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聖女に転生したけど中身は世界最凶の暗殺者でした  作者: じゃむばた
聖女と南ディオール地方編
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後始末

 バートリー男爵が拘束されて四日、一連の騒動は暫く収まることなく、空気を濁らせ続けていた。


 ペルジーオの行政官が代官代理として職務を引継ぎ、失踪した子供の誘拐に関与したと思われる私兵や、暗躍していたバートリー男爵の奴隷も逮捕されていると聞いた。


 たが、今回の事件でバートリー男爵を裁けない事情が浮上した。


 ソルフィーユは再び屋敷に呼び出され、応接間で報告を受けた。


 向かいに座るのはヤン行政官。

 髪の毛をきちんと整えた若い男性で、バートリー男爵が不在のペルジーオを運営する為に臨時責任者として就任し、ソルフィーユは先日、形式的な挨拶を交わしたばかりの相手である。


「飛竜郵便で届いた聖王国からの書状です」

 

 ヤン行政官から一枚の羊皮紙を受け取る。

 紙に視線を落とした瞬間、空気が変わった。

 

 内容はレイリッヒ=ゼノン子爵が恩赦減刑を聖王国へ上告。

 それを受けた聖王国は、バートリー男爵を準男爵へと降格させ、三カ月の謹慎処分とした内容が書かれていた。


「これは……随分と動きが早いですね。まるでバートリー男爵がしていたことを知っていて黙認しているかのような」


 ソルフィーユは文面に視線を落としながら、静かに自身の考えを述べる。

 いくらなんでも早すぎる、と。


「本来ならバートリー男爵……いえ、バートリー準男爵は聖王国に連行され尋問後、裁判に掛けられますが、この数日で処分が決まったことは異例中の異例です」


 ヤン行政官は冷静に言葉を繋ぐ。


「今回、いち早く恩赦減刑を申請したのがレイリッヒ=ゼノン子爵です」


 ゼノン子爵の名前を聞いてソルフィーユは思い出す。

 違法奴隷オークションにも姿を現し、当時のバートリー男爵と一緒にいた男だ。


「レイリッヒ=ゼノン子爵について知っていることはありますか?」


「多くは知りませんが、領地を持たない貴族で、主に外交官として国外を転々としている人です。私はペルジーオで数回見かけたことがあります」

 

 ソルフィーユはヤン行政官の言葉に静かに耳を傾ける。

 聖王国の外交官として動けるとなると、国外への影響力は少なからずありそうだ。

 

 ――レイリッヒ=ゼノン子爵、かなり厄介な相手だ。


「そうですか。ゼノン子爵については私のほうでも調べてみます。また、この書状についてはバートリー準男爵の解放が明日となっておりますね」


「はい。しかし、領地運営は三カ月後なので暫くは、わたくしが代理として運営していきます」


 ヤン行政官の声には緊張が混じる。


「今回の件で、不正ができない仕組みを作ろうと思っていますが、三カ月しか猶予がないとなると難しいですね」


「……そうですか。私の方でも聖王国側に掛け合ってはみますが、暫くはお願いします」


「尽力を尽くします。……そう言えば、ソルフィーユ様は明日には出立ですか?」


 ヤン行政官の話の転換を受けて柔らかな会話から、話はソルフィーユの今後のことへと移りだした。


「はい。次は更に南のフォルキア領へと行く予定です」


「フォルキア領ですか。南のエルフ族との交流が有名ですね」


「はい。一度行きたくて、ようやく願いが叶いました」


「道のりは長いですが、道は平坦なのでそれほど苦労することは無いと思います」


「そうなんですね。また聖王国に戻る際、ペルジーオに寄らせていただきます」

 


 軽い会話を交わしヤン行政官と別れを告げ、執務室を後にすると、扉の前でリュミエルが静かに立っていた。


「ソルフィーユ様、奴は罰を受けないのですか?」


 リュミエルの声は静かだが奥に熱を孕んでおり、ソルフィーユにはその熱が伝わってくる。


「思った以上に聖王国の腐敗は進んでいるようです。現時点では私たちに起こせる行動はありません」


 ソルフィーユは淡々と答える。


「このまま泣き寝入りですか? また子供の誘拐が行われるかもしれません」


 リュミエルの声色に若干の煽りを感じる。

 

 責めるわけではないが問うている。

 ――野放しにしていいのか、と。

 ソルフィーユは、ふと口元を緩めた。


「ソルフィーユ様?」


「ごめんなさい。少し考えごとをしていました」


 屋敷を出て馬車に乗り、車輪の音が石畳を刻む。


「リュミエルは彼が更生すると思いますか?」


「更生するのは難しいかと思います」


 ソルフィーユは馬車の窓から町を眺めると、子供たちが笑顔で駆け回っている姿が見えた。この景色がいつまでも続くとは限らない。


「そうですね。ただ、聖王国の対応を見るに、民衆への弾圧が起こる可能性があります」


 もし準男爵が復帰すれば。

 口封じのために。 


「……ならば、悪の根源を断ち切ればいい」

 

 ソルフィーユの声は静かだったが、その先を見つめていた。 


「……私も同行して宜しいですか?」


「置いてはいきません。私が取る選択を最後まで見届けてください」


 

 日付が代わり、深夜。

 漆黒の聖衣を纏った影と、灰黒色の軽鎧を身に纏う二人の影がペルジーオのある場所に現れた。


 冬の夜に吹雪く風が、体の芯まで冷やそうと風を吹き付けるが、意に介さず二つの影は静かに地下へ滑り込む。


 地下牢は長く使われていないせいか、カビと埃の匂いがする。奥の通路からは光が漏れているのが見えた。


 人の気配。

 欠伸を噛み殺している男が一人、隙だらけの男をソルフィーユは音も無く一撃で昏倒させると、腰に下げていた鍵を奪い取る。

 更に奥へと進み、ある牢の場所で足を止めた。


 気配を殺し中を覗いてみると、牢屋とは思えない内装の部屋で小太りの男が何やら独り言を呟いていた。


「あの小娘め! 聖王国の為、先代から血を滲むような努力をしていたのにぶち壊しよって!」


 テーブルを何度も叩き、怒りをぶつけるバートリーの呼吸が荒い。


「こうなっては帝国に領地を手土産に亡命する必要も考えなくては」


 バートリーはカップに入った水を飲み干すと、カップをテーブルに叩きつける。


「ゼノン子爵、そうだゼノン子爵だ。あいつの話を乗ったばかりに、ろくなことが起こらない。このままでは破滅だ! ゼノン子爵に連絡をとらなくては……」


 ――カチャリ。


 牢を解錠する音が室内に響くと、バートリーは立ち上がり、「誰だ?」と不安げな声が漏れる。


 室内に二人の女性が静かに入って来た。

 マスクをしており誰だか分からない。

 たが、バートリーは二人の特徴に身に覚えがあった。


 一人は赤髪で美しく長い髪をもつ背の高い女性。

 その隣には一見、少女の姿をしているが、深い紫色の髪の女。動作に無駄が無く、気品に満ちた雰囲気を放つ。


 間違いない、バートリーは違法奴隷オークションで現れた謎の女二人組だと理解した。


 慌ててバートリーは壁際に後ずさりした。


「お、お前たちはあの時の? 何故お前たちがここに!?」


「先程の話は本当ですか?」


 仮面の裏側でリュミエルの低い声が響く。


「ははは、冗談だ。つい、追い込まれていてね。心にもないことを口走ってしまった。聞いたことは忘れてくれ」


 顔面蒼白のバートリー準男爵は冷や汗を流し震えた声で、誤魔化すのだが……


「本日、バートリー男爵は準男爵へと降格し、三カ月の謹慎処分とした聖王国からの通達が来ました」


 ソルフィーユはヤン行政官からの話を伝えると、バートリーは表情から緊張が抜け落ちる。


「おお、そうかそうか。降格は痛いが、首の皮一枚繋がったな。話はそれだけか? 私は忙しい、早く出て行ってくれ」


「話は終わってはおりません!」


 リュミエルが強く言うと、バートリー準男爵は身を屈め怯えだす。


「自分自身やその周りしか守らず、他の村から子供たちを集めて売るなんて、鬼畜の所業!」


「ま、まて、子供たちは帝国で素晴らしい教育を受けさせる為だ。いずれ聖王国に戻ってくる」


 バートリー準男爵のズレた発言にリュミエルは体から魔力が溢れ出す。

 深く黒く揺れる魔力は、側にいるだけでも息が詰まりそうだった。

 そんなリュミエルを見かねたソルフィーユは、彼女の腕に触れると、ハッとなったリュミエルは一歩、後ろに下がる。


「バートリー準男爵。子供たちは、帝国の何かの実験として消費されていました。先日の子供の証言を聞きましたでしょう? 貴方をこのまま生かすと、世の為になりません」


 ソルフィーユの冷たい声がバートリー準男爵の耳に響くと、跪き必死になって顔を床に擦り付ける。


「た、頼む! 命だけは! 私はこの領地を、聖王国を豊かにする為に帝国と組んだのだ! このままでは帝国の属国になるか滅ぼされてしまう。な、頼む! 国の為なんだ!」


「――ほんの少し、貴方に人の心があれば……」


「く、来るな! 近寄るな! う、うわあああああ!」


 悲鳴が地下の闇に吸い込まれて消え、暫くするとその声も奥から響かなくなった。


 ▽ 


 ――翌朝、バートリーは牢の中で首を吊って死亡しているのが見つかった。

 

 罪の意識に押し潰され自害したと発表があったが、巷では「バートリーはそんな人間じゃない」、「しぶとく生き残ろうとする」などの声は聞こえた。


 バートリーがしたことによって子供たちは帰ってこない。

 ソルフィーユとリュミエルはただ、心の奥で暗い闇だけが残っただけだった。


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