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<第一部マンハッタン島編 第一章『冒険への召命』 シーン11-1>

(シーン11-1)

1918年9月20日金曜日 午後6時ごろ

グリニッチビレッジにやってきた。アーロンの住むロウワーイーストサイドとは、ワシントンスクエアパークをはさんでマンハッタン島の東西反対側だ。南北に細長い島なので反対側と言っても2マイルも離れてない。(※1マイルは約1.6km)

この一角には文学者や芸能関係者が多く住んでいる。アーロンもマンハッタンへの転居時に興味はあったが、家賃の問題でロウワーイーストサイドを選んだ。

目的の階につき、エレベーターが「チン」となる。雑誌編集者だが発明家でもあるその気の良い変人は、部屋の外にまで大量の怪しげな機械をはみ出させている。よく水を切ってから、傘を機械がかろうじてない箇所に立てかける。ドクターはラジオ電波通信を長年研究している。陸軍情報部のマニング先輩なら、まだ一般的な実用化に至っていないラジオ通信のことをドクターより詳しく知っていそうだ。…教えてはくれないだろうけど。


「ドクター、いますか。アーロンです」

呼び鈴を押し、声もかける。

ガタガタ、という音が中から聞こえて、ドアを開けてくれた。

「待っててくれ、今すわる場所を作るから」

左翼系の新聞記者だった父は数年前、社会の激変に文字通り忙殺された。父がラジオ通信に興味を持ち、寄稿したり文通したりしていたのが、ニューヨークに住むヒューゴー・ガーンズバックだ。まだ30代で余裕のある生活でもないはずなのに、アーロンの住居を手配してくれたり、校正のアルバイトをさせてくれたり、何かと世話になっている。


狭い部屋は機械に占拠されてさらに狭くなっている。座る場所、といっても、アーロンの尻がおさまるギリギリのスペースしかない。まぁ、アーロンにとってはいつものことだ。

「そことそこの銅線は通電してるから、触らないようにね」

前回のときにはその警告がなくて感電した。覚えていてくれたようだ。


アーロンが書いたギャグじみた論文やロッジからの依頼、ホワイト・ハーストという男に襲われ、ネイティブアメリカンのカウガールに助けられたこと…まるで現実ではないような支離滅裂なストーリーだが、非日常的な考察が日常であるドクターH.G.は、興味深そうに聞いてくれる。彼自身はScientifictionサイエンティフィクション『科学的空想』という言葉を提案したことがあるが、アーロンの話はそれに近いだろう。

(※この言葉はのちの時代でScience-Fictionサイエンスフィクション『空想科学』と少し変化して、一大ジャンル『SF』になっていくことになる)

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