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聖女に転生したけど中身は世界最凶の暗殺者でした  作者: じゃむばた
聖女と南ディオール地方編
101/120

群衆が見守る中で

 ソルフィーユを乗せた馬車はゆっくりと小高い丘へ登る。その先にバートリー男爵の屋敷がひっそりと建っている。


 石造りの門前には、すでに異様な光景が広がっていた。


 ナラハマ司祭をはじめ、教会騎士六名、衛兵十数名が馬車を囲む様は、聖女を護衛するかのような布陣。

 普段この街で暮らす者にとって、それは『今から何かが起きる』と感じさせるものだった。


「聖女ソルフィーユ様がいらっしゃった。バートリー男爵様に取り次ぎを願う」


 先導の教会騎士が声を張る。

 だが門を守る私兵たちは門を塞ぐように立ち並ぶ。


「これはどういうことだ。戦でも起こす気か?」


「説明は不要だ。門を開けろ」


「男爵様は誰とも会われぬ。日を改めていただこう」


 緊張が膨らみ、押し問答が続くかと思われた、その時――


 屋敷の大きな玄関から一人の男が姿を現した。


「――バートリー男爵様」


 誰かがバートリーの名を呼ぶ。

 

 バートリー男爵はゆっくりと手を上げると、門兵は慌てて門を空け始めた。


「ソルフィーユ様、男爵がお会いになるそうです」


 ナラハマ司祭が馬車越しに告げる。


「マルタ、一緒に行きましょう」


「うん」

 

 ソルフィーユは静かに降り立つと、小さな手を引き、屋敷へ足を踏み入れる。

 続いてリュミエル、月下の牙が入ると屋敷の敷地内は殺気に満ちていた。


 冬空の下、武装した私兵が十数名からの視線が刺さる。首筋に、ちりりとした感覚。僅かに殺気が漏れている者がいる。


「これはこれは、聖女ソルフィーユ様。教会騎士まで引き連れて随分と物騒ですな」


 バートリー男爵は張り付けたような笑みは、僅かに引きつっており、汗が滝のように溢れている。


 ライナーが前に出て、縄で拘束されたダッドを床へ突き出す。


「バートリー様……申し訳ございません……」


 ダッドはうつ伏せのまま縋るが、男爵は視線すら向けない。


「これはどういうことですかな?」


 とぼけた声音でソルフィーユに疑問をぶつける。


「それはこちらの台詞です」


 バートリー男爵とは逆に、ソルフィーユの声は穏やかだ。


「この男は、バートリー男爵の指示で私たちは待ち伏せをしたと吐きました。殺意をもって。説明を求めます」


 沈黙の後、小さく息を吐くと男爵はゆっくりとダッドへ視線を落とす。

 その目は、氷のようだった。


「この者は虚言癖があり、身分を盾に金品を巻き上げていると報告を受けていた。いずれ処罰するつもりだったが……どうやら先走ったようだ」


 一瞬、ダッドの顔が絶望に染まる。


「この者に厳罰を与える。……連れて行け」


「待ってください! バートリー様!」


 ダッドは両脇を抱えられ引きずられていく。


 ――その間、リュミエルはそっとソルフィーユの耳元に顔を寄せる。

 

「ソルフィーユ様、実行犯をみすみす差し出して良かったのですか?」

 

 ソルフィーユは視線をバートリー男爵から外さないまま、静かに答えた。

 

「構いません」

 

 小さな声だったが迷いはない。

 

「ダッド=ラマハッタは、すでにバートリーに切り捨てられました。あの場で庇われなかった時点で、彼はもう駒ではありません」

 

 リュミエルが息を呑む。

 

「今、彼をこちらで拘束すればどうなると思いますか?」


「……バートリーが被害者を装う?」

 

「ええ。腐敗した騎士を取り締まろうとしていた領主、という顔を作られてしまいます」

 

 ソルフィーユの銀の瞳がわずかに細められる。

 

「本当に見るべきは、ダッドではありません」

 

 ダッドの悲痛な叫び声が庭に響き、やがて遠ざかると再び静まる。


「――監督不行き届きは私の責任。謝罪の意を込め、聖金貨一枚を教会へ寄進いたします」


 その言葉に、ナラハマ司祭と教会騎士たちがわずかに動揺する。


 聖金貨一枚。地方都市では滅多に目にできぬ額だがソルフィーユの表情は変わらない。


「……そのお金は、どこから出ているのですか?」


 静かに問う。

 笑みを浮かべていた男爵の頬が、わずかに引きつった。


「鉱山からの税収だけで、聖金貨を容易に用意できるとは思えません」


 ソルフィーユの静かな声が室内に凛として響く。

 もちろん張ったりだ。ソルフィーユは鉱山からどの程度、収益を得るかなんて知る筈もない。

 結果、バートリーの表情が答えを出している。


「それとも……別の収入源があるのですか?」


 空気がぴんと張りつめ、その場にいる者の喉を乾かすと、ソルフィーユが次に語る言葉を今か今かと、背後に居る者から感じとれる


「例えば――違法奴隷の売買など」


 その一言で場に稲妻が走った。


 バートリー男爵の私兵たちの視線が揺れ、教会騎士がわずかに構える。


「な、何を根拠に……! 私は違法奴隷など――」


「ゼノン子爵と親交がおありのようですね」


 言葉をかぶせる。

 バートリー男爵に主導権は握らせるつもりはない。


「お二人で違法奴隷を買い漁っている。そうですね……異端審問官を呼び正式に調査してもらいましょうか」


 男爵の喉が鳴る。


「ぐ……証拠はあるのか! 私は関係ない! そ、そうだ! 聖女はその違法奴隷オークションにいたではないか! 異端審問官に連行され監獄塔へ連行されたのは事実!」


 ざわめきが広がる。


「……確かに、私は異端審問官に連れられ監獄塔へ行きました」


 ソルフィーユは否定しない。

 地方に話が伝わらないのは仕方がない。

 だが、揺るぎない真実もある。


「ですが無罪となり、今こうして聖女として職務を果たしています」


 銀の瞳が真っ直ぐ男爵を射抜く。


「ところで――」


 声がさらに静まる。


「なぜバートリー男爵は『違法奴隷オークション』という言葉をご存じなのですか?」


 バートリー男爵は黙り込む。

 既にバートリー男爵の顔色は悪く、汗で床が濡れている。


「公になったのは、奴隷商内で起きた虐殺事件です。『違法奴隷を競り落とす側』でなければ知り得ない呼称を、なぜ貴方は口にできたのでしょう?」


 教会騎士の一人が、はっと息を呑む。

 群衆の疑念が男爵へ向く。

 疑惑は人から人、次々に感染していく。


「お答えください」


 男爵の手が震え、目が泳ぐ。

 沈黙が何より雄弁だった。


 更に畳み掛けるように、ソルフィーユは懐から黒い板状の魔道具を取り出す。


 起動音と共に表面に浮かび上がる――カルドニア帝国の紋章。


 ざわめきが爆発する。


「これは水晶鉱山の奥、地底湖で発見しました」


 ソルフィーユは一歩、踏み出す。


「現場にいた、持ち主の確保には失敗しましたが、カルドニア帝国関係者と思われる者が所持していたものです」


 まるで演劇のような身ぶり手ぶりで説明するソルフィーユに、群衆たちは息を飲む。


「なぜ、まだ採掘可能な良質な鉱山を立ち入り禁止にしたのですか? なぜ、ペルジーオ以外のバートリー男爵領で子供たちが行方不明になっているのですか?」


 私兵の一人が、わずかに視線を逸らす。


「……カルドニア帝国と裏で取引をしていたのではありませんか」


 声は穏やかだが、その言葉は刃より鋭い。


「子供を売り、産出物を流し、その対価として金を得ていた」


 一歩、さらに踏み込む。


「あの水晶鉱山を使って」


 男爵の顔から血の気が引く。

 部屋の温度が下がったかのようだった。


「マルタ」


 ソルフィーユの呼びかけに、少年が一本前に出る。


「この子は水晶鉱山の内部で保護しました。事情を聞くと誘拐されて、あの場所であるものを見たそうです」


 ソルフィーユはマルタに視線を送ると、マルタ少年はゆっくりと頷く。


「ぼ、僕はあの地底湖で見たんだ。他に誘拐された子が集められて、何かの実験をしているところを」


 小さな手をギュッと握りしめ言葉を繋ぐ。


「怪物になった子、死んじゃった子。生き残った子たちはみんなどこかに連れて行かれちゃった。最後に友達になったフロンタンだって……」


 フロンタンの名を聞いた群衆の中から鉱夫の姿をした男が慌てて飛び出してきた。


「フロンタン、今フロンタンと言ったか!」


「フロンタンという名の少年を見つけました」


 ソルフィーユは男に向かって伝える。


「私の息子なんだ! 出稼ぎでペルジーオに来ているんだが、妻から手紙が来てフロンタンが行方不明だと……フロンタンはどこだ? ここにいないのか?」


「フロンタンのお父様。マルタと共に水晶鉱山を脱出する際、お亡くなりになりました。これは私の力不足が招いた結果です」


「そ、そんな……」


 フロンタンの父親は膝から崩れ落ちた。

 人造魔兵になって襲われたので殺した、そんな真実を伝えることより、ソルフィーユが助けられなかったという嘘で塗り固めたほうが、彼の傷をこれ以上深くすることはないはずだ。


「バートリー男爵。横領、誘拐、国家反逆罪など多岐にわたる罪状……同行願えますか?」


「……ふん。確かに私は帝国と裏で取引はある。しかし、私がいなければこ聖王国は衰退していくだけだ。帝国と共に歩まなければ聖王国は存続できないと知らない愚か者め」


 教会騎士がバートリーを拘束すし、肥えた体の両脇を抱える。


「すぐに私は無実になり釈放される。見ていろ聖女ソルフィーユ。私は国の為に尽くしてきた。聖王国は私の味方だ! いつか必ず聖女の仮面を剥がし、その汚い裏側を曝け出してやる!」


 怨嗟の声を上げながらバートリー男爵は、教会騎士に引き摺られるように連行されていった。


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