<第一部マンハッタン島編 第一章『冒険への召命』 シーン4>
(シーン4)
9月19日午前8時30分ごろ
大学前の並木道を抜けると、マニング先輩が珍しく外にいる。もっと珍しいのは、髪や服装が整っていることだ。いつもぼさぼさの髪で研究室に根を張っているのに今日はネクタイを首元まで締めて、アルマ像のそばで空中の何かをみつめている。目が合った。
「来たか、アーロン。一緒に学長室へ来てくれ」
「げっ」
向こうから話しかけてくるのも、珍しい事態だ。今日は珍事ばかりだな。
「なんだその顔は」
「先輩こそなんですか、そんなにきっちりしちゃって」
「学長の呼び出しだからだ」
「冗談ではないってことですか?先輩にしてはおもしろくない冗談だな、とは思ってました」
「俺は冗談なぞ言ったことはないぞ」
本気とも冗談とも取れない不思議な雰囲気が、この先輩にはいつもある。
「酔っぱらったときは、友達のロシア人と銃撃戦したみたいな話をいつもしてくれますが」
「まずいな、軍事機密の漏洩をしてしまっているのか…」
「おもしろ。そういうところですよ。それより、お金貸してくれません?DDに、家賃を建て替えてくれって言われちゃって」
「ん?あぁ、あとでな」
(貸してくれなさそうだな…)
「あれ?DDといえば」
「どうした?」
「いや、すみません、ちょっと思い出したことがあって。先輩は関係ない…はずです」
「ふーん、君もやるねぇ」
「なんなんですかそれ…」
アーロンが思い出していたのは、先ほどのネイティブアメリカンのカウガールのことだ。DDに連れていかれたユージン・デブスの講演会で、見かけた気がする。そのときはカウボーイハットはかぶっていなかったが…。
話しているうちに、学長室の前に着いていた。入るのは去年の個人面談の時以来だっけ?バトラー学長、なんか高圧的で苦手なんだよな。
シーン5以降は9月20日に投稿予定です




