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盗賊の砦 救出劇

 縄を解き、簡単に身支度を整えさせる。

 幸い怪我はない。気丈さで抑え込んでいるようだ。


「自己紹介はまだだったわね。私の名前はミラーナ。魔法裁縫師をしているわ」


「私はリュミエルです。こちらはソルです」


「見た目からして冒険者かしら? 盗賊討伐依頼を受けるなんて、よっぽどの実力者のようね」


 勘違いしているようだが、今はそれでいい。

 ここから抜け出して、ヨアンから紹介されたことを伝えればいい。


「動けますか」


「ええ。縫い針がなくて残念だけど、足は問題ないわ」


 軽口を叩ける余裕がある。大丈夫だ。


 私は廊下に視線を向け、外の気配を探る。

 今なら、まだ――。


 その時だった。


「……おい」


 砦の外から、間の抜けた声が響く。


「見張りが……いねぇぞ?」


 一拍の沈黙。


「……倒れてる」


 次の瞬間、怒号が砦全体を揺らした。


「敵襲だ!!」

 

「外の連中がやられてる!!」


 足音が一斉に動き出す。

 もう、隠密での離脱は不可能だ。


 私は小さく息を吐いた。


「気づかれましたね」


「みたいね。……で、どうするの?」


 ミラーナが私を見る。

 その目には、怯えよりも計算の色があった。


「このまま逃げれば、盗賊は散って街に戻る。あなたのように、誘拐される人が増えるでしょう」


「でしょうね。……実は私、ハーフエルフなの。大した魔法じゃないけど――」


 指先に、淡い光が灯る。

 空気がわずかに歪み、部屋の影が濃くなる。


「目眩ましと、足止めくらいならできるわ」


 リュミエルが息を呑んだ。


「……戦うおつもりですか?」


「さっきの手際を見れば二人とも手練れよね。盗賊を一人でも多く始末しない?」


 ミラーナは笑った。

 職人らしいセリフではないが、危ういほどの自信を含んだ笑みだ。


 私は一歩前に出る。


「では、殲滅します」


 その言葉を合図に、砦の中へ怒号と足音が押し寄せてきた。


 ミラーナが床に魔力を走らせる。

 石畳隙間から突然植物が不自然に生えて伸び、盗賊の足元を絡め取る。


「なっ、足が――」


「今です!」


 リュミエルが敵から奪った小盾を構え、正面から突っ込む。

 金属音と悲鳴が重なり、一人、また一人と倒れていく。


 私はその背後をすり抜ける。


 叫ぶ前に、急所。

 振り向く前に、意識を断つ。


 盗賊たちは数だけは多い。

 だが、統制はない。恐怖で動きが鈍る。


「くそっ、化け物どもが――!」


 最後の一人が叫びかけた瞬間、影が喉を塞いだ。


 静寂が戻る。


 砦に残ったのは、倒れ伏す盗賊と、血の匂いだけだった。


 ミラーナが、ゆっくりと息を吐く。


「……ねぇ」


 彼女は私を見て言った。


「あなた、何者なの? ただの子供に見えない動きだけど」


「その質問は、後にしてください」


 私は周囲を確認し、短く告げる。


「ここは片付きました。移動します」


「……待って」


 ミラーナは眉をひそめ、砦の奥、崩れかけた別棟の方を見やる。


「この砦に連れて来られたとき、私一人だけじゃなかったの」


 私は一瞬で理解した。

 ここは盗賊の根城だ。

 商品が一人で済むはずがない。


「……他にも拉致された人がいるのですね」


 リュミエルが息を呑む。


「他の敵を倒しつつ、捕らわれた人を救出します」


 私は進行方向を変えた。


「確認します。付いてきてください」


 砦の奥へ進むと、鉄格子で区切られた一角が現れた。

 そこには人が数名いた。


 年老いた商人。

 震える若い女。

 少年と、その妹らしき幼子。


 全員、痩せ、怯え、声を失っている。


「……やっぱりね」


 ミラーナが歯を食いしばる。


 私が近づくと、彼らは一斉に身をすくめた。

 黒衣、血の匂い、静かな足取り。

 盗賊と見分けがつかないのだろう。


「大丈夫です」


 声を低く、しかしはっきりと告げる。


「あなたたちを助けに来ました。一緒にここから出ましょう」


 しばらくして、年老いた商人が震える声で尋ねた。


「……ほ、本当か……?」


 私は鉄格子に手を掛け、力を込めた。

 歪み、軋み、やがて外れる。


 その瞬間、空気が変わった。


「外へ行きます。歩けますか?」


 少年が、妹の手を握りしめて頷く。


「……お姉ちゃん、怖くない?」


 その問いに、私は一瞬だけ言葉に詰まった。


 そして、答える。


「怖いままでも、進めます。今は、それでいい」


 リュミエルが彼らを支え、ミラーナが後方を確認する。


「急ぎましょう。夜明け前なら、まだ間に合う」


 全員を誘導し、砦の外へ。

 道中、盗賊と鉢合わせしたが、手早く処理して対応。

 盗賊の気配はない。


 砦の外へ出たとき、森の冷たい空気が一斉に流れ込んだ。


 年老いた商人が、地面に膝をつく。


「……ありがとう……。名前を、教えていただけませんか……?」


 私は首を横に振る。


「名乗る必要はありません」


 ミラーナが、ふっと笑った。


「でも覚えておきなさい。今夜、あなたたちは運が良かったんじゃない。助けると決めた人がいたの」


 人々の視線が、自然と私に集まる。


 私は何も言わず、ただ背を向けた。


 森の闇に紛れながら、思う。


(……連れて帰る人間が増えたな)


 だが、それでいい。


 救える命があるなら、

 見過ごす理由は、どこにもない。


 大聖都ミレニアへの道中は先頭をリュミエル、後方をミラーナとソルフィーユが歩く。中央を歩くのは捕らえられた人々だ。

 ソルフィーユは幼い子供を二人を見て思い出す。


(謎の事件簿に記載された事件に、子供の誘拐事件が記載されていた。盗賊が犯人かなのか……?)


 老人も含まれているので、関係ないかもしれないが、無関係とも思えない。


「あの盗賊たちはタイガー商会の下部組織の一つです。グランデル商会と関わりのある人を襲う命令が合ったらしいのですが、ミラーナは何か聞いてませんか?」


「いいえまったく。グランデル商会の二代目と会ったのも数年ぶりだったしね。ただ……」


 彼女は何か思い出したかのように考え出す。


「砦に集められた人は一部を奴隷にして売買しているらしいわ。私も辱めを受けた後は奴隷にされて売るような話をしていたわ」


 奴隷。その話を聞いて思い出す。

 ガンブレイ戒律官から貰った資料に奴隷を扱う幹部がいた。


 名前は確か、ナスター=ヘスペリア。

 通称、奴隷王。

 あらゆる奴隷を扱い、国内の貴族の他、顧客は国外までに及ぶらしい。どこから商品を集めているか不明だが、こうやって誘拐して奴隷を集めているならば、相当のクズだと言えよう。


「……大聖都ミレニアに、盗賊を扱っている場所は知っていますか」


「ごめんさない。裁縫以外興味無くて……」

 

 謝るミラーナの前に歩く老人が振り向き「盗賊たちが、そんな話をしていたぞ」と言う。


「ご老人、詳しい話をきかしていただけますか?」


「大聖都ミレニア西門の付近に夜の繁華街があります。そこに奴隷を扱う店があるようです。盗賊たちは、私たちをそこで売るようでした」


大聖都ミレニアには、東西南北それぞれに商業区が存在する。

 だが、夜の商い、とりわけ裏の匂いが濃い店が集まるのは、西門周辺だ。


 他の区画にも夜の店は点在しているが、西門は規模も密度も桁違い。

 歓楽、賭博、闇取引。

 光の裏側が、そこに凝縮されている。


 そして奴隷を扱う店も、例外ではない。


(時間はない)


 盗賊団を潰しても、供給源を断たなければ意味がない。

 末端を叩けば、別の手足が伸びてくるだけだ。


 被害が拡大する前に、

 人が商品として扱われる仕組みそのものを壊す。


 ならば狙うべきは、一つ。


 西門。

 夜の繁華街。

 そして、その中心にいるタイガー商会の幹部。


 このまま放置していても、グランデル商会と関わりのあるミラーナのように、他の関係者が誘拐される可能性がある。


「奴隷商について調べる必要がありそうですね」


 見過ごす理由もない。

 準備を整え、侵入し、潰す。 


「……」


 この時、老人の目がソルフィーユをジッと追っていたのは気が付かなかった。

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