表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/114

<第一部 マンハッタン島編 第六章『黒い真実、白い嘘』シーン4>

(シーン4)

9月24日 午前7時ごろ

地下階まで行き、細い廊下をクネクネ曲がると焼却炉があった。書類を放り込み、点火する。マッチの場所はバーナビーが教えてくれた。

(サイディスは頭脳労働だが、ボクは肉体労働担当だ。バーナビーさんのなかでそう決まっている)


『十四か条調査団は人種差別を否定する』

――バーナビーは昨日、高らかにそう宣言した。だが、人種平等は、彼にとってはウィルソンの弱点を突くための手段であり、計画をスムーズに進めるための合理性でしかない。信念や理想や、目的ではない。

昨日の午前中は、敵国語であるドイツ語を躊躇なくエリスたちに教えてくれた。それは交渉や尋問に必要だからであって、平等意識があるからではない。

(食堂の問題もそうだ。秘密計画だから抗議デモはできない、それはわかる。でもバーナビーさん、仮にたったいま計画が中止になったとしたら、あなたは来週のデモには参加するだろうか?)

全てを能力と実績で判断しているようでいて、バーナビーは人種差別的な先入観から逃れ切れていない。それに気づけるのはたぶん黒人だけだし、気づかないふりをできるのは、黒人の中でも穏健派として育てられた一握りだけだ。


(『Reco, without, Reco』)

“塾”の合言葉をまた心の中だけで唱える。今は亡きワシントン博士が教えてくれた詩術(しじゅつ)。世界平和のための呪文。焼却炉の中で、強くなっていく炎に巻かれて紙が黒く焦げていくのを確認する。

(そして、『主題を見出せ。教訓を見出せ。筋書きを見出せ』、か。――教条だと『この学校で教えられることに、主題・教訓・筋書きを見出してはならない』なのに)

“塾”の創始者のひとり、トウェイン導師が掲げた教条のひとつが、今回のスコット先生からの指令では反転されている。もともとが矛盾に満ちた教条だっただけに、反転した後でも何か、その奥の意味を考えたくなる。


……少し、ほんの数秒だが長く炎を見つめすぎて、バーナビーたちに不審に思われたかもしれない。そう思いながら、そう思ったことを悟られないように気を付けながら、焼却炉の蓋をエリスは閉めた。


<第一部第六章『黒い真実、白い嘘』完。第七章へ続く>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ