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<第一部マンハッタン島編 第一章『冒険への召命』 シーン5-1>

(シーン5-1)

9月19日午前8時40分ごろ

部屋に入ると、バトラー学長に加えてデューイ教授とシュナイダー教授までいた。シュナイダーは26歳でアーロンとは3つしか変わらず、教授陣のなかでは大学内で最若手だ。アーロンからすると天才としか思えない先輩学者だが、アメリカどころか世界的に高名な大学者二人の圧力を避けるように、部屋の隅で縮こまっている。


「来たか」

最初に口を開いたのはバトラー学長だ。

「アーロン・ネイバーフッド君、ヨーロッパに行ってくれ。バチカンだ」

「バトラー、さすがにそれは省略しすぎだろう」

と牽制したのはデューイ教授。

「これで理解できるくらいの能力を求めている。マニング君はこれでだいたい理解してただろう」

「マニング君とネイ…いや、アーロン君では前提知識の量が違いすぎる」

少し話がそれるが、アーロンの苗字ネイバーフッドは自他共に認める「普段の会話の中で呼びづらい苗字」だ。

(『私はネイバーフッド(お隣さん)です』ってどういうつもりで名乗るようになったんだよ)とアーロンもご先祖様を恨んでいる。だから、多くの場合ファースト・ネームで呼ばれており、デューイ教授ほどの超インテリでもその例に漏れない。…それはわかるのだが、アーロンにはいま進行中の話は全く分かっていない。


「知識の量は能力だ」

「ではバトラー、君が行け。私は無理だぞ、ジャパンに行くから」

バトラー学長がデューイ教授をにらむ。この二人には、仲が悪いという噂が絶えない。

「では、ヒントをやろう。君のこの論文にかかわりがある」

「バトラー、急いでいるのか回りくどいのかどっちなんだ?」

数枚の原稿用紙をまとめて掲げたまま、バトラー学長が露骨に顔をしかめる。逆に、仲が良いのかもしれない。

そんなことより、学長が持っている原稿には確かに見覚えがある。やばい。

「それって僕の…」

シュナイダー教授のほうをうかがう。目をそらされた。

「そうだ。ウィルソン、ルーズベルト、デブス。特にウィルソン大統領への論考が、君が抜擢(ばってき)される理由だ」

アーロンが半年前に提出した小論文、『従軍記“The Rough Riders”を宗教的書物として読むことの可能性について』だ。


――20年前、米西戦争(※キューバやフィリピンの領有をめぐって起こったスペインとの戦争。1898年)で『ラフライダーズ』を率いて大活躍し、戦場体験記を出版して大ヒットさせ、結果的に大統領まで上り詰めたテディ・ルーズベルト元大統領。1917年、世界大戦終結のためにアメリカの参戦を決め、今は国際的平和組織の設立に邁進しているウッドロウ・ウィルソン現大統領。さらに、大統領選に何度も出馬した社会主義者で、ここ数年でさらに人気上昇中の社会党ユージン・デブス――その三人を、なんとまぁ、宗教指導者として評価しようと論文のなかで検討していた。半年前に気になっていたことをごった煮にして宗教要素をこじつけただけの、苦し紛れのギャグみたいな論文だった。受け取ったシュナイダー教授も(当時は助教だったが)微妙な顔をしたまま、ほぼノーコメントを貫いていたのに、それを今さらどうして学長たちが?

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