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<第一部マンハッタン島編 第三章『セレクト・ユア・ポリシー』シーン3-1>

(シーン3-1)

「なんだその、センス・オブ・ワンダーって?宗教力はデュルケームか?」

デュルケームのことを知らないコロンビア大学生はいないらしい。

「えーっと、ドクターH.G.が考案した言葉でして」

「受け売りじゃなくて、自分の言葉で説明してくれ。宗教力もだ」

「……」

おとといのようにこそこそと(先輩は堂々と)食堂に移動してから、アーロンの人生最愛の書がこのマーク・トウェインの二冊であること、幼馴染のトマスとトム・ソーヤーを昔から重ねていたこと、先月トマスが戦死したと知ったこと、なぜだか『トム・ソーヤーの冒険』が自分のヨーロッパ行きに重要であるという気がしているということ。…を、夕食をとりながらゆっくり説明した。昼食の残りの、冷めたローストビーフがあった。久々の肉でありがたかった。


「そういう、“理屈がないこともない直感”を表すのがセンス・オブ・ワンダーってことか」

先輩は納得しているが、そればかりでもない気がする。


「宗教力を感覚するのがセンス・オブ・ワンダー、というのはどうだ?この二語は対応するんだ」

「いや、うーん…二つともまだあやふやなので…」

他人の仮説だと好き勝手なことを言えるよな。言われたほうは真剣に検討しなきゃならなくなるのに。


「あやふやだからこそ方向性を決めないと。翻訳みたいなものだ」

「翻訳…ですか?よくわかりませんが」

マニング先輩は東スラヴ語(ロシア語やウクライナ語など)の研究が専門で、すでに博士号を取っている。今は情報部の所属だからかまだ助教授にもなってないが、いずれシュナイダーと同じく教授になるだろう。

「まず由来を考えろ」

おもむろに立ち上がったマニング先輩。

パンをさらに二切れ、皿に載せて持ってきて、

「こっちのパンは『宗教力』だ、もう一つは『センス・オブ・ワンダー』だ」

と無理のある例えを始めた。そのパンはどっちも同じ由来じゃん?

「片や、フランスの超有名な社会学者が提唱した、社会に存在しているらしい集団的なエネルギー。片や、アメリカの売れない作家(ドクターH.G.=ヒューゴー・ガーンズバック)が発案した、実感か錯覚かもかわからない何らかのフィーリング」

だいぶ違うものに思える。


「だが、アーロンは近しい概念だと感じているのだろう?」

「そうですね」

ふた切れのパンはほとんど同じに見える。

「宗教力とセンス・オブ・ワンダーは近しい、けれど同じではない、という直感。何らかの対応関係がある…因果であったり包摂であったり…つまり、」

片方のパンを手に取るマニング。


「パンと小麦だったら"原材料"の関係、パンと食べ物だったら"カテゴリー"の関係、パンとバターを塗ったパンだったら"可能性"の関係、パンを食べるという"行為"、パンを食べる前にちぎるという"手順"…」

パンをちぎるマニング。

「宗教力(religious force)はForceで、センス・オブ・ワンダーはSenseだ。味や満腹感といった”感覚”の関係になりそうだと思うがね」

言い終わって、ちぎったパンを口に放り込むマニング。

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