<第一部マンハッタン島編 第一章『冒険への召命』 シーン11-2>
(シーン11-2)
「これはセンス・オブ・ワンダーだが、アーロン君、キミはもう、どうするかを決めているのではないかね?」
「センス…ってなんですか?」
「最近思いついて、流行らせようと思ってね、どう思う?」
「また新しい言葉なんですね」
「仕事だからね。趣味でもあるが」
「センス・オブ・ワンダー、響きは結構好きですが…意味は、とらえどころがないですね」
「そう、そこが良いと思うんだよ。で、どうなんだ?」
「…なんでしたっけ」
「はぐらかしたいのかい?わかってるだろう」
わかっていた。見抜かれたのはセンス・オブ・ワンダー(不思議の感覚)とかいう、センスなのだろうか。たしかにアーロンは、ロッジの依頼を引き受けてヨーロッパへ行こうと思っている。
「トマス、という僕の親友のこと、前に少し、話しましたよね」
「覚えているよ。幼なじみで、バージニア大学でも一緒に通ってたって」
「そう…徴兵されたという話もしたと思うんですが…」
1917年4月。アメリカはヨーロッパの大戦への参戦を決め、徴兵令が発布された。アーロンは一生、あの季節を忘れないだろう。
「うん。君と徴兵回避の枠を競って、君が僅差で勝ったのだ、と」
「ほんの幸運でした。トマスも僕の卒論を手伝ってくれたし…」
「キミもトマスを手伝った」
「…だから、幸運でした」
アーロンは、少し黙った。通電しているという、銅線を見つめる。ほかの銅線と見た目は何も変わらない。
「センス・オブ・ワンダー。いや、茶化すべきではないか」
「…察していただけましたか」
「すまない、思いついたことを言いたくなる。作家としてのサガだろう」
ドクターは、少し息を継いで、
「…トマス君は、戦死したんだね?」
「はい」
二人は、少し黙った。外ではまだ雨の音がしていた。
シーン11-3以降は9月27日投稿予定




