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<第一部マンハッタン島編 第一章『冒険への召命』 シーン11-4>

(11-4)

「いや、あれは間違いなく廃棄物置き場だったから大丈夫だ」

それでも窃盗なのは変わらなかった気が…どうだっけ。

「メモを置いてきた。“しばらく借ります H.G.”」

「うーん…」

本当かなぁ?

「圧電素子としては不安定で、入力された声がはっきり出力されたりノイズまみれだったりする。今のところ使い物になっていない」

「それが、なぜ役に立つと?」

「どう使えばいいかわからんからさ。状況がわからないのだから、わからないものが対策になるかも」

「うーん…」

論理的じゃない。

「あの発明王エジソンがSuperなんていう名前を付けて保管してたんだぞ」

「さっきは廃棄物置き場って言ってたような…?」

「小さい瓶だし荷物にはならんだろ、な、持って行け」

「(盗みの事実ごと)押し付けようとしてません?」

「センス・オブ・ワンダーだ」

「うーん…」


トムソーヤーも、ビー玉だとか曲がった釘だとか、役に立たないものを宝物にしていたっけ。トマスも僕も、ジュニアハイまではそういう具合だった。ゴミ捨て場で宝物を見つけたことも一回や二回じゃない。

ティーンエイジャー(10代の少年)になってから、僕は宗教やフィクションの歴史という、ある意味では役に立たないものが大切に思え始めた。一つ年下のトマスは、僕の思い付く宗教解釈や最近読んだ冒険小説のあらすじを、バカにせずに、時には目を輝かせて聞いてくれた。

トマスは“テディみたいな強くてカッコいい将軍になるんだ”と、子供じみているけれど社会の役に立つだろうモチベーションを持ち続けていた。士官学校にいかずに僕のいるバージニア大学に進学する、と言ってきたときは驚いたけど、

「テディはハーバード大に行ったじゃないか」

と平然と言われた。たしかにそうだ。そして、(いま)僕が通うコロンビア大学にテディ・ルーズベルトは転学している。

トマス、頭も良くて体力は無尽蔵で、そしていつも明るいナイスガイだった。戦場で将軍になれたなら、テディみたいに大統領になってたかもな……。そんな、とりとめもない考えを巡らせていると、手の上の小瓶がほんの少し、ふるえたような気がした。


一晩泊めてもらい、翌土曜の朝、ガーンズバックと別れた。雨は夜のうちに止んでいる。

昨夜の夕食も今日の朝食も、数切れのパンにマーガリンを塗っただけ、それだけだった。蛇口から出る水をがぶがぶ飲んで飢えを誤魔化すことが、ニューヨークの水道水ならできると教えてくれたのはドクターだ。DDの家賃の件は頼めない。

「無事に帰って来いよ、アーロン君。センス・オブ・ワンダーだ」

「ありがとうございます。センス・オブ・ワンダーですね」

この人とはまた会いたい、。アーロンは素直にそう思えた。

(1918年9月20日終了。翌日へつづく)

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