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<第一部マンハッタン島編 第四章『懺悔室の手記』シーン3-5>

(シーン3-5)

〈この大戦において、大統領が決断した参戦によって、多くの若者を戦場へと送り出すこととなり、極めて大きな悲しみがアメリカにももたらされました。それもたしかです。ですが、彼なりに考えつくした正義と秩序のために選んだ政策と理解しています。教会も、大統領の決断を支持し、兵士たちの働きを祈りで支えております。だから、息子よ、あなたの友トマスの犠牲も、そしてあなた自身の務めも、決してむなしいものではありません〉

アーロンの父マッケンジーは、共和党政権にも民主党政権にも、鉄鋼や自動車や石油や運輸の大企業にも、もちろん教会組織にも批判的だった。ジュニアハイ(中学生)になったあたりから、父の話にまっすぐ耳を傾けることはなくなったが(同時に父も多忙になったが)、逆に幼いころに父の膝の上で聞いたキリスト教会論が、根深くアーロンの中に残ってしまっている。


「…大統領選の時、2年前(1916年)、ウィルソン大統領は“参戦しない”って公約してました。僕は大学での研究に夢中で、そのときの選挙にちゃんと向き合えなかったけど…人生初の投票だったのに…同級生に促されるままに民主党ウィルソンに投票して…あれ?トマスはどっちに投票したんだっけ?…でも、僕らの世代はみんな、ウィルソン大統領が公約をなかったことにしたことを、絶対に忘れないと思います」

“みんな”とか“絶対に”とか、何を根拠に言ってるんだろう? 自分の言葉の弱さに気づいてしまって、アーロンは誤魔化すようにこぶしを強く握りしめた。大統領選の投票の時に、父に相談したかった。アメリカの参戦が決まった去年の4月は、そう思わずにいられなかった。

〈息子よ、その胸の痛みはよく分かります。たしかに、大統領は選挙のときに“参戦しない”と約束した。だが、戦の炎は予想を超えて広がり、この国もまた信義をとるか正義をとるかの決断を迫られたのです。その変化をどう受け止めるかは、人それぞれの良心と記憶に残り続けるでしょう〉

もちろん、その通りだと思う。誰も何も間違えてない。もしくは、誰も何も正しくない。


〈ひとつ、あなたに伝えておきましょう。大統領はもともとは“トマス・ウッドロウ・ウィルソン”でした。しかし彼は、理由は定かではありませんが、大人になる前に『トマス』を名乗らなくなりました〉

それは初耳だ。有名な話なのだろうか?それともこの神父さんが博識なのか。


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