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<第一部マンハッタン島編 第四章『懺悔室の手記』シーン2>

(シーン2)

9月22日午後2時20分ごろ

スペルマンという名の若い司祭からは「2時半にまた来てください」と言われていた。西側の正門からではなく、北側の51番通りの入り口から入る。本葬儀に備え、紫と黒の喪式装飾がすでにつけられ始めている。堂内中央に安置された棺は人ごみに隠れて見えない。誰もほとんど声を発していないが、それでもこれだけの人数が屋内にひしめいていると、微かながら喧騒を感じる。


入って右手に懺悔室が複数並ぶ一角がある。そして、…あぁ、前回と違って白いスーツを着ていないので気づくのが遅れたが、会いたくなかった男がいた。金髪碧眼、鋭い顔つきとねばりつく目つき、『白の組織』のダブル・ホワイトだ。


ダークスーツに黒のネクタイをし、周囲と同じく弔意を服装で示しているダブル・ホワイトは、アーロンが気づいたときにはもう数メートルの距離にいて話しかけてきた。


「木を隠すなら森の中。今日は木登りできる木がないね」

“木を隠すなら”はたしか、『ブラウン神父』に書いてあった一節じゃなかったっけか…

「そして人を隠すなら人の中、だ」

アーロンは答えられない。前回は木に登って隠れてたのをやはり気づかれていた。でもなぜそのときには去っていったんだ?

「今日のこの状況だと、これ以上の“相談”はできないね。君は賢い」

…だめだ、びっくりしすぎて思考が一手以上遅れている。

「君に協力してほしいというのは変わらない」

まだアーロンは言葉を発せられないままだ。

「でも、君は……部屋から出てこられるのかな?」

部屋?懺悔室のことか?

「懺悔室のことじゃないよ。地下室のことだ」

アーロンの肺と胃がぎゅっと潰れる音がする。冷汗が背筋を伝う。

「なぜ、…なぜ」

なぜ『地下室の手記』をさっきまで読んでいたことをあなたが知っているのか?…そう言おうとして口をパクパクさせる。

「君に興味があるから、どんな本を読んでるかも気にするさ」

昨日、自室に侵入者の痕跡があったような(なかったような)気がしたことを思い出した。もし、今日も侵入して本棚の本が昨日から減っていることを発見したのなら、アーロンが持ち歩いている本の推測も容易だろう。

「地下室から出るのって、結構たいへんだろうと思うよ。マンハッタンから出るのもね」

敵の組織はどれほど強大で周到なのか、そもそも敵なのかなんなのか、アーロンは考える手掛かりがなく、やはり何も答えられない。

「じゃ、また明日。神父さんもお忙しいようだから、早く入ってあげて」


…二度と会いたくない…アーロンの意識の中で、やっとはっきり言語化されたのはその思いだった。


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