソルフィーユ様、値切り交渉を――」


「リュミエル。これは私からあなたへの贈り物です。値切った品を渡したくありません」


「え……私に、ですか?」


「いつも頑張ってくれていますから。受け取ってくれますか?」


「あ、ありがとうございます! 大切にします!」


リュミエルは髪留めを胸元に抱き、宝物のように包み込んだ。




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