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<第一部 マンハッタン島編 第七章『最大公約数』シーン3-2>

シーン内で話題にしているポエムを再掲しておきます:


―Awaken the entire country to service<全国民に奉仕の精神を喚起せよ>

―Make victory certain<勝利を確実なものとする>

―Educate the people on the war<国民に戦争の意義を教育せよ>

―Realize your individual duty<各自の義務を自覚せよ>

―Insure Universal Military Training<普遍的軍事訓練を徹底せよ>

―Combat German propaganda<ドイツのプロパガンダに対抗せよ>

ーAdd to our fighting power<我が軍の戦闘力を増強せよ>

(シーン3-2)


「は…?」


あっけにとられているマケルロイ教授、体と顔をこわばらせているバーナビー、意表をつかれているアーロンたちの隙をついて、サイディスがゆうゆうと続ける。

「語句数が揃っていません。脚韻の統一の意識が全くありません。つまりリズムが良くないし、内容もちぐはぐだ——なぜ2行目で勝利を確定しておいて最後の行で軍備を増強するのか?これでは勝利や平和ではなく、軍備増強を目指していると捉えられる」

そうそう、それが言いたかった。 いや、僕は言うのを我慢した。サイディス君、なぜ我慢しないんだ…!?


「無礼だ。何なんだ君は?名前と学校名もしくは務めている企業名を言いたまえ」

マケルロイは20秒くらい呆然として、その間サイディスに言いたい放題にさせてしまっていた。やっとのことで言葉を取り戻したようだ。


「無礼なのは確かにそうでしょうね。でも、僕の名前を言うかどうかはバーナビーさんに許可をもらわないといけません」

「ビリー、批判意見を持つのは良いが順序と礼節を守れ。そして建設的な批判をしろ。減点2だ」

バーナビーが立ち上がってサイディスを叱った。


——減点制度は初耳だし、バーナビーがサイディスを愛称で呼ぶのも初めてだ。本名をできるだけ隠そうとしている?…そしてバーナビーはマケルロイに向き直る。

「非礼はお詫びします。私の監督不行き届きです。申し訳ありません。しかし秘密作戦である関係上、教授には彼の本名や素性を明かすことはできず…」

「秘密じゃなくしてやっても良いんだぞ?」

バーナビーの謝罪と言い訳に被せて、マケルロイは脅しのようなことを言い出した。


「それは、困ります」

「そうだろう、ならば…」

「その場合、教授がマスコミに知らせる前に私にはロッジ議員に知らせる義務があります」

バーナビーの返答もまた脅迫めいている。

(やばいやばいやばい!)

やばいけど、アーロンにはどうすることもできない。


「大変困った事態ですね。お互いに」

「ぬ…」

一瞬言葉を失ったマケルロイ。

大統領についで、アメリカの政界で2番目の権力者であるロッジを、敵に回したくはないのだろう。


「…ならば、名前を聞くのはまた後日としよう」

「ご理解いただけて大変恐縮です」

「いずれアメリカ中がその名を知ることになる英才なのだろう、とも考えられる。ロッジ議員が抜擢したくらいなのだから」

「教授のご高名ほどではありませんが…」


2人のあいだで皮肉の応酬がされている。


「ただし、まだ納得はしていないからな。彼が不忠義な思想を隠してロッジ議員をたばかり、それでこの場にいるのなら、秘密作戦とやらの開始前に排除すべきだ。アメリカの正義を批判したのは事実だ」

「正義を批判してなどいませんよ。ポエムの出来が悪い、と言ったのです」

サイディスが悪びれずにまた口を挟んでくる。

なんでそんなに燃え上がってるのか…昨日の議論ではずっと冷静だったじゃんか…。

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