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<第一部マンハッタン島編 第四章『懺悔室の手記』シーン3-3>

(シーン3-3)

答えを聞きながら、アーロンは自分が尋ねたかったことを思い出していた。

「しかし、神父様、告白しますが、僕は神を信じていません。小説の主人公と、その点ではたしかに同じです。それ以外の点だって…」

〈息子よ、それは珍しいことではありません。多くの若者が、そのように打ち明けてきました。だが覚えておきなさい――人が神を信じられないときでも、神は人を見捨てはなさらないのです〉

そういうものなのかな…。思えばアーロンは、同年代の友人と信仰の話をしたことはほとんどなかった。“アーサー王とダビデ王とサムソンの誰がいちばん強いか”みたいな話ならすることもあったけど、それは信仰の話ではない。ジャック・ジョンソンがいちばん強い…って言ってた同級生がいたけど、ボクシングのチャンピオンって、巨人(ゴリアテ)に勝てるのか?


〈思い出してごらんなさい。使徒ペトロでさえ、鶏が鳴く前に三度、主を知らないと否んだのです。恐れに負け、信仰を手放した。(マタイ26:69~75ほか)けれども復活の主は彼を探し出し、赦し、再び羊の群れを託されました〉

たしかに、聖人ペトロもずっと聖人だったわけではない。


〈また、十字架の上の強盗のひとりは最後の瞬間まで神をあざけっていましたが、もう一人は心を開き、ただ“御国に入るとき私を思い出してください”と願いました。その言葉にイエスは応え、“今日、あなたは楽園にいる”と約束されたのです(ルカ23:39~43)〉

たしかに、強盗だからと言って悔い改めないわけではない。


〈だから、たとえ今は信じられなくても、神はあなたを信じ、あなたの魂に呼びかけ続けています。信仰は強さではなく、神の手にすがる弱さのうちに始まるのです〉

「でも、小説の主人公よりもっと罪深いかもしれないのは、神を疑うことを楽しむ気持ちが僕にはあるんです」

自分の悩みって実はありふれているのかもしれない、と思いながら、アーロンは一歩踏み込んだことを言ってみた。無意識に体が動いて、椅子と床がこすれた音がした。


〈……ふむ、それは少し珍しい告白ですね〉

数秒の沈黙があった。ありふれてはいないらしい。


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