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<第一部マンハッタン島編 第一章『冒険への召命』 シーン11-3>

(シーン11-3)

――3週間ほど前、夏季休暇でリッチモンド(バージニア州都)に帰省していたアーロン。街中で、トマスの弟シドニー・ジェファーソンに久々に再会した。シッドは寂しげに笑い、兄のトマス・J・ジェファーソンがフランスのなんとかいう土地で戦死した、と伝えてくれた。

すぐにジェファーソン家にあいさつに行った。ニューヨークへ帰る前日で、他の予定もあったが関係なかった。アーロンへの恨み言など、その家の住人たちは一つも言わなかった。アーロンがトマスと徴兵回避枠を競っていたことはみんな知っていたはずなのに。


「ボクの小説は、人物描写をいつも批判されるよ…つまり、」

ドクターから優しさがつたわる。言葉を選んでくれている。

「…つまりキミが、どういう理由で、ヨーロッパへ行こうと思うのか、うまく推測できないんだ。それがわかれば、助言できることもあるはずなのに」

「僕自身にも…」

わからない。トマスがどう戦ってどう死んだか知りたい、というのはある。だがまだ戦争は終わっていない。学業を中断して得体のしれない計画に参加する理由になるのだろうか?だからそれ以上の何か、ドイツ軍だか誰だか知らないがトマスの仇を討ちたいのか…、…もしかして、トマスのように死にたいのか?そんな、犠牲の美化をこれまでの自分は肯定してきただろうか。ウィルソン大統領のやろうとしていることは、幾万のアメリカ青年の死の価値を今よりも高めてくれるのだろうか?わからない。それを阻止したいと考えるロッジ議員の思惑は?それもわからない。


「これはもはや勘だがね、いやセンス・オブ・ワンダーだがね、……ちょっと待っていてくれ」

言ってドクターは、部屋の隅のガラクタじみた機械の山をガサゴゾガラガラドサドサパキッ「やべっ」…ガサゴゾガラガラ、とひっくり返し始めた。

「あったあった、これだ」


黒っぽい粉の入った、小さいガラス瓶を渡してくる。

「今何か割れたような音が」

「気にしなくていい。これが何かの役に立つかもしれない。センス・オブ・ワンダーだ」

小瓶には『Super-Basaltスーパーバサルト』というラベルが貼ってあり、ドクターによるとその粉は確かに玄武岩(Basalt)と近い物質なのだが、圧電素子としての性質があるという。音波で振動したときに電気を発生させる物質のことだ。最近マイクの音質をよくする研究をしていて、エジソンの研究室を取材で訪れた際にちょろまかしてきたのだというが、それって窃盗なのでは?

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