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聖女に転生したけど中身は世界最凶の暗殺者でした  作者: じゃむばた
聖女と南ディオール地方編
68/83

裏路地の作戦会議

 ガルドは、『月光の牙』が拠点としている宿へと戻ってきた。

 こじんまりとしたその宿には客室が四つしかなく、そのうち二部屋を彼らが占有している。一階はリビングを兼ねた共有スペースで、宿泊客の憩いの場でもあった。

 そこでは、月光の牙の仲間であるライナー=ヴォルクと、セレナ=ウィンドレルが腰を下ろし、談笑していた。

 

「ガルド、おかえり。慌ててどこに行ったんだ? 心配したんだぞ」

 

「そうよ。あなた、何も考えずに行動する癖、いい加減なんとかしなさい」

 

「……わりぃな」

 

 仲間に心配をかけてしまった。

 その事実が胸に刺さり、ライムのことをどう切り出すべきか、ガルドは迷った。

 

 この件を相談するべきか。

 それとも、自分一人で背負うべきか。


 そんな逡巡を見抜いたのか、ライナーが声をかける。

 

「まあ、座れよ。何かあったんだろ?」

 

  ガルドは、小さく息を吐き、覚悟を決めた。

 

「……知り合いの子が誘拐された。俺は、その子を助けに行くつもりだ」

 

「知り合い? 俺たちも知ってる子か?」

 

「グランデル商会の、ライムだ」

 

「……なんだって!?」

 

 ライナーが勢いよく立ち上がる。

 

「なら、どうして最初から俺たちに声をかけなかった?」

 

「すまないと思ってる。緊急だったし、迷惑をかけたくなかったんだ」


「はぁ……今さら何言ってんのよ。あんたに迷惑かけられた回数なんて、数え切れないでしょ」

 

 セレナが呆れたように肩をすくめる。

 

 そのとき、宿の扉が開いた。

 樽のような体格の男――バロック=アースフォージが、重い足取りで入ってくる。

 

「話は聞かせてもらったぞ。水臭いじゃねえか、ガルド」

 

「バロック……」

  

「ライムの小僧は、雇い主の跡取り息子だぞい。俺たちだって、無関係ってわけにはいかねえ」

 

「ずんぐりむっくりと同意見ね。ライムが誘拐されたなら、私たちも動くべきよ。ねえ、ライナー?」


 

「ああ。ガルド、すぐに行くんだろ?」

 

「……ああ。ただし、一つだけ条件がある」

 

 ガルドは、仲間たちを見回した。


「他にも、すでに追っている連中がいる。これから見ること、聞くことは――他言無用で頼む」

  

「まあ、ガルドがそう言うなら、言いふらしたりはしないさ」

 

「それでいい。すぐに準備して、西門へ向かいたい」

 

「了解」

 

 月光の牙は手早く支度を整え、外套を羽織る。

 誰一人として、引き止める者はいなかった。

 こうして彼らは、足早に西門へと向かう。


 ▽


 夜の帳が降りる頃、西門付近でソルフィーユはリュミエルと並び、娼館街の様子を窺っていた。

 端から見れば怪しさ満載だが、娼館を彷徨く連中と比べれば、それほど浮いてはいない。

 それだけ、この一帯の治安が悪いということだ。

 

「ソル、リュミ。ここにいたのか」

 

 声を掛けてきたのはガルドだった。

 その背後には、外套で姿を隠した人物が三人。

 

「ガルド、一人で来たわけではなさそうですね。そちらの方々は?」

 

「俺のパーティーだ。事情を話したら……まあ、こんな感じだ」

 

 フードに隠れて表情は見えないが、月光の牙の面々だろう。

 

「ねぇねぇ、それよりさ。あんた、何者? ガルドの知り合い? ライムを助けるために手を貸してくれるって聞いたけど」


 軽い口調とは裏腹に、探るような視線。

 私とリュミエルは顔を見合わせ、そっと外套のフードをを取り、再度、深く被り直す。

 

「……え?」

 

「せ、聖女? マジで?」

 

 一瞬、空気が凍った。

 

「ガルド……どういうことか、説明してもらえる?」

 

「話せば長くなる。ソルとは知り合いだ。隣にいる人族は、聖騎士だ」

 

「これはこれは……驚いたのぉ」

 

 バロックが感心したように目を丸くし、

 セレナは頭を抱えて小さく唸る。

 

「もしかしてさ。数ヶ月前、グランデル商会で会った? 変装してたから分からなかったけど……リュミエル先輩がいるってことは、そうだよね?」


「ライナー君には隠し通せないかな。そうだよ。私がお護りしている、聖女ソルフィーユ様だよ」

 

 ライナーは、なるほどといった様子でゆっくり頷いた。

 そういえば、ライナー=ヴォルクは元銀翼の騎士団だったことを思いだした。

 

「……でさ。なんで聖女様が、誘拐犯なんて追ってるわけ? 正直、ガルドに任せた方が確実じゃない?」

 

「そうはいきません」

 

 私は、はっきりと言い切る。

 

「以前から、子供の誘拐事件は多発しています。そして今回は、グランデル商会のライムが被害に遭いました。あの子を救出し、犯人を突き止める――。それは、私がやらなければならないことです」


 私自身、根拠のない行動だという自覚はあった。ガルドなら身体能力も高く、犯人を突き止められる可能性は高い。

 そもそも、これは聖女の仕事ではない。犯行を目撃したのであれば、戒律院や衛兵に通報すれば済む話だ。

 それが、この国における正しい手順でもある。

 

 だが、今回の犯人は、かなりの手練れだ。

 直感が、はっきりと警告している。

 下手に任せれば、事態は悪化する可能性まあるし、今、ライムの救出を他の人間に委ねたら、最悪の場合、失敗する。

 私は、そう思ってしまったのだ。

 

「私は反対かなー」

 

 セレナが、軽い調子で口を挟む。


「聖女様って、こういう荒事は不得意でしょ? 私なら精霊魔法も使えるし、仲間たちは戦闘のプロ。さすがに、大人しくここで待ってた方がいいと思うよ」

 

「……本当に、そう思いますか?」

 

 私は挑発に乗らず、静かに聞き返した。

 

「まな板娘。お前の目は節穴か?」

 

 低く、バロックが吐き捨てる。

 

「聖女様に纏わりつく気配……あれは、ただ者じゃないぞ」

 

「……それは、認めるわ」

 

 セレナは一瞬、言葉を詰まらせてから頷いた。

 

「聖女様は神力っていう、訳の分からない力を使うし。精霊たちも、なぜか聖女様の周りに集まってくる。でも、それとこれとは別よ」


 視線を逸らさず、はっきりと言う。

 

「聖女様に、こんな荒事は危険。私は、そう言いたいの」

 

「お気遣い、感謝します」

 

 私は一礼し、言葉を選んだ。

 

「ですが、私にも――、貫き通さなければならないものがあります」

 

 視線を上げる。

 

「ですから、引き下がるつもりはありません」


 セレナは一歩ま引かない聖女に、それ以上言い返すことはなく、鼻を鳴らしてそっぽをむくだけだった。


「聖女様がそこまで言うなら、俺たちは構わないですよ。しかし、誘拐犯を確実に捕らえる為に、ある程度作戦を練らなくてはならないと思う」


 確かにライナーの言う通りである。

 折角、人数が揃っているなら、利点を活かせるはずだ。


 

 西門近く、明かりの届かない路地裏。

 壊れた木箱を囲むようにして、私たちは集まっていた。


 月下の牙――

 ライナー=ヴォルク、

 ガルド=ランフィア、

 セレナ=ウィンドレル、

 バロック=アースフォージ。

 そして、私とリュミエル。

 

 誰もが軽口を叩く雰囲気ではなかった。

 夜の冷気よりも、これから起こることの重さが、場を静めている。

 

「まず確認だ」

 

 ライナーが口を開く。

 

「相手は単独。だが、動きは完全にプロ。追跡を想定してる可能性が高い。ガルドの話だと、匂いは残してるが、撒きも混ぜている」

 

 ガルドが低く唸る。


「下手に走れば、逆に誘導される」

 

「娼館街……最悪の場所ね」

 

 セレナが肩をすくめた。

 

「人も多いし、精霊の声も掻き消される。戦闘になれば、一般人を巻き込む可能性もあるわ」

 

「じゃが、逃がすつもりもない」

 

 バロックが短く言い切る。

 

 視線が、自然と私に集まる。

 

「役割を決めましょう」

 

 リュミエルが一歩前に出た。

 

「ガルドとセレナは追跡の軸、私と他の月下の牙は娼館街の監視」

 

「聖女様は?」

 

 ライナーが尋ねる。

 私は一瞬だけ黙り、そして答えた。

 

「私は今回一人で大丈夫です。お気になさらず」

 

 聖女に期待していないのかもしれないが、誰も反論しなかった。

 

 夜は深く、静かに息を潜める中、私たちは闇の中へと散っていった。

  

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