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<第一部 マンハッタン島編 第七章『最大公約数』シーン2-4>

(シーン2-4)


プリンストン大学の歴史学教授、という肩書きが持つ意味は重い。

アメリカで4番目に古いその大学は単なる有名大学ではなく、名家の御曹司や政界の子弟が通う、いわば“アメリカの品格の基準となる人材”の育成所だった。  

学生たちは礼節と信仰を重んじ、粗野な冗談ひとつで退学になるとも噂されるほど、品行方正の伝統を誇っていた。

パイン少尉とフォレスタル中尉という、いまこの場にいるプリンストン現役生と卒業生の2人は、軍人だからという以上に、まさに正しい姿勢、正しい表情、正しい態度でマケルロイの講義に聞き入っている。


正しさが求められるのは当然プリンストンの教授陣も同様で、品格・学識・信仰の三拍子がそろわなければその聖職は務まらない。

そのなかでも歴史学の教授職は、他ならぬウィルソン大統領自身が、プリンストンの学長を兼ねる教授だった時代に、大いにその格を向上させた。

単にお行儀よく保守的な教え方をするお坊ちゃん先生ではなく、現代政治と世界中の歴史に広く深く通じ、積極的に提言を行い政策と世論に指針を与える“国家の顧問”のような存在へと変貌させたのだ。


(このマケルロイ教授も、いずれウィルソン大統領みたいに政治家になっていくつもりなのかもしれない…)

いま目の前で、弁論大会出場者のようでもあり教会の説教師のようでもある演説を(うた)い上げているマケルロイを見ると、そう思わずにいられない。


「世界は民主主義のために安全でなければならない――そうウィルソン大統領は宣言した――。ちなみに私は大統領と同じく長老派の牧師の家庭に育ったのだが…、そしてその安全状態、つまり永遠であるべき平和は、政治的な自由という確かな土台の上に築かれねばならない。この土台をつくるのに、どうしても努力と犠牲が必要だった」


たまにマケルロイの自己アピールが混じる感情豊かな講義を聞きながら、トマスの死をまた思い出してしまいそうになる。それを振り切る為にも、バーナビーの暗号についての思考に集中する。

最大公約数が1になるふたつの数字は、要するに、そのふたつを共通して割り切れる数(公約数)が1しかない。14と21ならば、1と7が公約数になる。最大公約数は7だ。14と28なら、1と2と7と14が公約数になる。最大公約数は14だ。


「ニーチェの超人思想と神への冒涜(ぼうとく)はすでに打ち砕かれた。超人にしか生きる権利がないなどということはない。そして現在の大戦は、――勝利しつつある今の戦争は、強い国家、超国家でなければ生きる権利がないという、ドイツ皇帝(カイザー)の傲慢な思想を打ち砕くための戦いなのだ!」

マケルロイの講義は熱を帯びているが、残念ながら調査団メンバーには上滑りしている。


13と14は公約数が1しかない。14と15もそうだし、13と15もだ。

最大公約数が1、というのは共通点や妥協点が少ないことを表す。アーロンたち十四か条調査団とマケルロイの国家安全保障連盟は、ウィルソンの十四か条を挟みこんで13と15の関係なのではないか?

(バーナビーさん、それを言いたいのかな。“まともに受け取るな”“真面目に聞いているふりだけしてろ”)


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